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デリ嬢を好きになれますか?  作者: ごっちゃん
三章 元カノとデリ嬢
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元カノとデリ嬢 5

 藍原千歳(あいはらちとせ)の祖父・藍原敏夫(あいはらとしお)は市内の病院に入院中だ。詳しい病名とかは聞いていないが、かれこれ入院してから2年が経過している。

 俺と藍原敏夫は面識があり、去年の12月頃か藍原に連れられ病院へ行きそこで藍原敏夫と話をした。藍原自身は直接合わす気は無かったみたいだが、あの時は病室の外で待っていた俺を招き入れたから不可抗力だ。この一度の面会を機に3ヶ月近くは藍原敏夫とは会っていない。故に会うのは久しぶりで緊張がいつもの調子を狂わせ仕事に集中出来ず夕方になってしまった。


2019年3月4日 17時


 仕事を終えた俺は私服に着替えて職場を後にした。駅まで一直線である商店街の通りに出ると藍原は左手首に付けた時計を見て立っている。いつもは駅前集合なのになんで今回は職場の近くなのか。知り合いに見つかったら変な誤解を生みかねない。


「待ったか?」

「大丈夫。私もついさっき終わって出てきたから」


 まるで恋人のような会話をする俺と藍原だが、いざ歩き始めれば会話の少ないドライな2人だ。まぁ、実際藍原に話す話題なんてそこまでで服装なんて褒めた日には、


『急に何? 気持ちわるいわ』


とか言われそう。

 藍原のファッションコーデいつものさながら磨きがかかっている。とても仕事上がりの女性とは思えない。赤いシャツに薄手の渋い緑のコートと青いスキニー。やっぱり仕事行くのに動きやすい格好の方がいいのかね。

 藍原の顔、ルックス、スタイルが逸脱しているのはいつものことなのだが、


「あの子可愛い………」

「髪短かったらタイプかも」

「隣彼氏か? 地味だろ。似合わねぇ」


隣に立つ俺の身にもなれ。


「どうしたの?」

「いや、俺も高身長のイケメンだったら良かったと思って」

「?」


 藍原以外に身長あるかなぁ。俺の身長は今も昔も変わらず175センチ届かないくらい。対する藍原は見た感じ160無いくらいか。藍原の隣で歩くには一度死んで転生しなきゃダメだな。

 職場から200メートル歩き地下街に降りる。地下街を使えば交差点で止まることなく駅まで一直線だ。


「あ、ちょっと待ってくれ」


 俺は急に足を止めて藍原に止まるように言う。

 俺が足を止めた横には花屋があり、前に藍原がカーネーションを買って出てきたお店だ。

 俺は急いで店内に入ると店員の女性に「見舞い用の花をください」と頼みオレンジと白のアレンジメントを5分で作って見せた。店員すげぇ………。

 俺は5千円を支払って店から出る。藍原が俺の持つ見舞い用の花に視線を向ける。


「それ………」

「前は急だったから何も持っていけなかったけど、今回はわかってるから見舞いの花ぐらい持っていかないとな」

「い、いいわよ!」

「いや、病人へ会いに行くのに手ぶらじゃまずいだろ」

「そ、そうだけど………」

「納得したなら行くぞ。早くしないとバス来ちまう」


 腑に落ちない表情の藍原より先に歩を踏み出す。藍原のあんな表情久しぶりに見たから役得だ。

 駅の南口に着いた俺と藍原は病院行きのバス停に立つ。夕方のバスターミナルは帰宅する社会人や学生が多く病院行きなのにやたら人が立ち並ぶ。このまま乗れなかったら面会時間に間に合うか怪しいところだ。


「面会時間て何時までだっけ?」

「19時よ」


 俺はスマホをズボンのポケットから取り出して時間を確認する。現在時刻は17時半ぐらいか。乗れなかったら怪しい時間だな。

 バスターミナルにバスが来る。続々と乗る乗客の中に俺と藍原も乗り込むがいかんせん狭い。座席はほぼ座られていて立っているにも密着感が凄い。というか隣に立つ藍原と密着しるのがヤバい。座席に座っている学生よ、君達は若いんだから他の年輩に席を譲りなさいよ。


