2-9
「そっちの考えはわかったんだけど、いくつか条件、というか聞きたいことがあるんだけど大丈夫?」
「ああ、構わないが……」
「私たちってどういうこと?君もどこかのグループに属してるってこと?」
「まあ、そうだな。と言っても5人ほどのグループで神剣士も私含め2人しかいないうえ、戦闘ができるのは私だけだ」
「そう、それじゃあどう考えても戦闘力不足だね」
「ああ、悔しいがどうにもならないことだ。だから神剣が欲しかったのだが……」
そう言って彼女は下の方を向いてクソっ!と嘆きの言葉を口にする。
「あと一つ、君たちの目的は?」
「ああ、それは……帰るため。平穏な日常に帰るためだ」
「どういうこと?」
ぼくが彼女の言葉に疑問符を浮かべると、彼女はぼくの目を見て言う。
ぼくはそれに対して少々気圧される。
「いつどこからこの赤い世界にいて、どうやって帰るのかすらわからなくて、どうしたらいいのかわからなかった。物心ついたとき——大体8歳くらいだな——にはすでにここにいた。親の顔なんて知らないし、生きてるのかすらわからなかった。ただ、読み書き等の基本的なことはできた。それと、自分の名前が固城美結だってことも知っていた。そんな私の居場所がそこだ。みんなでここから帰ろうとしてる。乗り気じゃないやつもいるが、まあ、非協力的ではないからいいだろう。だから、神剣を探している」
「……そうか。まあ、帰るための糸口を神剣に見出したって感じの解釈でいい?」
「ああ、そんなところだな」
「なるほどね……ん?でも、こっち側の世界に来れてるよね?君らの言う平穏な世界ってぼくらの世界じゃないの?」
ぼくは疑問符を浮かべて彼女にそういう。
当然の疑問だ、だって彼女は確かにこっち側に来ていたしぼくらのいるからのこのゲームの世界に来るのだって見たのだし……。
「いや、そちらの世界には出れるが、長居はできない。私たちの最終目的はそちらの世界で普通の生活を送ることだからな。行けるだけじゃ旅行と変わらないだろう?」
「そう言うことね、なるほど、わかった」
「ああ、理解してくれて助かる。それでだが、私は信用を得られたか?」
「ん~、交渉の余地なしとは思わないね。だけど、勝てそうかって言われると何とも」
「私たち側に着くために何か……何かあれば……」
ぼくが彼女の質問に、サクッとあいまいな返事をすると、彼女は意地でもこちら側へ引き込みたいのか少し頭を悩ませる。
「どうだ?私の全裸写真でも持っておくか?」
「やばいな、君。今ので評価ガタ落ちだけど?」
『なんて破廉恥な奴なのじゃ。わちきでもそう言うことは……そういうことは……主様が望むなら……?』
『やめな~、シュナ~?ああいうのは見て見ぬふりだよ~?』
ぼくは真面目な顔でそう言う彼女に、思いっきり火の玉ストレートマジレスを投げつける。
シュナはさながら目を手で塞いでいる風を装って指の隙間から覗くタイプのようにして、ぼくに声をかける。
「冗談だ、笑ってくれ」
「君みたいなクールそうな人が言うとシャレにならないのよ。クールな子のちょっと間抜けなギャップはまあわかるが、それは狂いだぞ?引くぞ?」
「自分でも言うのもあれだが……そこまで私のスタイルは悪くないし、むしろいい方だが?」
「そこで意地を張るな。ぼくみたいな非モテ陰キャは初恋を大事にするんですよ。君みたいな子はぼくらに好かれないぞ」
彼女が何を詫びるでもなく真面目な顔でそう言い続けるのに対し、ぼくは、はあ、と一つため息をついた。
「それで、実際なにか欲するものはあるか?」
「ちょっと考えていい?」
「ああ、今すぐにとは言う気はない。もちろん早い方がいいのだがな」
彼女がそう言ったのを聞いて、ぼくはシュナに話しかける。
『シュナ、さっき言ってた能力を奪うやつってなに?』
『ああ、それこそズバリ!わちきの能力じゃな!』
『シュナの能力って?』
エッヘンとばかりに胸を張って言うシュナにぼくは問いかける。
『わちきの能力は~!すべての神剣を統べる能力じゃ!』
『具体的には?』
『それはもう~、能力をもらったり、瞬時にその剣の能力がわかったり、能力を無効化したりと色々じゃよ』
『彼女の剣の能力もとれる?』
『もちろんじゃ!奪うスキルはずばり!全知善王の戦術!なのじゃ!まあ、条件があって、剣の所持者に触る。剣自身に触れる。剣をわちきを交える。この三つを1時間以内に行うのじゃ』
『なるほど。他には何があるの?』
『ほかにかの?ほかにはの~』
そう言ってシュナはエッヘンと言って自慢げに話し始める。
『奪ったスキルを使う、サモンタクティクス。剣を交えることで相手の能力がわかる、全知善王の情報開示勅命。能力によってできたもの、起こったことすべてに干渉して無効化にする、全知善王の覇道。まあ、これくらいかの?』
『なるほど。シュナちゃんもしかして君、強力じゃない?』
『当たり前なのじゃ!わちきこそ最高の神剣!神聖剣なのじゃ!』
終始胸を張って自信満々に語るシュナは、ぼくの頭の中ではしっかりと少女の姿で出てきていて、とてもかわいかった。
まあ、何はともあれ、彼女に願うものは決まった。
 




