2-n(番外編)
ある日の放課後、掃除の時間。
ぼくは教室担当の掃除で黒板消しクリーナーの中の洗浄をしていた。
雑巾で軽く水拭き、そのあとにからぶきで水分をとる。
そして、中に入っている粉溜めの部分を水洗いして終わりなのだが、ここで事件が発生した。
先日、とある転校生の女子高生との戦闘で右手の皮膚の大部分を剥がされたのだ。
その皮膚は当然まだ治っておらず、水なんて当てようものなら滲みて卒倒するレベルの激痛が走ることなんて容易に想像がつく。
痛いのは嫌だ。
しかし、これは掃除、ぼくに課された任務なのである。
こなさないわけにはいかない。
そう、ぼくが覚悟を決めて外にあるシンクの蛇口をひねった時、高いそれでいて少々冷たくとげのあるような声がぼくの耳に入る。
「なにしてるの?」
ぼくはその言葉を聞いて当然振り返った。
そして、ぼくの予想は当たったとため息を吐く。
ああ、彼女か、悪い意味でぼくの予想は当たってしまったのだ。
目の前にいるのは、件のぼくにけがを負わせた転校生の女子高生。
特別仲が悪いというわけではないが、あまり会うのは気乗りしない。
だって、言い方きついんだもん。
「なにって……掃除だよ。君はもう終わったの?」
「私は今日掃除休みだからな」
「ああ、そうなの。これから帰るところ?」
「ああ、まあ、そうだな。……いや、帰るところだったといった方がいいか?」
「ん?どういうこと?」
ぼくは妙な彼女の言い回しに疑問符を送る。
「だって、貴様のその右手は痛々しすぎる。まあ、私が言えた口じゃないのは当然承知してるが……その、あの時は悪かったな。……もっと、話しを聞くべきだったと今では思っている。だから、そこを変わろうかと……」
そう言って、最初こそ強気な態度で今にも、殴るぞ~、言葉の暴力サイコ~、口からニードル投げるのサイコ~、頭に当たったら10点な!とかいう感じだったのが打って変わって、今は頭を下げている。
これにはさすがのぼくもこちらが申し訳なく感じた。
「……謝れるんだ、素直に……偉いね」
「……そのくらい、できる」
「悪い、今のは馬鹿にしすぎたわ」
なんとなく小ばかにした言葉に対して普通に接してきた彼女に調子が狂わされてしまったように感じて、ぼくは彼女から目を逸らして謝罪の言葉を述べた。
そうすると、彼女はぼくの肩を押して、今までぼくが立っていたシンクの正面へと自分が立つ。
「ちょっと待て、何しているんだ?」
「なにって、謝罪の意を示そうとしているんだが……?だって……そのけがでこの仕事をするのはつらいだろう?このくらいしか返せるものはないがな」
「……そうか……悪いな、なんか」
ぼくはなんとなく悪い気がしてそんな言葉を口に出した。
「……それで、これをどうしたらいい?」
「わかんねえのかよ!あれだけのこと言ったのに?」
「家事とか全般はできるぞ!でも、これはこちらの世界ではないことだ!こちらの世界ではそもそもゴミが溜まる、埃が溜まるなんてことはないんだ!」
「そんな力説されてもなぁ……まあ、ゆっくり教えていくよ」
「ああ、頼む」
結局、その日は掃除こそしなかったものの、彼女に掃除を教えることに時間をかけすぎて帰るのはいつも通りの時間となってしまった。
しかし、彼女といる時間はどこか懐かしく思えて、いつか見たこんな景色があった気がして、これからもこんな時間が続くような気がして、掃除を教える時間は思いのほか早く時間は過ぎていった。
蛇口を捻る力加減を間違えて大量の水をかぶり、服が透けている彼女の姿をできるだけ見ないようにタオルを手渡しながら、ぼくは、不思議なことがある日常も悪くないし、彼女と助け合う日常もいいんじゃないかなと未来に希望を持っていた。
次回から3章に入りたいと思っています。3章はですね……まあ、何と言うか、皆様のご想像の上を行きたいなぁ(いい意味で)と……はい、しっかり更新します……と、いうわけで、良かったらいいね並びにブクマ、評価いただけると嬉しいです。せめて!このSSシリーズのいいねはお願いします。好評だったら次章終了後にも書きたいと思いますので!ぜひぜひよろしくお願いします!次章もほどほどに待っていてくださるとうれしい限りです。ではでは~




