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デリ嬢を好きになれますか?  作者: ごっちゃん
三章 元カノとデリ嬢
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元カノとデリ嬢 4

2019年3月4日 8時頃



 職場へ出勤してきた俺へ最初に話しかけてきたのは課長だった。なんでも、


「今日の午前中に月末のイベントの合同打ち合わせがあるから頼むね」


ということらしい。

 打ち合わせの規模自体はそれほど大きくはなく、業務課と出店店舗に販売課と企画運営課の代表者が集まる。俺は1アルバイトの身ながらもこんな大それた場所に赴がなければならない。課長が一緒らしいけど当然ながら緊張するわけよ。

 朝の運搬された荷物確認を終えて台車に積荷を乗せた後は代車を押しながら移動する。エレベーター使って地下の食品フロア内を移動しているところに、


「後嶋さん! おはようございます」


丁度出勤してきてスタッフの制服に着替えたアルバイトのいのりちゃんと鉢合わせた。

 彼女は去年末のクリスマス合コンの場に居た子で、俺の対面に座っていたがあまり話題が膨らまなかった。あの時は申し訳ない!


「おはよう、いのりちゃん」

「今日も荷物いっぱいですね」

「なんか組み立て式の紙の容器などの雑貨物が多いみたいだけど………」

「最近はバースデイ用のケーキも注文受けるようになりましたから」

「あぁ。だから蝋燭やバースデイカードが発注リストに入っていたのか」


 俺といのりちゃんは目的地が同じなため会話をしながら地下フロアを歩く。目的地のスイーツ店まではそんな距離は無く、少し会話しながら歩いているとすぐに到着してしまった。


「荷物は私達で下ろしますから、後嶋さんは納期リストと検品表のチェックお願いします」


 いのりちゃんはカウンターから奥のホールにいる男性スタッフを2人連れてきて荷物を下ろし始める。

 俺はリスト用紙と検品表の紙の内容を確認していると目の前に人の気配を感じ正面に視線を向ける。


「ーーーーーー」

「ーーーーーー。ご苦労様」


 目の前には藍原千歳あいはらちとせが俺の顔をジッと見つめていた。


「お、おう」

「納期リスト確認するから貸して」


 藍原が差し出してきた右手にリストの用紙を渡す。その場でリストの内容を確認している藍原に俺は昨日のLINEの事を聞こうと思った。だが、今は仕事中で私語を口にする必要はないと考えた。それでも俺は藍原に言っとかなければならない言葉がある。


「一昨日は悪かったな」


 一昨日の出来事。

 それは、かつて付き合っていた河幹千尋かわみきちひろとの再会にして藍原の前でみっともない場面を見せてしまったことだ。


「………」


 藍原はリストを確認しながら目線だけ俺に向け、


「ーーーーーーそう」

「それだけ言いたかった」


再び目線をリストに戻す。

 藍原はリストにサインして「はい」と俺に差し出すと奥のホールへ戻って行く。気のせいか、藍原の表情が少し柔らかくなったような気がした。あくまで"気がした"だけだが。


「藍原さん、機嫌治ったみたいで良かったぁ」

「そうなの?」


 荷物の中身を出し終えたさきちゃんが俺の隣に並び立つ。


「そうですよ! 昨日はピリピリしてて胃が縮むかと思いましたぁ」

「へぇー」


 まぁ何はともあれ、藍原に言いたかったことも言えたし改めて仕事に臨めるわけだ。この後はイベント準備の打ち合わせ第一回目が待っているし気を引き締めて行かないとな。



同日10時


 俺は課長と共に商業施設の近くに位置する雑貨ビルに来ていた。ここは施設経営全体の事務処理や会議を行う場所で、俺がここに来るのは就職の面接以来だ。エレベーターで4階へ上がり通路をしばらく歩くと多目室と書かれた扉がある。開けるとテーブルが真ん中に置かれそれを囲むように椅子が並べられている。


「まだ誰もいませんね」

「後嶋君はあそこの席で座って待っていて」

「はい」


 窓側の1番端の席に座ると次にスーツ姿の爽やか系の男性が入ってくる。


「おや、早いですね」

「苅野くん! 今回の件に君も参加かぁ」

「はい。今回が初の企画立案なもので、まさかここまで大きなイベントになるとわ………」

「出世街道まっしぐらだね」


 どこかで見たことのある爽やかイケメンだなぁ………。


「失礼します」


 出入り口の扉が開き乾さんと藍原も現れる。仕事中は厨房での制服姿だが、今回施設外な為私服姿だ。藍原はニットのシャツに紺のジーンズ姿、乾さんはスーツ系のジャケットの下に縞模様のシャツと白のワイドパンツ。ぱっと見丸の内OL感が凄くでている。ここ静岡だけど。


「乾さん、藍原さんも今回はよろしくお願いします」

「えぇ。まさか私達のお店が選ばれるて………。頑張ってきたかいがあったわ。ね? 千歳ちゃん」

「はい」


 窓際に座る俺は遠目から2人を見ていた。苅野という爽やかイケメンは話も上手で当然のように会話が盛り上がっている。乾さんも藍原もそりゃイケメンと話した方が絵面が映えるわけよ。


