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くだらない私の日常 新人なろう作家の日常妄想系エッセイ

金曜日の魔法

金曜の夜に起きた魔法のような出来事。


皆さまにおすそ分けなのです。


食事前に読まないように。違う意味で飯テロ注意なのです。


 週末金曜日の夜。つまり今日。


 駅へ向かうバスを待っていた時のお話……。


 


 仕事を終え、明日はお休み。始まってしまえばあっという間に終わってしまう休日も、今はまだ手付かずの宝物。ワクワクが止まらない。



――――ブロロロロロロ……



 目の前でバスが行ってしまった。普段ならもう少し走るべきだったと落ち込むところだが、金曜日の魔法のおかげで、その程度ではビクともしない。ふふふ、我ながらタフなメンタルだと自画自賛する。


 今のうちにと、手早く小説サイトのマイページを確認する。金曜の夜は更新される方が多いので、隙間時間にこまめにチェックしないといけないのだ。



――――カサカサカサ……


 スマホとにらめっこしている私の横を黒光りする生き物が通り過ぎる。実際にカサカサ音がするわけではないが、そんな効果音が相応しいゴキブリだ。


 並みの人間なら、避けたり声を出したりするところだが、あいにく私はゴキブリ耐性がカンストしている。


 特に親しいわけではないが、他に誰も居なければ話しかけるぐらいの距離感だ。分かりやすく言えば、他人以上友人以下といったところか。


 まあ金曜日の私はすこぶる機嫌が良い。


「ごきげんよう、ゴキブリさん。こんな夜に散歩ですか?」


 他に人も居ないので堂々と話しかける。


 あまり知られてはいないが、ゴキブリはかなり人懐っこい。ある程度接しているとなんとなく言いたいことが分かるような気がしてくる。


『…………』


 ああ……無視された。これは完全に無視された……虫だけに。


 自らの発言にダメージを受ける私を尻目に道路を渡り始めるゴッキー。


 え? ゴッキーって何って? 今名付けた。



 目の前の通りは、それなりに交通量のある道だ。そんな道路に向かって、ゴッキーは無謀にも横断しようとしている。


 何故だ!? 何故リスクを冒してまでそんなことをするんだ? 通りの向こうに会いたいゴキでもいるのか? そもそも飛べばいいんじゃないのか?


 そんな私の想いを知ってか知らずか、ゴッキーの歩みは遅い。イライラを通り越して心配になってくる。別に見ず知らずのゴッキーが車に轢かれようが知ったこっちゃないのだが、目の前で轢かれたらやはり後味が悪いではないか。


 何台もの車が、彼の数センチ横を通り過ぎてゆく。


 人間である私でも怖いのに、あの小さな体のどこにそんな無謀な勇気があるというのか。


 そうか……お前はゴッキホーテなんだな。


 わかったよ。せめてバスが来るまでお前の生き様を見届けてやるさ。  



 ゴッキーはとうとうセンターラインを越えた。猛牛のような車が次々と襲いかかるが、華麗な足さばきでかわし続ける姿に手に汗を握るしかない。


 っ!? 車列が途切れたっ!! 


「今だ、今のうちに渡り切れゴッキー!!」


 私の声が聞こえたのか、立ち止まるゴッキー。あろうことか戻って来やがった!?


「違う、呼んでない、早く行け!!」


 今度は横にスライドし始めるゴッキー。何してんのっ!?


 ゴッキーが向かったのは、数メートル横にある真新しい横断歩道。くっ、ここにきて交通ルール順守かよ!!


 もたもたしている間に、また車がたくさんやってくる。


 誰も停まろうとはしない。当たり前だ。一体誰がゴキブリが横断歩道を渡っていると想像できようか。


 

 マズいな……。正直道路上ならゴッキーが轢かれても暗くて良く見えないからダメージは浅いと楽観視していた。だが、真新しい真っ白な横断歩道の上で轢かれたら結構キツイ。


 帰りにデザートを買って帰ろうと思っていたのに、チョコレート系は買えなくなってしまう。だったら生クリーム系でいいじゃないかと思うかもしれないが甘い。真っ白な横断歩道を連想してしまうから白系もアウトだ。つまり、あんまんでゴマフアザラシを作るのも不可能。


 

 チッ……こうなったら無事渡り切ってもらうしかないじゃないか。


 そう思った矢先、一台の車がゴッキーの真上を通過した。




 ……終わった。私のデザートタイムが終わった……。真っ白な横断歩道の上でピクリとも動かない黒い染み。


 ゴッキーとの出会いから別れまでが走馬灯のようにスローモーションで再生される。出会ってたかだか一分程度だから、スローにしてもたいしたことはないのだが。


 週末は晴れると言っていたから、月曜日の朝に見ることになるかもしれない。


 暗鬱な気持ちで眺めていたら、なんと、黒い染みが動き始めた。


 間一髪轢かれてはいなかったのだ。もちろん轢かれたが蘇生した可能性もゼロではない。週末は何が起きてもおかしくないのだから。



 きっと金曜日の魔法のおかげだろう。   


 ゴッキーが無事横断歩道を渡り切るとバスがやってきた。


 自然と頬が緩む。


 バスの乗客たちは決して知ることはないだろう。私たちの冒険と金曜日の魔法が織りなす奇跡の物語を。


 このエッセイを読んだ貴方にもきっと魔法が届くはず。


 週に一度しか使えない金曜日の魔法が、皆さまの週末を彩りますように。


 それではハッピーフライデー♡  あ……日付変わってやがる。

 

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i566029
(作/秋の桜子さま)
― 新着の感想 ―
[気になる点] そーいえば最近ゴキ見らんな。 遠い昔、古い団地に住んでた時は、夜中にトイレに行こうと暗い部屋を移動すると、よく踏んづけたりしたもんです。 寝ている時にパジャマの中に潜り込んだりしていて…
[一言] 楽しいお話でした(*^_^*) 私もわりとゴキブリには冷静です。「あっ、いた……」くらいで。彼らには、確かになんらかの意思を感じますよねえ。 でも、殺りますけどね!
[良い点] 外のGって伸び伸び動いてますよね。 私は近寄ってこなければいいかなって感じですけど、見た瞬間死ねって思う人も多いですからね…… テラフォーマーズ!
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