第二章
第二章~憂鬱~
~一週間前~
にしとは困惑していた。
ヴァイオリンの弦を手に入れ、龍巌邸へ戻ってきたはいいものを、誰もいないのだ。
とりあえず作業室へ向かうことにしたが、道中で一通の手紙を
見つけた。手紙には殴り書きでこう綴られていた。
<国がやばい、国王と話をつけてくる。>
にしとはその時、何かよくないことが起きていることを悟った。
しかし、何が?俺は何をすればいいのか、何ができるのか。
そもそも、これは国レベルの問題ではないだろうか。
世界規模で...もしそうなら俺には何も手立てがないかもしれない。
「ま、まあ龍巌なら大丈夫だろう、心配することはないか...」
しかし、そんな希望はすぐに打ち砕かれた。
あれから一週間経った今もまだ龍巌は帰って来ない。
まさか...本当にやられたなんてことないだろうな。
いやまて、考えたくないことを考えても仕方がないんだ。
あいつに限ってそんな簡単に死ぬわけがないじゃないか。
そうだ、きっとそうだ、そうに決まってる。
しばらくして、玄関のドアが開いた。
きっと龍巌が問題を解決して戻ってきたのだと思った、だが違った。そこに立っていたのは、見知らぬ男だった。
「にしと...で合ってる?」
その男は自らをぼんこんと名乗り、龍巌の居場所を知っているという。
突然そんなことを言われたところで信用できるわけもないのだが、他に手がかりもない以上、その男についていく以外なかった。
目的地に向かう道中、その男と色々話し合いながら進み、ついに
その場所に到着した。
そして、連れてこられた場所はアトラス領だった。
どうやらアトラス勢と国家の間で問題が発生したらしく、自分達が突入した際に倒れていた龍巌を連れ帰り拘束している状態らしい。
しかし龍巌ほどの人物を拘束できるということは相当厄介な相手であるということをにしとは、改めて理解した。
今にして思えば、ここでもう少し慎重になるべきであったのだ。
ただ単に龍巌の居場所を知っているからといって、
何も知らないまま敵地に足を踏み入れるべきではなかった。
そうすれば、少しはこの状況もましなものになったのではないか。
にしとが思考を巡らせているとそれを感じとったのか、ぼんこんは
「なーに、お前らは国側の人間じゃないんだろ?ならなんで俺たちと争おうとするんだよ。別に戦う理由なんてないだろ?」
それに対してにしとは不機嫌そうな顔で言った、
「そういうことじゃねぇよ、あいつは国の回しものなんかじゃないしアトラス勢と争ったこともない、そんなやつが拘束されてんのが納得いかないんだよ。」
ぼんこんはそれをきいて少し沈黙し、こう答えた。
「なるほどね、そりゃ失礼。ただね、こっちにも立場があるんだ。そいつは国と繋がってる疑いがあってな、まあ要するに監視だ、
でも実際は国となんか繋がってないんだろ?なら解放してやれるさ。」
ぼんこんはそう言い残し、領地に入っていった。
しばらくして門に2人の男が向かってきているのが見えた。
それはやつれた龍巌と息を切らしたぼんこんだった。
何故ぼんこんが息を切らしているのかは触れず、龍巌が帰ってきた以上、正直これ以上ここにいる意味はないように思える。
とりあえず今は大人しく帰ろうと龍巌に目で合図を送ると、それを受け取ったのか、そのまま何事もなかったかのようにゆっくりと門に向かって歩を進めだした。
(よし、これで終わりだ...)
だが、そんな淡い期待はすぐに砕け散った。
龍巌が門に近づくにつれどんどん様子がおかしくなっていったからだ。
まるで体が凍りついていくように、全身が石化し始めていた。
このままでは龍巌が完全に石化してしまう、早くなんとかしなければ。
そう思ってぼんこんを見るとこちらの意図をくみ取ったらしく、
「おい!待て!何かがおかしい!」
と叫び龍巌の方へ走り出したがもう遅い。
完全に石像と化したその瞬間、龍巌の体から黒っぽい硝煙のようなものが噴き出したかと思うと、その体は一気に灰となり風に吹かれ飛んでいった。
あまりにも衝撃的な出来事だったためしばらくその場に立ち尽くしていたが、ようやく状況を飲み込めた頃には、すでにそこには何もなく、風によって運ばれてくる砂埃だけがそこには残っていた。
目の前で起こった不可解な出来事を前にニ人は呆然としていると、自分達の頭上から声が聞こえてきた。
「ごめんごめん、驚いた?」
はっと上を見上げると門の上に一人の男が佇んでいた。
「あー...土偶てめえやったな!」
ぼんこんは含みのある言い方でそう言うと、今度はこちらに向かって、
「悪い、今のはあいつの異能なんだ。龍巌本人じゃねえ。」
と謝罪した。そして続けて、
「あいつは異能専門の殺し屋やってるんだ、今あんたらを殺そうとしてる奴らの依頼を受けちまってたらしいんよ。
まあそういう訳だから悪く思わないでくれよ。
それとこれは忠告だ。これ以上俺達に関わるんじゃない。
次は殺すぞ。」
と言い放った。それに対しにしとは、
「待てよ、まだ龍巌が返ってきてないだろ...。
それにあいつは殺し屋らしいな...。
なら尚更このまま帰る訳にはいかなくなったんだよ!」
と言い放ったと同時に、二人に向かって数発の火球を放った。
「うおっ!?やべえ!」
土偶の焦りもお構いなしに火球は先にぼんこんに向かって飛んでいった。
火球がぼんこんに着弾するまであと1m程に差し掛かった時、
ぼんこんは火球に向かい指でなぞるように空を切った。
その瞬間、何かに呑み込まれたかのように、火球が姿を消した。
その直後、土偶に火球が着弾したが、土偶の体は先程の龍巌のように灰と化し吹き飛んでいった。
「へー、やるねえ。」
声が聞こえたと同時に様々な方向から数十人の土偶が向かってきた。
「これは...宣戦布告...と、受け取っていいのかな。」
どれかの土偶が言い終わるよりも前に、数十人の土偶は既に襲い掛かってきていた。
しかし次の刹那、全ての土偶の動きが停止し、壊れたからくり人形のように、地面に崩れ落ちた。
にしとには一体何が起こったのか理解が追いついていないようだった。
それは遠巻きに二人を監視していた男も同じだった。
~同時刻、アトラス領地下倉庫にて~
「...のるのるさん!?」
頭頂部から出血しているが、どうやら気絶しているようだ。
「...しかし一体誰が...。まさか...!」
土偶はある一つ結論に辿り着いたと同時に、視界の隅に映る男を
認識した。
そしてその男がのるのるさんを手にかけたことも瞬時に理解した。
「龍巌!貴様よくm...」
背後の男が土偶に触れた瞬間、土偶は塵と化し、散った。
第二章 終




