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デリ嬢を好きになれますか?  作者: ごっちゃん
三章 元カノとデリ嬢
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元カノとデリ嬢 7

2019年3月9日 16時


 もうすぐ終業が近づく中、俺はいつも以上の疲労感で1日に溜め息を何回出したかわからない。

 昼に藍原千歳(あいはらちとせ)と3階のテラス席でイベントに出す商品の試食をしていた所に洟村千織(はなむらちおり)とのエンカウントだ。千織ちゃんは藍原に対して謎の対抗心燃やしてたし今後あの2人が出会う事態は避けたい所存だわ。

 明日は4回目のイベント会議があると連絡を受けている。しかも、他店舗を交えた会議で本格的な進行があるとみえる。まぁ、一スタッフの身だから大した事は言えないし言ったところでまともに聞いてもらえるかはわからないが………。

 そうこうしていると終業時間になり俺は休憩室兼ロッカールームに入ると、


「お疲れぇりょうちん」

「お疲れ後嶋」


山崎卓郎(やまざきたくろう)と三村が休憩に入っていた。


「お疲れ」


 俺は休憩室に入ってロッカーを開けて着替えを始める。制服のシャツとスーツは着心地はあまり良くなく、夏場に汗なんてかいた日にはクリーニングを出さなきゃいけない難点がある。施設内は基本空調機が動いているが、物資の運搬搬入倉庫は外で空調はない。3月にもなると昼間の時間は暖かいから下手に汗をかかないように気をつけている。


「2人共聞いてくれ」


 三村は椅子に座りテーブルに両肘を立て手を組み合わせ鋭い表情で俺と卓郎の意識を向けさせる。


「今日、天使を見た」

「「はぁ?」」


 俺と卓郎の声が重なる。急に何言ってんだよ。


「まぁ、話は最後まで聞いてくれ。今日、明日新入荷の商品を運んでいたところすれ違ったんだよ」


 俺は着替えながら、卓郎はスマホを弄りながら三村の話を適当に聞く。


「美少女とな………」


 キメ顔でキメ台詞みたいに言ってるよ。


「多分あれは、高校生か大学生くらいかな」


 つまりギリ未成年?


「なぁ卓郎、俺達は目の前の犯罪者を見過ごすほどお人好しじゃないよな?」

「当たり前だ」

「おい、お前ら! 俺をなんだと思っていやがる!」


 クリスマス合コンの時もそうだったけど、三村の女性への理想は適当だな。


「ナルシスト小デブ」

「あぁ?」


 卓郎、それは言い過ぎ。


「まぁ、冗談はともかく………。どんな子だったんだ?」

「写真みせてやるよ」


 こっそり写真撮ったのかよ。

 三村はスマホを操作してテーブルの真ん中に置く。それを俺と卓郎は覗き見る。


「っ!?」

「へぇー」


 俺は写真に写っている女の子を見て絶句した。2組の女の子が並んでる歩いている写真で、そこには知らない高校生くらいの女の子ともう1人はよく知る女の子だった。


「確かにこりゃ可愛いなぁ」


 卓郎が可愛いと言っているのは俺がよく知る女の子の方で間違いない。一緒に歩いている女の子も可愛いが写真の映り具合的に目立つのはよく知る女の子の方。そう、洟村千織(はなむらちおり)だった。


「だろぉ? LINE交換しときゃあなぁ」

「そ、そうだなぁ………」

「…………」

「…………」

「…………」

「おい後嶋、お前もしかしてこの可愛子ちゃんと知り合いか?」

「へぇっ? い、いやぁ知らない子だけどぉ………」

「絶対嘘だぁ!」


 やべっ! あからさまに態度でバレた。


「せっかく知らんフリしてたのに。龍太(りょうちん)は正直過ぎるって」


 卓郎は千織ちゃんの事について知っている。

 俺が自校に通ってた際に事情を説明して写真も見せている。


「山崎も知ってたのかよ………」

「わりぃな」

「なぁ後嶋、今度紹介してくれ!」

「あ、あぁ。今度な」


 手を合わせて頭を下げる三村の必死さに引きつつ俺は承諾した。一応千織ちゃん本人に聞かないと。


「じゃあ、お疲れ」

「お疲れ」

「頼むぞ後嶋!」


 俺は休憩室を出て関係者口から店内を歩き施設の出入り口へ。夕焼け空が広がる商店街を駅へ向かって歩く。

 特に何も起きず、誰か見知った人間に会う事もなく駅に辿り着いた。

 南口でバスを待っている俺は今日の昼の出来事を思い出す。

 まさか、千織ちゃんとエンカウントするなんて予期せぬ事態だった。藍原とは雰囲気悪そうだったし、卒業式を終えた後に静岡(こっち)へ一人暮らしを始めたら藍原に会う確率は高くなる。あぁ、胃が痛い。



