2-11
「そう言えば、なんで今まで殺し合いしてたのにぼくを仲間にしようって思ったの?」
「ただ単純に私達に戦闘力がないということと、新たな敵、それも大人数が出てきたとなればこんな些細な喧嘩よりも、大きな戦で勝つことの方が大事だろう?それに、私が私のとっておきの技、言っちゃったから……敵にして情報がバレるのが色々と……」
「ああ、そう言うわけね」
アハハ~と適当な笑いの裏で、ぼくはずいぶんすごい冷や汗をかいた。
ああ、よかった、彼女が思いのほかポンコツで、最悪あのチャラチャラいなくなった瞬間ぼく切られてたんじゃなかろうか……そんな思いで。
「戻ろうか、昼休みの時間なさそうだし」
「ああ、そうだな」
そう、ぼくが提案すると彼女はすぐに携帯を取り出す。
「え、ここで戻ったらいきなり校庭に現れる不審者じゃない?さすがに文化棟戻ろうよ」
「確かにそれもそうだな。……だが、時間に余裕あるのか?」
彼女がそう質問してきたのに対してすぐに、ぼくは左手に付けてある腕時計を見る。
時刻は、12時56分。
午後の授業の開始は1時からだ、とてもじゃないが時間がない。
「走って戻るぞ!」
ぼくがそう言って走り始めると、彼女もぼくについてくる。
そして、文化棟に着いた時にはすでに12時58分、そこから教室をつく頃には1時を回りかけていた。
正直、先生が早く来ていたら遅刻カウントされていただろう。
まあ、最悪遅刻はしてよかったとしても問題はそこじゃない。
ぼくが、彼女とどこかに行く様子はクラスの全員が見ていたようで、さらに帰ってくるのもギリギリかつ、長時間一緒にいたことであらぬ噂が立っているようでそちらの方が問題となった。
多分、しばらくはこすられるんだろうなぁ、と思いつつ彼女の方を見たが彼女は特別気にしている様子はなかった。
ぼくはそんなことを思いつつ気分を下げてその後一日を過ごした。
その後の午後の授業、午後の学校生活上で彼女との接点はなかった。
家に帰ると、すぐにぼくは自室に引きこもった。
現在時刻はおおよそ4時半ごろだが、妹はまだ帰ってきていないようだった。
まあ、いつもうるさいからぼくとしてはいない方がいいんだけども。
そんな風におもいつつ、ぼくは、携帯から例のゲームを起動する。
携帯の画面をタップするときに指先が痛む。
それが如実に彼女の話に信憑性を持たせているようで、それがどうにも受け入れがたくて、頭がぐるぐるしてくる。
まあ、何にせよ、ぼくは向こうの世界に行って今日新しくできた右手のけがの治療を始める。
と、言っても大層なものではなくて、消毒や包帯を巻いたりする程度のものだが……。
まあ、実際問題ケガの治療ならこっちに来る意味はない。
だから、本当の目的はシュナと話すことなのだ。
「シュナ?いる?」
「なんなのじゃ?主様!」
ぼくが名前を呼ぶと、女の子モードのシュナはひょこっとぼくの部屋の扉を開けて顔を出して表れる。
「おいで~」
ぼくはそういって、シュナを自分の方へ呼び寄せる。
シュナは、ぼくの方へとことこと歩いてきて、あぐらをかいているぼくの膝の上にちょこんと座る。
剣と言うことをもあってかそこまで重いと感じることはない。
シュナはそこでぼくの右手の状態を見て、すぐに包帯やらなんやら、治療の手伝いをしてくれる。
「そう言えば、シュナはぼくの体に入らないのか?」
ぼくは唐突に疑問に思ったことを口にする。
「……どういうことなのじゃ?」
「いや、さっき戦った彼女が体から剣を取り出してるのを見て、シュナもできるのかな~って思っただけよ」
「そ、そんなことできるのじゃ⁉わちきそんなことすらも知らなかったのじゃけれども!」
シュナはそういって、ぼくの胸のあたりに自分の手を当ててみたり、ぼくに抱き着いてみたりするものの、一向にぼくの体の中にシュナが入ることはなった。
「で、できないのじゃ~」
シュナは半分泣きそうになってそういう。
「なんで、他の剣が出来てわちきにはできないのじゃ~。わちきは全ての神剣の上位種剣なのじゃよ!できないとメンツがないのじゃ~」
「まあまあ、できないならしょうがないし、気にすることないよ」
ぼくはそういって、ぼくの膝の上にちょこんと座るシュナの頭をなでる。
その時、いつだったか、こんな言葉を言われたのを思い出す。
「女の子の髪は触っちゃダメなんだよ~!全く~、れーちゃんはそう言うとこダメなんだから~」
妹だったか、誰だったか、そんなことをぼくに言ったのは。
しかし、今、その言葉を思い出して、ハッと我に返ったぼくはすぐにシュナに聞く。
「嫌じゃなかったか?」
「何がなのじゃ?」
本当に嫌味も何も感じさせないシュナの言い方に安堵するも、一応と思いぼくは言葉を続ける。
「いや、女性って髪触られるの嫌だったりするかな~って思って」
「……わちきは別にそんなことないのじゃよ?むしろ主様なら歓迎なのじゃ!まあ、初対面の相手にされると思うところはあるのじゃけれど……」
「そう、それならよかった」
ぼくは、ほっと一息息を吐いて安堵の声を漏らす。
シュナは、ぼくに、もっとなでるのじゃ!愛でるのじゃ!と、言って来る。
なかなか、これは、甘えん坊な猫が喋れるようになってデレデレしてくる感覚に近くていい。
いつまでもなでなでし続けて、一緒に堕ちてくる地雷系カノとメンヘラダメンズみたいな感じになりそうだけど……。
そんなことを思っていると、ついつい本音が出てくる。
「妹みたい」
いや、実際いるのだが、別に実妹よりかわいいと言っているわけではなくて、これはこれでいいなぁ、と思っているだけだから。
まあ、無罪放免にしてくれませんかね?
「ああ、いや、別に変な意味で言ってないし、実際いるからどうというわけでは……」
「主様、妹がおるのか?」
「え、まあ、こっちの世界じゃないけど、向こうの世界の方だと向こうの部屋で今頃帰ってきてゲームしてるんじゃないかな?」
そういって、ぼくは、正面の壁を指さす。
ベッドに座っているぼくたちの正面の壁を突き抜ければ、そこはもう妹の部屋なのだ。
「……主様は妹がいる……向こうの部屋におるのか——……そう言えばじゃが、わちきにもいわゆる姉妹剣というものがおってな?」
シュナはぼくに妹がいるということを何度も反復反芻しながらやっとの思いで飲み込み、そう言えば、と言ってはっと顔を上げてぼくに話す。




