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「それに、だ。そう言うことあんまり言うのもどうかと思うぞ?ぼくみたいな初恋を大切にするタイプには特に逆効果だぞ。嫌いになりかねんぞ」
「なんでですか⁉うるさい人はダメですか!」
ちょっとしょぼんとした感じで牡丹はそう言う。
「ダメです、嫌いになりました、って言ってもついてくるだろ」
「もちろんです!」
さっきのしょぼんとした顔どこ行った……?
そんな風に、牡丹にボロボロに振り回されながらぼくは一つ、彼女に話を聞いてみようかと思う。
もちろんその話の内容は、あの件の男のことだ。
「なあ、この学校の生徒で人探ししてるんだけど、聞いてくれる?」
「もちろんいいですよ?そうですね~、デート一回で話聞きますよ?」
彼女は二つ返事でそう言った。
「あ~、はいはい、それでいいよ」
「えっ⁉本当ですか⁉今までさんざん拒み続けてきたじゃないですか!遂に挙式ですか⁉先輩のお嫁ちゃんになっちゃうんですね、ボタンちゃんは!」
そう、今までもこういうノリでこういう話なることは多くあった。
今日にいたるまでの約1年ないくらい、ぼくはそれをずっとしっかり、ふざけるな、いい加減にしろ、ぼくには初恋がいる、と断ってきたが、今日はついにそれが億劫になった。
だから、こんな適当な返事をしたのだが、断らない時より面倒な方向に行ったらしい。
どうやったらそんな思考回路になるんだか……。
「飛躍しすぎだよ。なんでそうなるんだ。はい、嫌いになりました」
ぼくは、完全に呆れたということを表情にも態度にも前面に表して、牡丹にそう言う。
「でも、ボタンちゃんは先輩と結婚します」
「嫌だが?」
「苗字くれるだけでいいですよ?」
「だ、か、ら、いやなんだけど?」
「子どもは5人で許してあげますよ?」
「願い下げだって」
「お金の心配はしなくていいですよ、ボタンちゃん稼げる女なので!」
「話を聞け」
「式はいつあげま——」
「話を聞け」
勝手に話を飛躍させ、周りの人に五回しか与えない言動をしている彼女の言葉を遮り、彼女の両頬を両手で挟んで、彼女の視線をぼくと合わせて、もう一度ぼくは言った。
「ぼくの話を聞きなさい」
「は、はひ……」
ここまでしてやっと黙ってくれた牡丹の顔を見て思わず、はあ、とため息が出る。
「大体なぁ、なんでいつもこういうことになるんだよ。どうしてそう言う話に持っていきたがる?いい加減にしてくれってぼく何回も言ってるよね?二度と関わってほしくないだなんていわれないだけまだ温情だからね?これ以上やるんだったら——」
ぼくの説教は、途中で彼女が人差し指をぼくの口に当て暗に、黙れ、と言うかのように嫌悪した顔でぼくの方を目を細めてみてくるので中断せざるを得なかった。
ここで引き下がるのもどうなんだと言われてしまうかもしれないが、ここで黙らないのも、周りの状況を見て無理だった。
痴話げんかしてるようにしか見えないのもつらい。
下手したら顔から火が出るかもしれない。
「あ~あ~、もういいですって、分かりました!わかりましたって!ボタンちゃん聞き分けのいい子ですからわかります。ボタンちゃんのことを思って説教してくれている先輩の愛を感じれてますからいいです。デート一回でいいですよ。それで先輩堕としますから」
「だから、初恋いるんだが?」
「ボタンちゃんだっていますよ?それくらい。だから何です?そんなのこうですよ、こう、こう!」
そう言って牡丹はシャドーボクシングをして見せる。
誰にも勝てなさそうって言うのがすぐに出た感想だけども。
「それで?話って言うのは?」
「ああ……今空気悪いな。あとでいいか?お弁当食べる時間も無くなりそうだし」
「なんでですかね?」
ぼくはもうツッコまない。
話をここでややこしくするのは得策じゃないのは明らかだし。
「まあ、放課後会いに行くから」
「先輩の方から来てくれるなんて!ボタンちゃんいい子で待ってますね!それじゃーです!先輩!」
そう言って、手を振って去っていく彼女だったが、階段を上り姿が見えなくなるその瞬間まで5回ほどこちらを振り返ってきた。
人懐っこいんだか、わんころみたいというのか……距離が近いんだな。
彼女がいなくなったのを確認してからぼくは大きく息を吸ってから、それと同じくらいの大きさで、はあ、とため息を吐いた。
ぼくは手を洗ったのちすぐに教室に戻ってお弁当を食べ始めた。
そんな会話の後に食べるお弁当は、とてもじゃないが味わって食べるなんてことはできなかった。
そして、何事もなく時間は過ぎて放課後となった。
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