同日17時


 自宅のアパートに戻った俺は、明日の会議に向けて何か案を出せないか考えていた。ノートには先日から出ている議題、


・余ったスペース

・食品販売における保存管理と設備電源の確保

・飲食スペースの確保

・テレビ関係者の取材に関して


………etc


おそらくこれからも問題はわんさか湧いてくる。俺でも何か出せる解決策がないか考えるが、悩みに悩んだ結果時間だけが経過し気づいた頃には20時を回っていた。


「腹減ってきたな」


 空腹で胃が鳴る。しかし、今日は夕食の弁当を買ってないし、インスタント食品やカップ麺の買い置きも無い。

 俺は立ち上がり買い物に行く準備をし始める。夜はまだ冷える為、パーカーを羽織って袖に腕を通した所で、


ピーンポーン


家のチャイムが鳴る。

 俺は玄関に駆け寄り「はいはーい」と扉を開けると今日何度目かはわからない衝撃を受ける。


「はぁ?」


 玄関の外に立っていた人物、その人物は昼に突発に現れ、同僚に目をつけられた女の子ーーーーーー洟村千織が目の前に立っていた。


「ち、千織ちゃん!?」

「……後嶋さん、今日泊めてもらえませんか?」

「いやいやいや、なんでさ!」


 これは何の夢ですか?

 前に、千織ちゃんが「引っ越してきたら家に遊びに来たい」てLINEでやり取りしたから住所教えたんだった。

 にしても、昼間に千織ちゃんとは会ったけど地元に帰ったんじゃなかったのか?


