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急に呼んだ挙句、こんな奴らに会わせてすまないな」
「いや、別に謝る必要ないと思うけど」
ぼくは頭を下げかけている彼女に対しすぐに頭を上げさせる。
「片桐は無礼を働いただろう?私はあいつが心底許せん」
彼女は腕を組み、頬を膨らませて目いっぱい怒りを表現してそう言う。
「そんな怒らなくてもいいと思うけど」
「貴様はもっと怒るべきだ!嫌なことは嫌だと、はっきり言うべきだ!」
「いや、ぼくは怒ってないよ⁉」
ぼくがそう言うと、彼女はぼくから視線をずらして言った。
説教と言うよりは思いのたけを訴えているようにも聞こえた。
「貴様は優しすぎるぞ。貴様の不殺主義にどうこう言うつもりはない、しかし、だ。ここはやらねばやられる。今となっては昨日のことは謝罪してもしきれないが、昨日の私を見ただろう?やつらはあの勢いで迫ってくる。そうでなくては死ぬのだ。貴様を守るのは貴様だ。それを忘れるな!」
「うん、わかったよ」
ぼくはそれだけ言った。
思うところがないわけではない。
事実それでぶつかっている。
だが、それをここ言う必要はないと思った。
彼女を傷つけるのはやはり違う。
ただそう思った。
「……やはり妙だな。この私が感情移入してしまうとは。忘れてくれとは言わないが……恥ずかしいな」
すっと冷静になったように彼女はさっきと打って変わって落ち着いた口調で言った。
「別に録画してないし、昨日全裸写真でも撮るか?とか言ってたやつからそんな言葉が出ることに驚きなんだけど?」
「やはり忘れろ。でなければ今ここで貴様の首と胴が切り分けられるかもしれないぞ」
「なんでそうなる!」
「……どこかで会ったことがあるか、私達は」
「それよく言われる」
ぼくは彼女の言葉を聞いて、サトーの言われたことを思い出しながらそう返す。
人違いはよくあるし、ぼくはどこにでもいる顔、もしくは覚えられないような顔なのだろう。
そんなに誰でも当てはまるような顔しているつもりないんだけどなぁ。
あははと苦笑しながらぼくは彼女の方を見る。
「じゃあ、気のせいか。そもそも会うはずもないか。会うとしたら私が8歳未満の時のはずだしな」
「幼稚園が一緒だったとか?」
「いや、そもそも8歳未満の記憶はない。前にも言ったと思うがな」
「じゃあ、会ってないか」
「だろうな」
そうだな、と彼女は頷いて納得してからまたぼくの方を向き直る。
「貴様はこれから何か用事はないのか?」
「うん、ないよ。今日はもう帰って寝ます」
「そうか、それじゃあな。また明日」
それだけ言って、彼女はまたビルの中に入っていってしまった。
ぼくは、徒歩でシュナを持って家に帰った。
その帰り道で、ロリモードになったシュナに話しかけられる。
「主様主様~のじゃ!」
「どうした~?シュナ」
「明日、あの例の学校で会ったやつに話しかけてみるのじゃ?」
「うん、そのつもりだけど……」
「別に止めるつもりはないのじゃよ!」
シュナはのじゃのじゃ!と首をぶんぶん横に振ってぼくに言う。
「その~、わちきがそばにいられないのが心配なのじゃ……主様のそばにずっといられないのが不甲斐ないのじゃ……」
「まあ、向こうの世界にいるときは事故にでも会わなければ死なないよ。だから、こっちに来たときは頼むよ」
「任せるのじゃ!」
ぼくはシュナを頼ると、シュナはぱあっと花が咲いたように明るい顔になってぼくにそう言ってくれる。
心強い、それになによりかわいい。
守りたいこの笑顔……。
その後、シュナはるんるるんと得意げになっていたたり、のじゃ~のじゃ~と上々な気分だった。
そんな彼女と手をつなぎながら、ぼくは家へと歩いて帰った。




