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2-5 

 氷柱が音を立てて崩れたのだ。


 「……え、脆い?」

 「人に当たれば強いんだよ?耐久性より殺傷力だから……」


 彼女はあちゃ~、バレたか~、みたいなとても冷血少女が出すべき表情じゃない表情をあらわにして苦笑した。


 「……君も騙しか。まあ、飛び降りる必要がなくなった、ラッキー。じゃあな!」

 「逃がすわけないだろう!這い寄る結晶(フロストフラワー)!」


 また、彼女はさっきと同じように、左手を地面につける。

 そして、さっきの何か——おそらく地面を凍らせてその冷気をこちらに送っているのだろう——をこちらに差し向ける。

 来る、そう思った瞬間、ぼくはさっきと同じようにジャンプする。

 しかし、今度は後ろではなくそのまま前に。


 「技を打つくらいだったら、走って追いかけてきた方がいいんじゃない?多分その技、もう理解(わか)ったよ」

 「私をなめるな!追いついて切ればいいんだろう?ここまで来ても貴様が剣を出さないということは、よほど腕に自信がないか、剣がないか、どちらかだろう?すなわち、近づけば私の勝ちだ!」

 

 そう言って彼女は距離を詰めてくる。

 まあ、そうだよね、普通に切った方が下手な能力バトルより今は有効。

 逆に、相手に能力全部バレて対策されて、むしろ物理攻撃がいい時とか他にある?

 失笑、そんなこと言ってる場合じゃないって、下手したら本当に切られかねない。

 ぼくはそんなくだらないことを考えつつも彼女から距離をとるために走り続ける。

 しかし、どこに行く?どこにこの状況を打開できるものがあるのか。

 そう考えてると、また後ろから彼女の声が聞こえる。


 「埒が明かないな。やはり、技で足を止める方が確実だな。這い寄る結晶!」


 その声を聞いてぼくは、目の前を見る。

 目の前には非常用階段がある、そこに入れば一階へ降りられて外に出られる。

 しかし、扉が閉まっている。

 間に合うか?おそらく彼女のあの技はああいう特性があるから、間に合わなかった詰むんじゃないか?

 そう思い、ぼくは全力を出して走る、そして扉を開ける。

 迫りくる冷気は扉を開けるために少し止まった時点ですでに紙一重だ。

 間に合え、必死にそう願った。

 そこで、ぼくの明けた扉と彼女の放った冷気が、触れ合った。

 その瞬間、さっき化学実験室の扉にできた氷柱ができる。


 「氷柱の出現条件は、物に触れること。冷気の移動方向は一直線のみ。これが君の技の詳細だね。って——」


 その瞬間、ぼくは気が付いた。

 非常用階段の扉にできた氷柱が、その扉のノブに触れているぼくの手のひらを巻き込んでいることを。


 「——……冷たくない。これ何?氷?嘘じゃん。生ぬるい固体的な何かだね、これ。えっと、冷気を発射して、生ぬるい氷柱もどきを作る能力?」

 「……黙れ。これ以上喋る気はない。貴様の右手はドアノブと共に封じた。これは先ほどの物と違って丈夫だぞ?剣を出せ、鬼ごっこは終わりだ。ここからは拷問だ」


 そう言って、彼女は獣のように目を光らせてぼくの方を見て剣を振り上げる。

 死にたくない、そう思った。

 まだ生きていたい、そう願った。

 だから……。

 だからぼくは、ドアノブと一緒に凍らされた手のひらを、無理やりドアから引きはがした。右手の皮膚を捨ててでも生き延びたいと思ったから。

 右手の親指の付け根から、がっつりドアノブを触っていた約手のひら全部、それと第一関節の上のあたりの指紋が少々と、第二関節下の人差し指、薬指の皮膚が大々的に持っていかれた。

 痛みでいうなら、めっちゃ極寒の冬の日、ずっと外で水道水手に浴びせてる感じ。

 だが、その程度で命は助かった。

 ぼくは、ぼくの行動に唖然としている彼女をしり目に、階段を下りる。

 一階にやってきたが、さてどうしよう。

 どうにかしないとすぐに彼女は来るし~……。

 正直保健室に行きたいのが本音だが、行ってもバレてまた化学実験室の二の舞になるであろうことはわかっている。

 さて、どうしたものか。

 ぼくは、不意に外を見た、目の前には何の変哲もないグラウンド。

 いや、変哲がないわけではない、だって今まで戦った教室とは確実に場が違うのだから。

 ぼくは、すぐに玄関へと向かい靴を変える。

 ちょうど、今日は体育の授業があってローファーじゃなくて運動靴なのだ。

 しかし、それにもかかわらずぼくが制服を着ているのは、ぼくが制服を着ないと授業を受けられない拗らせオタクだからであって、体育を休むなどというわけではない。

 授業前の休み時間で着替えようと思っていたのだ。

 着替えは持ってきてある。

 とりあえず、グラウンドのおおよそ中心まで来て、ぼくは持っていたハンカチで右手の応急処置を始める。

 正直、何が触れても痛いのだが、ずっと何かが触れている状態から、さらに物が触れた衝撃の方が幾分かマシ、な気がするからやっている。

 そして、彼女が来た。


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