「大丈夫か? 藍原」

「ええ。なんとか」


 満員のバスで窮屈になりながらも見舞いの花だけは潰れないように上の荷物置きに避ける。藍原の右隣の中年サラリーマンが藍原にチラチラ視線を向けていることに俺は気づいている。なんとかしなければ。

 発車してからしばらくするとバスは信号で止まる。ブレーキの反動で車体が揺れ藍原が俺に寄りかかってくる。


「っ!?」

「ごめんなさい………」

「い、いや気にするな………」


 近い!

 藍原の顔が俺の肩に当たり超至近距離の藍原に動悸が荒れてくる。中年サラリーマンよりも俺がどうにかなりそうだ。

 その後もバスは信号に止まる度に揺れ、その度に藍原が俺に寄りかかってきた。バスの乗客はバス停で降りる人もいれば乗る人もいて窮屈具合は最終的に目的地の病院前まで変わらなかった。疲労感で病院前のバス停でしゃがむ俺を見た藍原は申し訳なそうに、


「ほんとに大丈夫?」

「はぁ……はぁ………大丈夫だ」


同日18時


 院内に入り藍原は受付を済ます。エレベーターに向かい院内の廊下を歩く俺達に1人の看護師とすれ違う。


「こんばんは藍原さん。今日もお祖父さんへお見舞いですか?」

「はい。祖父がいつもお世話になっています」

「あら?」


 看護師は俺を見てニヤける。


「彼氏さーーー」

「「違います」」

「そ、そう………」


 相変わらずここは息ぴったりの俺と藍原だった。

 それからエレベーターに乗り4階に辿り着く。前回来た時と病床は変わってないようで左の通路を歩いて突き当たりを左に曲がった407号室に『藍原敏夫(あいはらとしお)』と書かれた札が付いていた。407号室は個室で前回来た時は通ろで待たされたが、今回はそのまま入らせてくれるらしい。

 藍原が引き戸の扉をノックして入っていくと部屋の奥のベッドで上半身を起こし老眼をかけて本を読んでいた藍原敏夫がいた。


「調子はどう? おじいちゃん」

「おぉ、千歳じゃないかぁ。と………」

「ども」

「後嶋君かぁ! 久しぶりじゃのぉ」


 藍原のお祖父さんと会うのは3ヶ月ぶりだったか。


「あの、これ……」


 俺は持ってきた見舞いの花を差し出す。


「ありがとう、後嶋君。気を遣わせてすまんな」

「病院へ行くのに手ぶらじゃ悪いので」

「はっはっは。謙虚じゃな」


 藍原は俺が持ってきた花を窓際に置いて「私、先生に会ってくるから」と言って病室を出ていってしまった。


「そこに椅子があるから使いなさい」


 部屋の隅にポール椅子が置いてあり、俺は椅子を持ってきてベッドの横に置いて座る。


「あの、今日は………」

「後嶋君と話がしたくてなぁ。千歳に頼んだら煮え切らない表情するものだから」

「そうですか………」


 それもそうだ。

 元々、藍原と関わるようになったのは事故的なものだったから友達とか恋人みたいな単純な関係ではない。そもそも藍原が前に俺を連れてきたのも現状を説明するためであって最初から会わせる気はなかったのだ。


