2-10
情報が欲しいのはずっとなんだけど、君のその剣の能力、もらえない?」
「えっと、私のdearFenrir.mk2の能力をか?」
「ああ、そう、ぼくの剣の能力で君の剣の能力を奪う。それが信用条件だ」
「だが、私に能力がなくなったら私は戦えなくなる。やつらに勝てるかどうかわからなくなる」
「返却できる~、と思う。正直まだ能力使ったことないし、どうなるかわからないけど」
ぼくはそう心配そうにこちらを見る彼女に言葉を返してシュナに声をかける。
『奪った能力の返却とかできる?』
『実は正確には奪うのじゃなくて使用できるようになるだけなのじゃ』
『なるほどね~、わかった』
ぼくはそれだけ聞いてまた彼女に話しかける。
「できる、だからちょっと剣を貸してもらっていい?」
「……そうだな、それで信用してくれるならいいだろう」
そう言って、彼女は自身の剣をぼくに手渡してくれる。
「よし、それじゃあ次は手を触ってもいい?」
「え、あ、いや、そう言うのは、あれ……じゃない」
「あれとは?」
ぼくがそう言いつつ、彼女に剣を返却すると彼女は下を向いてぼくに顔を見せず目を合わせないようにしてもごもごと言う。
「そそそっ、そ~言うのは、好きな人とするもの……じゃないの、か?きっ!貴様には!プライバシーのかけらもないのか!」
「なんでそうなる⁉早く手を出せって、何するでもなくただただ触れるだけなんだから!」
「ばばばっ、馬鹿者!まだ互いのこともよく知らないのに……」
そう言いつつ彼女はぼくの方をちらちらとみてくる。
「……どうしたものか」
ぼくはしばし頭を抱えた後、シュナに話しかける。
『これってさ、行う順番に制約あったりする?』
『いや、別にないのじゃよ?強いて言うなら1時間以内が制約じゃな』
『え、じゃあ……』
ぼくはそれだけ確認して、一言発する。
「全知善王の戦術」
ぼくがそう言うと、シュナの剣体である時の、一番目を引くポイントであるガードから手前の剣身にまでかかる大きな円盤から、こちら側に向けて長方形のカードらしきものが、放出される。
カードには、dearFenrir.mk2と書かれている。
文字通り、彼女のディアフェンリルの能力をとったのか。
「……あ、できた。ごめん、いらなかったわ」
「ちょ、私に触る必要がなかったならどうして触ろうとしたの!セクハラだぞ、変態!」
今にもぼくに向かってビンタを放つ勢いで、彼女はぼくに怒りをあらわにする。
「なーんでそうなる!多分、あれだよ、あの~、君から剣を奪う際に手首に攻撃を加えたからじゃないかな?」
「……なぜか納得できないな。まあ、貴様がどうしてもというなら触らせてあげんでもなかったがな」
そう言って、彼女はさっきの乙女心のある少女と打って変わって何事もなかったかのようにクールにふるまう。
「録画しておけばよかったな、今の醜態」
「阿呆!やめておけ、そんなことしたらどうなっても知らんぞ?」
「どうなるんだろ」
「こうなるが」
そう言って、彼女は右手を地面につける。
「氷原の撒菱」
ものすごい寒気を感じたぼくは思わず後ろを振り返る。
「あ~、これは勘弁してほしいかな」
後ろにできていたのは今までの比でないほどの大きな氷柱。
おそらくあれに巻き込まれたらひとたまりもないだろうと直感でわかる。
「これが限界だ。これを食らいたくなかったら私のキャラを壊すな」
「あ、はい……」
ぼくは苦笑して言う。
「確かにそうだな……というか、能力は取られても私も使えるままなんだな」
「まあ、正確に言うと奪うじゃなくて、使用可能になる、だからね。あ、そうだ。ちょっと使ってみていいか?」
ぼくは疑問に思って、すぐにシュナに聞く。
『とった能力はどうやって使えばいい?』
『さっきカードが出てきたじゃろ?それを出てきたところに差し込めばいいのじゃ!そうすればカードに内蔵された能力がわちきの物になるのじゃ!』
『なるほどね、じゃあ、早速』
ぼくはそういって、左手にカードを持って剣に差し込もうとした瞬間、シュナがぼくに話しかけてくる。
『あ、ただし、サモンタクティクスには一つ制約があっての……。奪った能力の使用は1能力1日1回1分までじゃ』
『あれ?もしかしてこの能力、割と融通聞かない感じ?』
『ま、まあ、いっぱい能力あればいいだけじゃから……』
ぼくは、そう言うと、シュナは痛いところを疲れた感じで声を震わせて言う。
『いっぱい能力手に入れられたらいいけどね。まあ、じゃあ、今使うのは得策じゃない感じか』
『まあ、そうじゃの~。できれば温存しておいて損はないのじゃな!』
それを聞いて、ぼくはカードを挿すのをやめて制服の内ポケットにしまう。
「いや、いいや。今使うのは得策じゃないって」
「そうか……そうだ。明日、貴様の願う情報を渡すためにもこっちで話し合いがしたい。だから、だな、その、連絡先が欲しい」
「わかった、いいよ」
ぼくはそう軽く返事をして、携帯の画面に自分のQRをだして彼女に見せる。
「よし、これでいいな。……それにしても不思議な感じだな。さっきまで殺し合っていたやつと連絡先を交換するとはな……」
「まあ、ぼくはなんでこんなことになってるか分かってないから、まず情報が欲しい。それで君は仲間が欲しい。いい感じの利害の一致じゃん、それでいいんじゃないかな?」
「ああ、そうだな。これからよろしく頼む」
「こちらこそ」
そう言って、ぼくらは握手するでもなく何をするわけでもなかったが、ただ、目を合わせた。




