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デリ嬢を好きになれますか?  作者: ごっちゃん
一章 新人嬢で素人
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新人嬢で素人 6

2018年 11月23日 12時



 あれから藍原千歳あいはらちとせの相談兼愚痴会はこれまでに5回、今回を入れて6回になる。

 今日は金曜日とはいえ平日てのもあり、フードコートを利用するお客はまばらでテラス席なんてこの肌寒さで席は誰も座っていない。さすがの俺も制服の上にジャンバーを着ていないと寒いのなんの…。

 藍原千歳のデリヘルとしての進展は著しいものではなく、最初に会った時のあれもダメやこれもダメに比べればハグと言葉攻めとコスプレは進歩したかのように見える。けど主なサービスをしたなんて一度も聞かないあたりそこはしっかり守ってるわけだ。ていうか、コスプレ解禁したのか……。


「ねぇ、話きいてる?」

「え? あぁ……。お客さんとハグした時に腰を引っ込めた話だっけ? 漫才の練習?」

「どうしてそうなるよ!」


 怒る藍原にびびる俺。あなた怒るとほんと怖いよ。

 まぁ藍原の言いたいことは"ハグをする際に勃った息子が当たるからかわそうとした"だ。想像しただけで面白いな。


「ハグはやっぱり禁止にした方がいいわね」

「もうちょい頑張れよ」


藍原とハグなんて課金しないと叶わないんだからさ。

 それよりもーーー


「なんのコスプレしたの?」

「ミニスカポリスとセーラー服を着させられたわ」


あぁ……なるほど。悪くない。


「信じられなかったわ。あんなの公然猥褻と一緒じゃない!」


そりゃあコスプレ衣装だし。露出度高めの婦警さんと女学生なんか外で見たくない。


「ところで、そっちは休みだろ?」

「そうよ」

「俺仕事だけど……」

「そうね」


えっ? それだけ?

 藍原は右肘を立てて掌に顔を置く。今日の私服のせいで1つ1つの仕草が可愛く見える。白のVネックのニットウェアに黒の膝丈スカート。とどめの紅色のベレー帽が破壊力を増している。ほんとなに着てもよく似合う。


「今日は買い物で来てたのよ。お昼食べようと思ったらあなたがいたから」


いつもは同僚の山崎卓郎やまざきたくろうと休憩室で昼食だが、卓郎は今週の月曜からインフルで休んでいる。

 だから今日はフードコートで昼食をとっていたのだが、たまたま藍原と鉢合わせた。


「もうすぐ休憩終わりでしょ?」


 藍原は左の手首に付けている腕時計をみる


「もう休憩終わりかぁ。急いで食べなきゃ」


昼食に買ったハンバーガーのセットはまだポテトだけしか食べてない。

 俺は急いで包みをめくりがっつく。5、6口でハンバーガーを食べ終えた俺をみた藍原は、


「口元にソースついてるわよ」


とトレイに乗っていた紙ナプキンで口元を拭いてくれる。


「このあともあるんだから、汚いとお客さんに失礼よ」


テーブルに乗り出して屈んでくる藍原は自分の服装を意識してないのか、胸元のVネックが下がり谷間と下着が俺はの位置から見えてしまっている。


「? どこみて…………ッ!!!」

「ぶッ!」


 顔を赤らめ慌ててソースを拭き取ったばかりの紙ナプキンを顔に押し付ける。

藍原は自分の胸ぐらを右手で隠してこちらを睨む。


「見過ぎ!!」

「わ、悪い」


顔ソースくせぇ。


「手洗い行くから戻る」

「ご、ごめんなさい…」


 食べ終えたゴミを乗っけたトレイを持って席を離れる前に、


「……………またな」

「ええ、また」


次がある別れの挨拶をしてその場を後にした。

いつまで続くかはわからない。それでも日常になってきていることを少し、ほんの少し嬉しいと感じた。



2018年 11月27日 10時



 俺は台車に大量のアルミ製のお弁当の容器が入ったダンボールを指定された場所へ運んでいる最中だ。お弁当の容器は何店舗かは同じものを使うため、地下フロアの通路を行き来する。

その際に藍原がいるスイーツ店のコーナーを歩くわけだが、


「今度の新作販売会議に私の考案したスイーツを出してもらえませんか? お願いします!」


キッチンホールから藍原の声が聞こえてくる。

 俺はお店の通路口から見える藍原を見て何があったのか気になった。


「あの、何かあったんですか?」


お店のカウンターで様子を伺っていた販売課の爽やか系男性に声をかける。


「今度ウチのデパ地下スイーツに新商品を出す会議をするんだけど、藍原さんが自分の考案したスイーツを会議の立候補に出してほしいって言っててね」

「そうなんですか?」

「けど、ホール長が認めないんだよ」

「なんでです?」


俺はもう一度お店の奥を覗く。

 30代くらいの身体付きのいい男性が真剣な表情で藍原に何か言っている。ここからじゃ良く聞き取れん。


「なんでかは私にもさっぱりだよ。前も藍原さんの創作案没にしてたしね」

「………………」


遠目からみた藍原の顔は真剣というよりは必死で、なにか急いでるようにもみえた。


「ありがとうございます。自分、これ運ばなきゃいけないんで失礼します」


 俺は台車を押し出し一礼してその場を後にした。

 藍原のあんな必死な表情を見たのは初めてで、普段は愛想良くしてる面しかみたことなかったし、昼の愚痴を吐く時もあそこまで必死な感情を表に出さなかった。

 俺にはキッチンホールの仕事はわからない。ましてやスイーツ作りのことなんてさっぱりだ。それでも、何か悩みの吐き口になれればと思い、


「今日の昼、きいてみるか」


過度な自惚れをした。


2018年 11月27日 12時


俺は、いつものテラス席でホットカフェ・オ・レを飲みながら待つ。だが、


「今日は来ないのか」


この日を境に藍原は来なくなった。



新人嬢で素人 6 完

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