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デリ嬢を好きになれますか?  作者: ごっちゃん
三章 元カノとデリ嬢
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元カノとデリ嬢 3

更新遅くなりました……

2019年3月3日 7時



 起きたら出勤時間だった。しかもバスが来る30分前。良くもまぁあれだけの出来事があって熟睡できたものだ、と自分に呆れを感じざるを得ない。

 慌てて起きた俺は急いで支度をする。シャワーを浴びて髪を乾かし服を着る。一連の動作に無駄を作らず、迅速に出勤の準備を完遂させ家を出る。

 季節は春目前。暖かい日もあれば寒い日もあり、桜の木も刺激されて蕾が出来てるのを発見できた。

 俺は社会人。3月から4月までの期間特に行事なんて無い。学生が卒業式から入学式を行うような、卒業から入社式のような特別的意識する程の行事は無いのだ。いつも通りの日常が淡々と来る。

 俺はバスの席から外を眺めながら昨日の夜を思い出す。元カノとの再会。そしてその場に居た藍原千歳あいはらちとせ。初対面の2人なのに一言、二言で相容れない存在だと確信してたように見える。女って怖い。

 あの時、河幹千尋かわみきちひろの言葉を聞いた時、彼女はまだ気にしているように見えた。彼女は将来の事を考えて『結婚』を切り出してくれたのは俺にだって解った。それを断った事が彼女を傷つけてしまった事も………。

 バスを降りた後は職場まで徒歩であることも普段と変わらず、周りのサラリーマンやOLやバイトである人達の中に混じって地下街を歩いて行く。ある程度歩くと階段を登って地上に出ればいつもは活気のある街中も朝になれば人は少なく店もまだ開いていない。街の中を歩き進み職場の商業施設に着く。裏口の関係者通路を通って休憩室でありロッカールームの扉を開けると、


「おす。おはよう」

「おはよう」


同僚の山崎卓郎やまざきたくろうが椅子に座ってスマホを弄っていた。

 俺はロッカーに荷物を閉まって制服に着替え卓郎の対面に座る。テーブルを挟んだ対面の卓郎がスマホを弄る手を止めると、


「月末のイベントのスタッフ、ウチから1人出すらしいな」


月末のイベントホールで行われる商業施設の販売イベントについて話題を出してかきた。


「その話だけど、俺が頼まれた」

龍太りょうちんが?」

「課長の指名だ」


 理由は単純。出店するお店が俺の担当している店で、そこのスタッフ達とはコミュニケーションを取ることが多い。そんな俺だから今回の条件に合致したということだ。


「そうか。頑張れよ」

「あぁ」


 その後の一日は普段と変わらなかった。ただ、午後の業務でレジカウンターに出てきた藍原と目が合った際に少し気まずさがあったことだ。

 藍原はおそらくなんとも思ってないのかもしれないが、俺は変な意識をしてしまっている。


『みっともない自分をちゃんと否定して』


 藍原に言われた言葉は一晩経ったところで消えることはなく、まだ俺の心境を揺さぶるばかりだった。



同日17時



 終業時間が過ぎ、休憩室で帰り支度を済ました俺は夕食の惣菜や弁当を物色しに地下の食品コーナーに来ていた。スーパーと違って割引されることがない為どのお弁当も定価で買うことになるが味は誰もが認める美味しさなのとスーパーでは出さないような豪華なお弁当が売りのデパ地下弁当である。

 俺はいつも食べる『季節物の幕の内弁当』を買って食品コーナーの地下から1階に行くのにエスカレーターへ向かっている途中、


「後嶋くん」

「乾さん。なんですか?」


藍原が所属しているスイーツ店の現ホール長の乾さんが通りすがりの俺を呼び止めた。

 乾さんは藍原に負けずと劣らない美女でお姉さん気質な事から職場じゃ頼りになるお方だ。歳も2つしか違わず俺としても話しやすい。

 そんな乾さんが俺を呼び止めた理由はなんなのだろうか。


「今日早上がりなの。一緒に駅までどうかしら?」

「いいですよ」


 乾さんと帰りを共にするなんて断る理由があるだろうか。


「良かったぁ。じゃあ着替えてくるからちょっと待っててね」


 そう言って乾さんは関係者通路の方へ行ってしまった。

 俺は店内で厨房のスタッフ達に指示を出す藍原を店の外から眺めていた。サブリーダー的なポジションについた藍原の仕事っぷりは遠目から見てる俺でもわかるくらいの手際の良さだった。流石は生真面目。


「お待たせ」


 俺が遠目から藍原を眺めていると私服姿の乾さんが着替えを済まして戻ってきた。

 俺の目の前に現れた美女は黒のコートに赤いハイネックセーター、プリーツスカートで大人の春コーデを見事に着こなしている。


「行こっか」

「あ、はい」


 いかん。つい見惚れていた。

 俺と乾さんはエスカレーターを上がり1階の出入り口から外に出る。


「暗くなると外はまだ寒いですね」


 3月はまだ夕方から暗くなるのが早い。その為昼間は暖かくても夜は寒いのだ。


「そうよね〜。でももう3月。早いわぁ」


 たしかに。考えてみればもう3月。藍原と関係が拗れてからかなり月日が経ったはずなのに最近のように感じる。

 俺と乾さんは駅へ向かって商店街を歩く。夕方の時間は人が疎らで日曜の夜はあまり人が出歩いてないイメージだ。こうやって並んで歩いていると俺と乾さんは側から見たらカップルに見えても些か間違いではない。乾さんの長い髪が揺れるたびに甘い匂いがするのは幻覚とも思えない辺り自分が緊張してるのがわかる。だって隣は商業施設の中でも1位、2位を争うほどの美女なんだぜ?