「最近のあの子はどうじゃ?」

「『どう?』と言われましても………。本人に聞けば………」

「あまり自分の事を話さんからのぉ。一人暮らしを始めて儂が入院してからあの子は自分の事を話さなくなってしまった………。おそらく心配をかけないようにしとるんじゃよ」


 正直、藍原の考えには共感するものがあるし自分も母親とは一人暮らしを始めた頃は心配かけまいと連絡が疎遠になっていた。

 だから、俺は話す。最近の藍原をーーー。仕事でサブリーダーに昇格した事。周りとの人付き合い。俺との出来事。包み隠さず話した。ただし、デリ嬢の仕事だけは言わず。


「ーーーーーーそうかい。仕事もちゃんと続けてて安心じゃよ」

「なんだかんだ真面目ですからね」

「自分がなりたくてなった職業じゃ。投げ出すようならそこまでじゃよ」


 藍原が子供頃からなりたかったパティシエという職業。現に今はデパ地下のスイーツ店で働く藍原は夢を叶えたということだ。だがそれだけではない。自分を育ててくれた祖父に恩返しがすることが藍原の今の目標だ。それを直接俺から伝えるのは不粋である。ならば、遠回しにその手助けができればと思った俺はこれから始まるイベントの事を話した。

 そこでは、藍原の働くスイーツ店が出店すること。それは即ち藍原の考えたスイーツが多くの人に食べてもらえることであり、藍原の目標をーーーーーー真の夢を成し遂げる絶好の機会なのだ。


「最近、体調も安定してるって聞いたのでその日だけ外出許可が出れば是非来てください」

「ああ、先生に話してみるよ」

「お願いします」


 俺は頭を下げて一礼する。会話もひと段落ついたところに藍原が戻ってきた。


「ごめんなさい。先生と話が長引いたわ」

「おう」

「最近はご飯ちゃんと食べれてるから安心したわ」

「体の調子が落ち着いているからこのまま外出できるかどうか先生に聞いてみるな」

「っ! うん」


 少し嬉しそうにする藍原に気づかれないよいに俺と藍原のお祖父さんでアイコンタクトした。


「それじゃあ私達帰るから何かあったら連絡して」

「そうするよ。後嶋君もまたのぉ」

「はい。お大事にしてください」


 俺と藍原は病室を後にした。外は暗くなり今からバスで帰ると駅を経由するため遠回りになる。ならば帰りはタクシーを使うしかない。車の免許を取ったのに車を運転しないのはどうなんだろう。


「帰りはタクシーでいいよな?」

「ええ」


 互いに同じアパートに住んでいるなら当然帰る方法も同じになる。藍原とタクシーに乗るのは初めてだが、まぁそんなに話題を振ることもない。

 結局、アパートまでは会話は無い。というか病院からアパートまでそこまで遠くなく、ほんの10分で到着してしまった。

 タクシーを降りた俺達は代金を支払って自室に戻ろうとする。


「じゃあ」

「ええ。ーーーーーー今日は」

「え?」

「今日はありがとう。おじいちゃんのお願いだったから………」


 階段を上がる俺は足を止める。


「今日藍原のおじいさんにイベントの事話した」

「っ!」

「外出許可出るといいな」

「………ええ」

「じゃあな」


 きっと余計なお世話かもしれない。けど、俺にも何か目標を立てたかった。それが偶然"藍原を夢を叶えてやりたい"という結論に繋がった。ただ、それだけだ。

 自室に戻った俺は、夕食のカップ麺を食べ風呂を済ましてテレビ少し観てから就寝についた。

 目標があるというだけで向上心が湧き立つ。今は目の前の事に全力をかける。





同日22時 


 愛知県名古屋市の親戚の家に世話になっている洟村千織(はなむらちおり)は、就寝前に進学先の大学である静岡のアパート情報をパソコンで見ていた。今週末に静岡へ行き実際に住居を確認するためだ。ある程度目星は付けているが実際の間取りがどのくらいかは見に行かなければわからない。


「千織ちゃん、今週中には荷物をまとめ始めないと引っ越しの時に困るわよ」


 千織の母親の妹である叔母が部屋を見ながら言う。


「そうだね。明日には準備を始めるよ」

「そう。おやすみなさい」

「おやすみなさい」


 週末の土曜日は静岡へ行く。千織は久々に会いたい思い他人もそこにいるため、今回は連絡せずサプライズで驚かせようと高揚する気持ちを胸に秘めて就寝につくのだった。



元カノとデリ嬢 5 完

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