1-③ 初恋そして
白石真冬。
俺と同学年の女の子で、入学初日の図書室で出会った初恋の子。そして俺の学年でトップレベルを争う学力の持ち主かつ名前負けしていない美少女だ。
つまり高嶺の花というやつだ。
対して俺のスペックは、177㎝の高身長、だが目つきが悪い。本が大好き、だが勉強ができない。動物、昆虫に好かれやすい、だが友達がいない。不良に絡まれやすい、だが友達がいない。
プラスをマイナスが打ち消しているような気がするし何なら、マイナスのほうが勝ってる気もする。だから彼女と比べるとすごく悲しくなる。
明らかに友達が出来ないのも不良に絡まれやすいのも目つきの悪さのせいだし、公園に行くと鳩に野良猫が俺を囲んで身動きが取れないこともある(別に調教していないがなぜか言葉が通じる)し、夏は罠を仕掛けなくてもカブトムシが集ってくる(傍から見たら気持ち悪いし、俺も気持ち悪い)し、明らかに友達が欲しいからこの能力はいらない。
深いため息をつきながら、教室の席に着く。
学校はすごく楽しみにしてはいるが、正直授業は憂鬱だ。なぜなら俺のクラスはE組で、彼女のクラスはA組だからだ。
うちの学校では、他クラスとの授業もあるがせいぜい隣のクラス。AとEじゃ一緒の授業はまず、ないからだ。
そう思うとまた溜息が出る。俺は机にだらけるように突っ伏す。
「秋山君。秋山君」
俺を呼ぶ声が聞こえるので、その方へ向く。
「なんだ。委員長か」
俺は置き上げた顔をもう一度机に伏せた。
「なんだじゃない。ほら寝るな」
俺は体を揺さぶられる。
「もう何」
「秋山君、先週のプリントまだ出してないよね。クラスの皆の分私が回収してるんだから」
「プリント?ちょっと待って」
俺は鞄の中を探る。基本的に俺は鞄の中のものをそんなにいじらないので、あるはず。
あった。少しクシャクシャだけど。
「はい。委員長」
「ちょっとぐしゃぐしゃじゃない。ちゃんとファイルに入れなさいよ」
「別にいいじゃん」
「良くないよ。ったく、まあもらっておくね」
呆れた顔をしたが、委員長はプリントを持って別の席の生徒のところへ行った。
委員長こと、宮崎春香。
外見は黒髪おさげのビン底眼鏡。この令和の時代に珍しいタイプのザ委員長の見た目だ。先ほど白石真冬は学力トップレベルといったが、彼女は学年一の学力だ。
ちなみに入学式の真面目な文を読んでいたのは彼女だ。何なら入学試験全問正解らしい。クラスの皆が彼女に問い詰めて、答えていたのを小耳にはさんだからだ。
そんな彼女だからクラスの委員長決めでは、先生からもお願いされる形で委員長になっていた。
多分どのクラスよりもこの委員長決めだけは早かっただろう。
ちなみに俺は図書委員に立候補したが、俺以外に四人候補者が居てじゃんけんにて決めることになったが負けたので委員会に所属していない。あいこにすらさせてもらえない、ストレート負けだ。俺のじゃんけんの勝敗も、どのクラスよりも早かった自信がある。
始業のチャイムが鳴り、退屈な授業が始まる。
俺は教科書を立てて教師の死角を作り、そこで最近読み始めた本を読んで授業を過ごした。
度々、軽い歓声が聞こえるので何かと思えば、難しい問題を委員長が答えていたのだ。さすが伊達に入試満点じゃないなと感心しつつ読書にふける。
気づけば昼休みに入った。
昼食時だ。クラスの運動部の輩は慌ただしく購買に駆け出し、弁当持参の人たちはは仲のいいグループで固まる。
当の俺は教室を出て便所飯。は、しないが校庭の隅でぼっち飯をする。
別にさみしくはない、静かなのは好きだから。
そういえば、弁当は何だろう。
俺の家では、家事は当番制にしている。今日は親父が飯を作る番。なのだが、弁当を作ってくれるのは初めてなので少しワクワクしている。
俺は弁当箱の蓋を取り中身を見る。
五百円玉が一つ。紙が一枚。
以上。
えっ。
俺は思わず声が漏れる。そして、一枚の紙を恐る恐る開く。そこには親父の達筆な字で――
『すまん。作るのめんどくさくなった。なんか買って食べてくれ』
ふざけんな、クソ親父‼
俺は紙を丸めてゴミ箱めがけてぶち込んだ。
早めに行ってくれれば登校中にコンビニに寄ったのに、なんでわざわざこんなことするんだよ。完全な嫌がらせだし。まあ今朝の俺は気持ち悪かったからこんな仕打ちを受けてもしょうがないか。
とは思わねーよ。
しかも、今からだと確実に購買には何も残ってないだろう。
そう思いながら、購買に向かったがもちろん残っていなかった。
俺は頼みの綱の校庭の自動販売機に向かった。
たしか腹の足しになりそうなものが一つあったはず。
自動販売機売り場に着いた。
そこには、栄養管理食のカロリーメイトがあった。
よしこれを昼飯にしよう、俺は弁当箱の五百円を入れ二箱購入した。しかしこれだけだと口の中の水分が完全に持っていかれるので、お茶も購入。
学校の自動販売機の値段は町中のものよりかなり安いのでそこが嬉しい。
俺は買った昼飯を抱えながら、俺の特等席(校庭の隅)に戻っていると、白石さんの姿が見えた。
今日、最初の彼女の姿を見れただけで、先ほどの親父の怒りは吹っ飛び、胸が高鳴る。
声をかけようか、いや急に知らないやつに声をかけられても怖いだろうな。
いつもの葛藤が俺の中で続く。
そして今日も見ているだけでいいやと、決めてしまう。
白石さんもお昼かな。楽しそうだな。そういえば白石さんの友達ってどんな人だろう。類は友を呼ぶっていうし、白石さん張りのかわいい子かな。
白石さんの視線の相手に目をやるとそこには、同じく楽しそうに笑っている俺のクラスの委員長、宮崎春香がいた。
類は見た目じゃなくて頭のほうだったのかあ。