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デリ嬢を好きになれますか?  作者: ごっちゃん
一章 新人嬢で素人
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新人嬢で素人 7

一部台詞と単語を修正しました

2018年 12月5日 朝7時半過ぎ



 12月に突入した。駅中や商店街の飾りはクリスマスで一色になり、お店のBGMも流れてくるのはクリスマスソングのみ。様々なお店のキャンペーンもそれに合わせたサービスになっている。もちろん職場のデパ地下もクリスマスキャンペーンだらけで、スイーツ店ではケーキの予約も始まっていたり、昨日からクリスマスの装飾準備に取り掛かっている。

 俺が今職場に向かって歩いている地下通りの案内所にはもうクリスマスツリーを飾ってあったりと、どこも気が早い。

 そして周囲の装飾が変わる1週間、藍原千歳あいはらちとせは3階のフードコートに来なかった。どうして来なくなったのかはわからない、もしかするとデリヘル嬢を辞めたのかもしれない。または、デリヘル嬢の仕事に悩みやストレスが無くなったのかもしれない。

 別に藍原千歳のことは秘密の共有相手ぐらいにしか感じてなかったし、ストレスを吐きまくって気が楽になったのかもな。だが、


(何か一言言ってから来なくなれば、こんなに悩むことも無かったんだがなぁ……)


あの日、11月27日の藍原の必死な表情を見た後から感情がモヤついてしょうがない。藍原にとってのもう一つの問題とでも言うべきところだ。

 俺は考えながらも職場に着き、地下フロアの関係者通路から休憩室兼ロッカールームに入る。


「よっ! おはよ」

「おはよ、病み上がり」


 インフルで休んでいた卓郎は3日前から出勤していて、一応念のためマスクをしている。インフルは治った後が人に移るって言うしな。


「お前が休んでる間大変だったんだぞ」

「悪かったって。この埋め合わせは今度な」


 両手を合わせて椅子に座ったまま頭を下げる卓郎。


「そういえば、昨日藍原千歳のいるキッチンホールに納品届けに行ったんだがよぉ」


 俺は着替えを済まし向かって右側の椅子に腰掛ける。

 続々と同僚達が出社して来る中、俺と卓郎は話を続ける。


「なーんか殺伐した空気だったなぁ」

「そうなのか?」

「あぁ。なんかホール長とスタッフが揉めたらしいって」

「…………………」


おそらく揉めたスタッフというのは藍原千歳で間違いない。先日の一件を思い出せば想像がつく。

 きっと藍原は自分の考えた創作案を下げられホール長と揉めたんだと思う。前回も没にされたらしいし、今回は感情的な部分が我慢できなかったんだろうな。


「俺達は作る側じゃないから、何が良くて何が駄目なのかはわからない」

「……………」

「でもーーー」


それは人間として凄く当たり前で誰もが持つ感情だからーーー。


「自分が必死で考えたものを2回も没にされて、悔しくないヤツなんていないだろ」


藍原がいつもの奇策で優しい表の顔を保つことなんてできないって、藍原とあの時間を過ごしてわかった気がした。


「そうだな……。俺だったら殴ってるかも」

「それはやめとけ」


 卓郎のふざけた冗談に軽く和んだ。コイツの良い所はこういうとこなんだよな。真面目な話で場が沈みがちな時に、冗談で場を持ち直してくれるのは山崎卓郎という人間の長所だ。


「じゃあ今日もやるかぁ」

「おう」


俺と卓郎は意気込み今日の業務に取り掛かるため休憩室を出た。



同日 12時半


 俺はまた3階のフードコートのテラス席に来てしまった。

 1週間の間に俺はここに来て藍原が来てるんじゃないかと足を運ばせたが、藍原は1度も来なかった。


同日  17時


 俺の業務は16時で終了する。今日は出かける予定もなく、家で寝そべりながらスマホを操作したりテレビを見たりして時間を過ごしていた。

 だが、今の俺にはテレビの内容も入ってこないしスマホの画面のSNSアプリをスワイプするだけで内容を全然見ていない。

 俺はきっと藍原の愚痴相手として何か相談に乗ってやれないかと無意識に心配してるのかもしれない。


(藍原は、きっと落ち込んでるだろうなぁ)


 藍原自身が考えたスイーツはそんなにダメだったのか。そんなにパティシエとしてのセンスが無いのか。

 俺は胸に引っかかる違和感の正体がなんなのかをずっと考えてた。

 時間はただただ過ぎるだけでこのまま時間が解決するんじゃないかとまた俺は投げやりな思考に陥りようとしていた。


『少しはスッキリした……気がする』


初めて愚痴相手になり話終わった時の藍原の顔がフラッシュバックした。藍原の表情が柔らかくなったのは確かだ。


「俺だけだ。藍原の相談にーーー本当のあいつで話せる相手は」


だから、藍原あいつに直接聞いてやる。たとえお節介って言われてもいい、ウザがられても構わない。こんな感情の薄いクズでも誰かの力になれるなら首を突っ込んでやる。じゃないとーーー


「スッキリできねぇ」


 だが、決意したとはいえ藍原は3階のフードコートには来ない。職場じゃ迂闊に声をかけたら卓郎達にイジられそうだし。そもそも声かけても無視されるだけだ。自宅は間違いなく居留守使われる。


「何かないか? 藍原と誰にも邪魔されず話すことができる方法」


俺は必死に思考を巡らせる。そしてーーー


「ある! 藍原と強制的に2人になれて邪魔されず話す方法」


急いでスマホの検索ページを開いてあのサイトのホームページへ飛ぶ。

 先月、彼女と別れ溜まった性欲を処理しようとしたあの日、ホテルで初めてデリヘル嬢としての藍原と出会うことになった方法ーーー。

 俺はデリバリーヘルスのサイトに本日出勤一覧を開いて藍原の写真を探す。


「いた! 『ちとせ』本日出勤」


写真は顔にモザイクがかかっていたが間違いない。しかもラッキーなことに予約無しだ。

 俺は急いでお店に電話し、予約を取り付けた後すぐに家を出た。



同日 21時頃


 俺はまたホテルへ来てしまった。同じホテルに同じ部屋。そしてーーー


「ッ!!!」


部屋の受話器から音が鳴り響く。

 電話に出た俺はフロントからの女性の案内を許可し部屋のドアを見つめる。


ガチャッ!


ドアノブが回り、色っぽくメイクした藍原千歳が入ってきた。


「なんで………」


藍原は驚いた表情でその場に立ち尽くし、


「よぅ。1週間ぶり……」


俺は無理のある平静を装った態度で藍原と邂逅する。



新人嬢で素人 7 完

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