「まだ、新幹線も本数残ってるから帰りなよ」

「嫌です」

「だから何で!」

「1ヶ月です」

「?」

「1ヶ月の間我慢してました。だから、今日会えて嬉しかったんです」


 それは俺だってわかってる。久々に会えて話したいことがあるのは俺だって一緒だ。

 だが、未成年の女の子を男の家に泊めるなんて犯罪もいいところだ。

 ここはしっかり言い通さないと………。


「それでも、ダメなものはダメなんだよ」

「でも!」

「大体、親戚の人にお世話になってるんだっけ? その人達にはなんて言ったのさ」

「それは………友達の家に泊まるって」


 呆れた。よくそんな嘘が通ったものだ。こっちに友達なんていないだろ。


「はぁ………。まだ間に合うから新幹線で帰りなよ」

「こんな暗い夜道に1人で帰らすんですか?」

「うっ! だけど……」


 多分、何を言っても聞かなそうだ。

 俺は内心深い溜め息をつき心が折れた。


「わかったよ………。でも、明日の朝一には帰る事。出勤する時、一緒に駅まで行って上げるから」

「ーーーっ! ありがとうございます!」


 まったく、嬉しそうな顔しやがって………。

 俺が渋々許可を出すと「お邪魔しまーす」と図々しく部屋に入っていく。


「ここが後嶋さんの部屋………!」

「一人暮らしの寂しい部屋だよ」


 俺の部屋に見惚れている千織ちゃんを見て俺はある事に気づく。


「そういえば千織ちゃん、着替えは?」

「…………無いです」


 なんてこったぁ。


「服は後嶋さんのを貸してください!」


 いやサイズ合わんだろ。


「ズボンはともかく、シャツだけ着れれば大丈夫です!」

「下着はどうするの?」

「それは………最悪無しで………」


 もう何言ってるのかさっぱり。


「洗濯機に確か乾燥機能付いていたから後で乾かすよ」

「お、お願いします………」


 赤面になり申し訳なさそうな態度をとる千織ちゃん。


「ところで後嶋さん、何処かに行こうとしてたんじゃないんですか?」


 そういえば夕食を調達しに行こうとしてたんだった。


「千織ちゃん、お腹空いてる?」

「……はい。ご飯まだで………」

「俺もこれから買いに行こうと思ってたから。一緒に買いに行くかい?」

「………ッ! はい!」


 俺は最初から外出する格好で千織ちゃんも私服。すぐに出かけられる冗談だった。

 玄関の鍵を閉めて階段を降りる。藍原の部屋の前を通ると電気がついていないからして留守にしているらしい。藍原と鉢合うのは避けたいところだ。


「後嶋さん! 早く行きましょう!」

「あぁ」



同日21時


 買い物から帰ってきた俺と千織ちゃんは夕食の準備を始める。

 千織ちゃんが作ってくれるらしいけど、簡単なのを作るって言っていたからすぐに作れるものでパスタになった。パスタなら俺でも出来るんだよなぁ。

 千織ちゃんは腕捲りをして鍋に水を入れた後、コンロに乗せて火をつける。

 俺は「何か手伝おうか」と聞くと「大丈夫ですよ」と言って断る。そりゃパスタ茹でるだけなんだからいらないよな。

 俺は、千織ちゃんがパスタを作る間にテーブルを片付けてパスタ用の皿とスーパーで買ったサラダを取り分ける皿を用意する。

 パスタを茹でる時間は大体強火で10分くらい。千織ちゃんがパスタ麺の柔さを確認すると水切りボールでお湯を切り皿に分ける。

 あとはカルボナーラのソースを絡めて黒胡椒をかけたら完成だ。

 炬燵テーブルに持ってきたら対面するように座る。手を合わせて「いただきます」と言ってフォークを持ってパスタを絡めて口に運ぶ。まぁ、ソース絡めただけだから美味いもくそもないんだよなぁ。


「なんか同棲してるみたいです」

「唐突に来て何言ってるんだよ………」


 まったくお気楽な………。


「次は泊めないからね」

「わ、わかってます……」


 夕食を済ました後は洗い物をする。その後は、千織ちゃんを先に風呂ーーーーーーというかシャワーを先に浴びてもらう。

 俺の部屋はトイレと湯船が一緒のユニットバスで、お湯を入れて浸かるのは難しい。身体を洗う意味でも。年頃の女の子には悪いけど我慢してもらわないといけない。

 洗面所で服を脱いで風呂場に入って扉が閉まる事を確認したら洗濯籠に入った服を洗濯機に入れるのだが………。


「…………」


 わかってたよ。

 わかっていたんだよ。

 そりゃあさっきまで着てたんだから脱ぎたてほやほやだわなぁ。

 俺は理性を抑えながら千織ちゃんの着ていた衣類を1枚ずつ洗濯機に入れる。そして、最後の難関が………。


「……………」


 女の子の下着を触るのは躊躇があるが、早くしないと千織ちゃんが出てきてしまう。

 俺は水色の華やかな下着を洗濯機に入れて洗剤と柔軟剤を入れてスタートボタンを押した。

 それから、クローゼットの引き出しから白いTシャツと短パンを出して洗面所の加護に入れておきカーテンを閉めた。これでひと段落つける。

 俺はテーブルにノートを広げて再び会議の案を考え始める。

 それから15分くらいだろうか、洗面所の方で扉が開く音がした。どうやら千織ちゃんが風呂場から出てきたみたいだ。

 さらに少ししてドライヤーの音が部屋に響く。女性は何かと長いから髪を乾かすのにも時間がかかるようで、回していた洗濯機が洗い終わってしまった。


「お先にいただきましたぁ」

「歯ブラシは洗面所に置いてあるかーーーーーーらぁ!?」


 先程の買い物で買った歯ブラシのことなんかより目の前の衝撃に頭の中がパニックになる。


「どうしました?」

「どうしました? じゃないよ!」


 俺は確かTシャツと短パンを籠に入れといたはずだけど?!


「なんで下穿いてないの!」

「あぁー………。下着無しでズボン穿くのは違和感が………」


 それを言っちゃあ男はズボンの下にトランクス穿くぞ。


「下着乾くまでこのままでいていいですか?」

「良くないよ!」


 最悪、シャツのサイズが大きいおかげで丈が膝までかかっているからいいけど。


「下着乾燥機にかけるからちょっと待って!」

「ッ! 下着触ったんですか?」

「そりゃあ洗濯しなきゃ着れないんだから………」

「後嶋さん、デリカシー無さ過ぎです!」


 赤面になって慌てる千織ちゃんを見て俺は思ったね。今の裸Tシャツより下着触られる方が恥ずかしいのはおかしいと………。


「じゃあ、俺も今からシャワー浴びてくるから、その間に下着を乾燥機にかけときなよ」

「は、はい………」


 俺は引き出しから着替えを取り出して洗面所へ行き、カーテンを閉めてから服を脱いで風呂場に入る。

 蛇口を捻ってシャワーを出して浴びる俺は溜め息を吐きながらこの後の事を考える。

 裸Tシャツ。現役女子学生。一晩2人っきり。

 俺はこのまま理性を保てるだろうか………。



元カノとデリ嬢 7 完

次回に続きます

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