「前任者の件は残念でしたが、お二方がホールスタッフ達を上手くまとめ上げてくれてるのでこちらも安心の限りです」


 あっ! 思い出した。

 苅野という爽やかイケメンは12月の前ホール長の逮捕の件で世話にはなってないけど情報を引き出した相手だ。


「そんなことないわ。苅野君のサポートのおかげよ」


 前ホール長が辞めてから店舗の状態は不安定なのは当たり前だ。それでも3ヶ月の間スタッフが誰も辞めず寧ろ売れ筋は伸び上がっているとしたら、それはイケメンやり手の苅野のおかげということか。イケメンで仕事もできてコミュ力もあるとか反則だろ。


「もうすぐ会議を始めますので空いている席で構わないので着席していてください」


 そう言われ藍原と乾さんは俺とは反対側の席に座る。対面に座った藍原に俺は、


「イケメンエリートっているんだな。フィクションの世界だけかと思ったわ」


離れた場所から聞いていた感想を小声で言う。


「クスっ。あなたとは大違いね」


 藍原は小さく吹き微笑を浮かべる。あのぉ、喧嘩売ってます?

 しばらくすると男性2人の女性1人がこの会議室に入ってきた。男性は30代後半から40前半くらい、女性は30代くらい1人で今回は少人数で会議を進行するようだ。


「揃いましたので、それでは始めましょう」


 いよいよ会議が始まる。一通り話を聞いていた限りこうだ。

 今回のイベント企画は、市内の商業施設各店舗の合同出店であり、各店舗の新作商品を売り出す場として設けられた話でもある。会場は市内のイベントホールを貸し切り、店舗はホール内にブースを設営する形を取る。お祭りの屋台みたいなもんだな。

 しかし、当然問題はある。苅野が貸し切り先を視察に行った際に気づいた問題点。1つはイベントホールが思っていた以上に広かった事。出店する商業施設はこちらを含め6店舗の予定でいたことから貸し切り先の広さを考えると6店舗じゃ少なくホール内が穴だらけになってしまうこと。極力無駄なスペースを無くないともったいないのだ。貸し切りにも莫大な予算が必要だしな。

 2つ目はホール内に電気を引っ張るのが困難だということ。電源自体はホール内にあるのだが、壁際のコンセントからケーブルを伸ばすにも1つ目の問題点と重なり無駄なスペースが増えてしまう。販売する商品にも制限が設けられるわけだ。

 3つ目は飲食に関する点だ。売り出す商品によってはその場で食べれる食品を販売する店舗も出てくるはずだ。だが、そこから出るゴミは数知れん。近年ゴミの散乱や分別無視などが問題視される中での飲食は了承しかねるイベント施設が多い。なるべく多くの客に来場してもらうためには課題をまとめ上げて可能か否かを判断する必要があるのだ。

 今回の初回は会議というより説明事項と問題点を上げただけの会議になってしまった。端に座って聞いていた俺でも理解できる通りかなりの見切り発車だ。若手かつ初めての企画発案である苅野にどこか焦りがあったのかもしれない。それでも俺にとって今回の案件は成し遂げるべきだと思っている。


『色んな人に食べてもらった私のスイーツをおじいちゃんに食べてもらう。それが私の………恩返しだからーーー』


 去年、初めて藍原の祖父に会った後の帰り藍原本人の本音を今でも覚えている。今回は絶好のチャンスだ。藍原のお祖父さんも体調が良好になりつつある今が好機なのだ。だからーーー


「すみません………。私の計画不十分な発案で皆さんにご迷惑をーーーーーー」

「やりましょう」

「………君はーーー」

「下っ端の俺でも何か解決策を考えます。だからーーー成功させましょう」


考えて考え抜いて全部出来るようにするまでだ。

 俺の言葉に周囲が唖然とする中、


「私もーーーーーー全力で協力します。だから、成功させましょう」

「藍原さん………」


藍原も俄然前向きな意思を露わにする。

 この室内が徐々にやる気に満ち溢れる空気が漂う。それに応じるように周囲の関係者達も前向きな姿勢になっていく。


「皆さん………ありがとうございますっ!」


 深々と頭を下げる苅野。

 こうして会議は一旦幕を閉じた。この会議で進展なんて無かったし問題点だらけでこの先不安だらけだが全員のやる気スイッチだけはオンになったのは明白だ。

 この後、会議が終わればそれぞれの持ち場に戻る。続々と会議室を出て行く面々俺もその中に混じる。課長は他の部署に用があると言って俺は1人で建物を出るためエレベーターの前に行くと、


「藍原………」


藍原千歳はエレベーターの前で立っていた。

 

(そういえば、今日の夕方に藍原と待ち合わせだったな………)


 エレベーターの前で待つ俺達は黙り込む。そんな空気がむず痒い俺は、


「今日の夕方、用ってなんだよ」


この後の藍原との用事が気になって聞いてしまった。どうせいつもの相談事か何かだろ。


「病院よ」


 藍原はこっちを見ずに淡々と一言発した。



元カノとデリ嬢 4

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