3-2
ハグレモンは完全にそのアルビノネクロの味方をしているようで、一直線にぼくの方へ向かって来るのがわかる。
左右それぞれからハグレモン、そして正面からアルビノネクロ。
完璧の布陣でぼくのことを仕留めに来ている。
ここは十字路で、アルビノネクロ、ハグレモン側が十字路の交差点となっており、ぼくの後ろには広いとは言えない一本道が広がっているだけである。
要するに逃げられない。
そうするとできること、突破口は一つしかなくなる。
それはどっちかのハグレモンを先に倒すことだ。
数の不利がすでにある状態だから、まずそれを打開しなければならない。
また、アルビノネクロは明らかにハグレモンとは違った剣を持っている。
あれは神剣と考えていいだろう。
と言うことは何かしらの能力があるはずである。
不用意に戦いたくない。
それがぼくの導き出した、落ち着いて考えれば出るような一般論である。
だから、とりあえず右側からやってくるハグレモンからたたく!
そう思ってぼくは、左右にそびえたつ住宅地の塀を蹴って思いっきり体重を乗せて右のハグレモンに攻撃を仕掛ける。
しかし、その攻撃は簡単に受け流されてしまうが、ぼくは反対側に行くことに成功した。
ここで一瞬逃げることを考えたが、明らかに巻けないことを察したぼくはここで徹底抗戦することに決める。
そして、また、さっき攻撃したハグレモンに接近し攻撃を仕掛ける。
その間、ハグレモンの剣とシュナがぶつかる。
さすがに押し切れないか。
そう思ったぼくは、右手から攻撃を仕掛けてこようとするアルビノネクロの姿を察知してハグレモンに蹴りを入れて一旦距離をとり、アルビノネクロの剣を横に振り向いて受け止める。
「アハハ、そんなもんかよ。まあ、防げたのはいい、まだ数の有利ひっくり返ってねえぜ?」
今ぼくの後ろは住宅街の塀、そして正面には剣を鍔競り合っているアルビノネクロ、左右からはハグレモンがぼくに攻撃を仕掛けてこようとしている。
ぼくは、さっきハグレモンにしたように、アルビノネクロの腹部を蹴ってアルビノネクロを後退させる。
その隙ができた瞬間に、ぼくはポケットから1枚のカードを取り出す。
dearFenrir.mk2と書いてあるカードを。
そしてそれを、普通の剣で言うガードや鍔の部分にあるシュナの円形の部分に差し込む。
借りるぞ、君の能力を!
「氷剣の召喚!」
使ってみたものの、シュナに変化はなくぼくにも変化はない。
しかし、そうであっては困るのだ。
ぼくはそう思いつつ自信なさげに、叫んだ、彼女の技を。
「這い寄る結晶!氷原の撒菱!」
両手を地面につけていった。
彼女もそうしていた。
きっとできる、そう信じて。
そして、それはかなった。
左手のハグレモンにはさっき壁を蹴った時に通った後から、氷原の撒菱で出た氷柱が頭を射ぬき、右手のハグレモンには這い寄る結晶の冷気が当たり、今ぼくの右手氷柱になっている、そう簡単には出られまい。
「アッハッハッハ、やるじゃねえか~」
笑い声と共にアルビノネクロはそう言った。
そして、彼は剣先を下におろしてぼくの左手のハグレモンの耳を持って胴体と離れた顔を持ち上げた。
「あ~、こいつはダメだな。面白れぇ、ま、こんくらいにしてやるよ」
そう言って、アルビノネクロはぼくに剣先を向けていった。
「濛々の盲目!」
その直後、アルビノネクロの持っているぼくの方へと向けられた剣先から黒煙が放たれる。
もちろん、その黒煙に包まれたぼくは周りの様子が全く見えなくなる。
即座にぼくはポケットからハンカチを取り出し口元をふさぎ、その黒煙を吸い込まないようにした。
しばらくして黒煙は消え去ったが、その時すでにアルビノネクロの姿はなかった。
『逃げられた、のか』
『そうっぽいのじゃ』
ぼくは辺りを見渡した。
周りは、首が飛んでいるハグレモンと、氷柱の中にいるハグレモン。
それぞれが無残な姿でそこにいた。
一応、氷柱の中のハグレモンは、氷柱ごと切り落としておいた。
そこで、1分経ったらしく、剣の円形の部分からカードが飛び出してくる。
そのカードには何も書かれておらず、差しても何も起こらないだろうなとわかる。
今日はもう使えないっぽいな。
『何だったんだ、あいつは』
ぼくは駅に向かいながら、シュナに話しかけた。
『わちきにも何が何だか。いきなり襲って来るとはなかなか不躾なやつじゃったな』
『まあ、そうだね。それにしても、こっちに来てすぐに襲って来るなんて……それに場所もぼくらが不利な場所だったし』
『そうじゃな』
ここでシュナは、のじゃ!と言ってぼくの手から離れ、バク転をするようにしてロリモードへと移った。
「歩くの?」
「のじゃ!」
「いいのに、おんぶしようか?」
「いいのじゃ!わちきだって歩けるのじゃよ?子ども扱いするななのじゃ~」
「まあ、そう言うならいいけども」
ぼくはそう言って、シュナと手をつないで駅へと再び歩き始めた。
一般の人が見たら明らかにぼくは犯罪者である。
だって、6歳児程度の娘と手をつないで歩いている推定10代だよ。
いや、もう事案だって……。
「そういえばなのじゃ、主様!」
ぼくが憂いを持っているさなか、そんなことは露知らないシュナはぼくに話しかけてくる。
「え、あ、うん。どうしたの?」
「さっきの敵の能力は、【黒煙を出す能力】なのじゃ!」
「そのまま……っていうか、それだけなの?彼女みたいに汎用性とか……?」
「まあ、ないじゃろうな。剣から煙が出る。モクモクマンじゃな」
「それだけなのか」
ぼくはそれを聞いて少し考える。
能力は煙が出るだけ、それなのにハグレモンが2体いたとはいえ、押されたのは事実だ。
仮に、1対1の状況になったとしても、ぼくが使える能力は、彼女の氷っぽい何かを出すのが1分だけ。
それを使い切れば、あいつより弱いことになってしまう。
それに、あの黒煙、約30秒間だけでぼくの視野外に逃げられたこと、鍔競り合いで明らかにパワー負けしていたこと。
それだけ見れば如何に自分が弱いかがわかる。
はあ、そうため息をつきそうになる。
「どうしたのじゃ?主様」
「いや、楽に強くなれれば苦労しないのになって」
「気にするでない!主様は何と言っても、この、すべての神剣の上位剣であるわちきの主様なのじゃから!」
「うん、まあ、自衛のためでもあるからね、強くなるには。なんだってこんなことに巻き込まれなきゃいけないんだって感じだよ。全く」
そう、ぼくが頬を膨らますように言っていると、いつの間にか駅に着き、まるで遅刻する彼氏を待つ彼女かのように、駅の柱に背中を寄り掛からせている制服姿の彼女を見つける。




