表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/38

第一話

アイザックIFルートです~。



 クレイン侯爵邸へ向かう馬車の中、私は先日交わしたアリアとの会話を思い返していた。


「アリア、実は君にひとつお願いがあるんだ」

「まぁ!アイザック様が私にお願い事をするなんて珍しいですね。私で出来る事なら、是非力になりたいです」


 そう言ってふんわり優しく微笑んでくれたアリアとは違い、私は今にも緊張で口から内臓が飛び出しそうな程の恐怖がから、なかなか肝心の内容について話し出せずにいた。

 そんな私を気遣ってか、彼女が話を急かす様子はない。


 あれからどれくらい時間が経ったのか分からないがついに心を決めた私は、目の前のソファーに座るアリアを見つめ、ひとつの願いを口にした。


「その、私達は婚約者になってしばらく経つが、未だに私が貴女に触れるのはエスコートくらいだと思うんだ。だから、その、私はアリアと、もっと距離を縮めていきたいと思ってるんだ!」


 話している途中でアリアの顔を見続けている事が出来ず、つい視線を下へ向けてしまった自分に心底呆れてしまう。

 男であるはずの自分が婚約者との距離を縮めたいと思っていても、それを言い出す事すら時間がかかり、あまつさえ相手の目を見て話す事が出来ないだなんて。

 でも私はここでどんな恥を晒す結果になろうとも、彼女と距離を縮める必要があった。

 

 それは最近酷く夢見が悪く、連日悪夢を見て飛び起きるせいでもあった。

 先日も酷い悪夢を見たせいで叫び声を上げながら飛び起きた。結果的に屋敷中が騒然となり、駆けつけた父上には事情を話すとこぴっどくお叱りを受けてしまった。

 深夜だった事もあり、その声に反応した使用人達が襲撃と勘違いし、当主である父上や騎士達も集まってきた時は、あまりの恥ずかしさに本気で消えてしまいたくなった。

 

 だがそれ以来度々同じ悪夢を見ている私は、いつかアリアを失うのではないかという不安がしきりに脳裏を過り、最近では幸せなはずのアリアとの会話にすら集中出来ていない自分がいた。

 不安がいつまでも付き纏う中、悪夢が現実になってしまうのではないかと考えた私は、いっその事思い切って自分の願望を口にしてみる事にした。

 

 ただ問題がひとつ。私にはアリアを直視するという行動が、この世のどんなに難しいとされる事柄よりも困難な出来事なのだ。

 真っ直ぐに伸びた輝く銀の髪も、どんな宝石よりも美しいアメジストの瞳も、アリアを形成する全てが私にとって信仰する女神よりも美しいのだから仕方がないじゃないか!


 今だって机を挟んだ目の前のソファーに座る彼女が、同じ空間にいるという事実だけでこんなにも幸せなのに。それ以上を望んでしまったら、きっと私は罰が当たる。


 大切なアリアだけは、例えどんな事があっても傷つけたくない。

 だからこんな薄汚い想いを持つ私なんかが、女神よりも美しいアリアに触れてしまったら間違いなく汚れてしまう。そんな事絶対に許されない。


 それでも……。

 婚約者という名誉ある立場を与えられている私は、アリアとほんの少しでもいいから距離を縮めたいという浅ましい想いを捨て去る事が出来ないでいた。

 先程から何も言ってくれない彼女にだんだんと不安になった私は、恐る恐る目線を上げてみるとそこには全く想像していなかった光景が広がっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