「最近どう?」

「はい?」


 急に振られてきた言葉に間抜けな声色で返事をした。


「今日の後嶋くん、何か思い詰めてたから………」

「あー………、そんな風に見えました?」

「見えたよ。寧ろ千歳ちゃんに意識を向けてるようにも見えたけど?」


 ギクッ!


「何かあった? お姉さんで良ければ相談に乗るよ」


 この人は本当に聖女と思えるほどの器を持つ人物だと改めて思い知った。恐らく隠しても誤魔化しても仕方ないと思った俺は素直に話すことにする。


「少し長くなるけどいいですか?」

「なら、お姉さんとデートだね〜」

「あの、あんまり揶揄からかうのやめてください」

「うふふ」


 隣の美女は口に手を当ててくすくすと笑う。気さくで優しさの中に小悪魔なところがあるのは男側からしたらポイント高い。こりゃあ三村も惚れるわ。

 俺と乾さんは街の中央にある横長い公園を奥へ進みながら歩く。ここの公園は先月おでん祭りが行われていた場所で、イベントが季節毎に行われる場所でもある。


「えっと………、どこから話したらいいか………」

「どこからでもいいわよ。後嶋くんの話したいとこだけで」


 歩く足を止めた俺を横切り目の前に立つ乾さん。肩までかかる髪が風で靡くと右手で押さえる。


「ーーーーーー昨日、元カノに会いました」


 止めていた足を再び動かし、俺と乾さんは公園な奥にある噴水広場にやってきた。


「元カノと会った時、俺上手く話せなかったんです」

「どうして?」

「彼女が『結婚したい』て言ってくれたのに俺は最低な断り方をしたんです。それなのに、謝る言葉も言えなくて………情け無い自分が出ちゃったんです………」

「そこに千歳ちゃんもいたわけね」

「そういうことです」


 大まかな内容だが、内容自体は全て話したつもりだ。


「なるほどねぇ………」


 乾さんは頷きながら両腕を組んだ後、


「えいっ」

「うっ!」


右手の人差し指を俺の頬に当ててきた。


「何するんですか!」


 俺は乾さんから一歩引く。ていうか、ちょっと指が食い込んで痛かったんですけど?


「情け無くていいじゃない。みっともないから何?」

「……………!」


 乾さんは組んでいた両腕を解き両手を腰に当てる。


「男の子だってかっこわるくていいじゃない。なんで千歳ちゃんがその場に居たかはわからないけど、千歳ちゃんは後嶋くんに幻滅したとは思わないよ」

「そうですかねぇ………」

「そういうものよ。それに長く近くに居ても気づかないこともあるわ………」


 そう言って乾さんは噴水の方を眺める。

 現在は17時半になろうとしていて、この時間からライトアップで噴水周りは色鮮やかになる。

 この時の乾さんは多分、前ホール長の事を言っていたのだと思う。乾さんはサブリーダーでホール長と話す機会が多かったはず。それが去年の12月に事件を起こして逮捕されてしまった。乾さんじゃなくても衝撃を受けたに違いない。


「凄く頼りになる人で、スイーツに対する熱意もあって信頼できる人だったわ」


 あの男が変わってしまったのは藍原と絡んだからなのかーーーーーーと思ってしまった。藍原自身に悪気はなかったのは理解しているが、それでも考えてしまう。

 あの事件に藍原が関わっている事は乾さんはもちろん他のスタッフ達は知らない。だが、乾さんがそれを知ったところで藍原を恨んだりしないだろう。


「だから、後嶋くんは千歳ちゃんにかっこいいところみせて見直してもらわないと駄目よ」

「はぁ………」

「私はかっこいい後嶋くんの方が好きだから」

「ーーーッ!!」

「なんてね」


 びっくりしたぁ。

 この人は本当に揶揄うの上手いよ。一瞬心臓が跳ねたわ。


「私住んでるマンションこの近くだからここでお別れだわ」

「そ、そうなんですか」


 たしか乾さんのマンションは駅から西側の方面だったな。


「今月のイベントのこと、よろしくね」

「は、はいっ」

「それじゃあね。また明日」

「あの! 相談に乗ってくれてありがとうございます」

「貸にしとくわね」

「えぇ………」


 そんなこんなで終始揶揄われつつも乾さんと噴水広場の前で別れた俺は駅へ向かって歩き出した。

 乾さんに相談して少しは楽になった気がしないでもないが、いつまで引きずってちゃいけない気がした。それに、このままだと仕事に支障も出てしまう。


「切り替えなきゃな」


 俺はいつも通りの帰宅手段で自宅に帰宅した。



同日22時頃


 俺は夕食に買った弁当を食べ終えてシャワーを浴び終えた。寝間着のスウェットに着替えてから髪をタオルで拭いていると、


「ん?」


スマホが振動したことに気づいた俺は手に取って画面を確認する。


『木曜の夕方時間ある?』


 藍原からの誘いのメッセージが来ていた。当然俺は『仕事上がった後でいいなら』と返信する。したらすぐに返事が来た。


『それで構わないわ。終わり次第駅前集合で』


 俺と藍原のやり取りは相変わらず端的で特に余談をすることはない。それに藍原と何を会話するっていうんだ。

 俺はスマホをテーブルに置いてタオルを洗濯機に放り込んだ後、電気を消してベッドに倒れる。そしてそのまま眠りについた。

 俺は気づかないうちに色んな人達に支えられていて、


『自分が最低の人間だったとしても、そんなあなたに助けられた人もいるって事を忘れないで』


ちゃんと結果は形になっている。

 だから俺は後悔もするし悩むし落ち込むけれど、それでも前を向かなければならない。河幹千尋に憎まれ口を言われてもーーーーーー俺は前へ進む。



元カノとデリ嬢 3 完

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