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それは偶然だった



 こうしていつまでも子供のように駄々をこね引き篭もっても、結局目の前の現実から逃げる事も叶わなかった私の心には虚しさだけが残った。



 ただ無駄に時間だけが過ぎていき、いつしか私はいつまでもこんな生活を続けていてはいけないと思い始めた。

 そしてその日、本当に久しぶりに図書室に足を運んでみる事にした。



 久しぶりに見る自室以外の景色はとても新鮮で、私の目にはまるで初めて見るような光景に映った。

 図書室に着き、どんな本を読もうか考えながら本棚を見ていくと部屋の隅にある棚の上段に、この場所には不釣り合いな一冊の本が置かれていた。

 我が家の図書室はきちんと管理者がいるから、埃を被った書物は一つもないはずなのに。

 でもその本は随分と薄汚れ埃も積っていてお世辞にも綺麗とは言えない状態だった。

 今まで誰にも気付かれた事がなかったかのように、埃まみれの本は静かにその場所に佇んでいる。

 でも私は、その本にどうしてだか強烈に目を引かれた。


 ただの本なのに。明らかに周りにある本とは存在感が違ったのだ。埃まみれの本にしては神々しさすら感じ、気付けば私は吸い寄せられるようにその本に向かい足を進めていた。


 黒い背表紙に金のような色で文字が書かれているが、汚れが酷く目を凝らして見ても書かれている文字を上手く読む事が出来ない。

 自分の意思ではない何かに導かれるようにその本へ自然と手を伸ばしてみると、触れた瞬間ほんの一瞬だがうっすらと光ったような気がした。

 そのたった一瞬の出来事に私は目の錯覚かと瞬きをするも、もう光は消え手元には先程と同じ薄汚れた本があるだけだった。

 私は心の赴くまま軽く埃を落とすと、適当な本と一緒にこっそり自室に持ち帰る事にした。


 何故かいつもより心臓の鼓動が速く、私は酷く気分が高揚していた。

 そしてこの本を持っている事を絶対に人に見つかってはいけないという衝動にも駆られた。

 経験した事のない緊張感の中滑り込むように自室に入り、人払いをしてからそっと本の背表紙に触れ慎重に埃を落としていく。

 背表紙はかなり埃まみれで薄汚れていたのに対し、中身は真逆で文字が薄くなっている事もなくまるで新品のような綺麗さだった。


 一ページ一ページゆっくりめくり、夢中で読み進めていたからなのか読み終わる頃には部屋の中は薄暗く肌寒さすら感じる時間になっていた。それでも今の私にはむしろその肌寒い気温が丁度良く感じていた。

 読み終わった本をそっと膝に置き、先ほどまで読んでいたその衝撃の内容に思わず言葉が口を衝いて出ていた。


 「悪魔の召喚……」


 言葉にしてから慌てて自身の口を手で塞ぐ。

 こんな事誰かに聞かれたら頭がおかしくなったと思われ、確実に病院送りになるのは目に見えている。

 それでも読み終わった後の、この胸の高鳴りはなかなか消える事はなかった。



 我が国では悪魔の召喚は禁忌の中で最も忌避されるべきものとして教えられている。

 信仰している神の教えでは禁忌を犯したら天寿を全うした際に女神様の元へ帰る事が出来ないと、ずっとそう信じられてきているからだった。

 でもこの本には召喚した悪魔は代償と引き換えに自分の願いを叶えてくれると書かれていた。

 悪魔召喚が禁忌なのはもちろん十分理解しているが、私はこの時一つの希望を見出してしまっていた。



 そして本の中には以前誰かが私と同じようにこの本を手に取ったのか、小さなメモが挟んであった。


 『捨てる覚悟があるのか』


 そのメモにはたった一文しか書かれていなかったが、私にはこの一文こそが全てを語っているような気がした。


 (この人も悪魔召喚を実行したのかしら?)

 (それなら私も……)


 一瞬そんな思いが頭をよぎるが、すぐにこんな考えはおかしいと自分に言い聞かした。そもそも許される筈がない、悪魔召喚なんて馬鹿げてる。悪魔なんて召喚出来る筈がないのだ。


 (ダメよね、こんな考え捨てなければ)


 そう思い本を見つからない場所へと急いで隠した。明日、元の場所に戻せば大丈夫だと自分に言い聞かせながら。


 (そうよ、早く忘れないと……)


 この時焦っていた私は、一刻も早くこの本を元の場所に戻さなければと、それだけしか考えていなかった。

 だから肝心な事に思い至らなかったのだ。どうして悪魔召喚の本が我が家の図書室にあったのかという事に——。


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