3-1
彼女が転校した次の日の放課後。
その日は彼女と会話することはなかったのだが、彼女から一通のメールが来た。
『今日の放課後に話し合いがしたい。……駅前のカフェとかで二人でしゃべるのもいいが、やはり私の仲間も紹介しておいた方がいいと思うし、それに私よりも説明がうまいと思う。すまないが、こちらの世界で駅の南口に来てくれ。時間は、いつがいい?それも含めて連絡くれると助かる』
そう言った内容のメールだった。
今のぼくの状況は、帰宅の途中、家と学校の中間地点的な位置にいる。
今から帰るのも面倒だし……しょうがない。
『今から向かうよ。今から向かうとなると、20分くらいで着くと思うよ』
そう返信して、ぼくは来た道を引き返し駅へと向かった。
ミラーのない路地、一時停止を守らない車、ちょっと曇り始めてきた空模様。
そんなのを見てぼくはあることを思いつく。
……向こうの世界行ったらそう言うの気にしなくていいんじゃない?
そう思ったぼくはすぐさま、携帯から例のゲームを開く。
すると、曇りがかった心不安になる曇天の空は一瞬のうちにして真っ赤な、いわば終末の空と言った形相に早変わりする。
もちろん、そんな物騒な世界には車だとか、雨だとか、そう言った懸念はない。
しいて言うなら、治安が圧倒的に悪いって言うことかな。
アハハ、と苦笑交じりの声でそう言ったぼくは駅に向かって歩き出すのだが、ここでぼくは何者かに引き留められる。
何者だ?
とか、声はあげず振り向きもしなかった。
別に怖くて振り向く勇気がなかったわけではない。
ただ、ぼくに声をかけた声の主は彼女との勝負にちょっかいをかけた野郎ではないっぽいし、それどころか、シュナと初めて会ったあの日に倒したようなハグレモン——暫定便宜上そう呼ぶことにしようか——を二人ほどつれている。
ハグレモンはぼくのことを見てうめき声をあげているし、その声の主は、おい、と言ったきりまだ何も言わない。
「おい」
また、さっきの声の主はそう言った。
「何か用か?」
振り返ってぼくが答える。
振り返った先にいたのは、色白の青年。
声からして男性だと思うが、色白で髪まで白い、そしてその白髪は肩まで伸びている。
また、顔には傷跡だろうか、そんなような印象に残るものがあるのだが、それは黒ずんでいる、というか絵の具を塗ったように真っ黒だ。
身長はぼくと同じほどで足は細め、服装はカジュアルな感じで思いのほか動きやすそうな服だったが、色白な見た目に反して真っ黒で統一されていた。
そして、その右手には刀身を肩に置いた真っ黒い、まるで黒曜石でできた磨製石器のような見た目で、でこぼことした表面から光が反射して美しく見える刀身は、表面のでこぼこさと違って刃の部分はでこぼこさが全くなくしっかりとした鋭い切れ味があるように見える。
「お前も神剣士か~?」
目を見開いて、ぼくの方を見て喜々する姿に一瞬驚くが、ちょっとばかりこれをぼくはチャンスだと思った。
考えてもみてくれ、神剣士に出会ったんだぞ。
もしかしたら、仲間になってくれるかもしれない。
まあ、いろいろな課題はあるけども。
……そう言う風に考えるのはいささか不自然だろうか?
「シュナ!」
ぼくはあいつの質問に答えず、一言だけ言った。
もちろん、シュナはすぐにぼくの声に応えてくれてぼくの右手側のコンクリートに剣状態で飛んできて突き刺さる。
それをぼくは、さながら伝説の剣を抜くように引き抜く。
『来たのじゃ!!』
『ごめんね、結構な距離飛ばしちゃって』
勢いよくぼくにそう元気な言葉をかけるシュナに、ぼくは謝罪の言葉をかける。
『全然かまわないのじゃ!主様が呼べばすぐに行く、体がそうなっているからもう意識しないでも飛んで行っちゃうのじゃ。だから、特別エネルギーの消費はしてないのじゃ~。だから何も問題ないのじゃよ~。……強いて言うなら、ずっとそばにおいてくれるとわちきが助かるのじゃ』
『いや、そうしたいのは山々なんだけど……剣状態のシュナを常に持ち歩くのはちょっとね……』
『やっぱり体に入れないのは不便なのじゃな……』
シュナのしょんぼりしてるロリ顔が自然と目に浮かぶ。
かわいい……けど今はそれどころじゃない。
ぼくは気持ちを切り替えて、シュナを握りなおし相手の方へ向き直る。
「アハハ~、そうか~、いいぜ~。始めちまおうか!」
そう言って薄気味悪い笑みを浮かべながら目の前の男はそう言った。
第一印象と違ってやけに戦闘狂臭がすごい。
「……何者だ!いきなり戦闘仕掛けてくるのはあれじゃないのか?」
ゲームで戦闘になるのはしょうがないものだとも思ったが、一応ぼくはそう言ってみた。
「あ~?名乗ればいいのか?オレはよ~、アルビノネクロ。ま、自分でもよくわかんね~けどな。そう呼ばれたからそう言ってる。これでいいか~?」
「あ、これぼくも名乗った方がいい?ぼくは~、水尾玲、です……お手柔らかに……?」
「気ぃ~済んだか?じゃあ、おっぱじめるぜ!!」
そう言って、気まずい時間を過ごしたぼくらの戦闘が始まる。




