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デリ嬢を好きになれますか?  作者: ごっちゃん
二章 理想で初恋
28/43

理想で初恋 7 中編

後編に続きます

2015年5月



 洟村家を襲った強姦事件は、あの後警察が念入りな捜査の元、犯人を確保する形で解決となった。

 被害に遭った千織の母親は市内の病院に現在も入院し療養中で、時折り警察が事情聴取に来ていたが2週間経つと来る頻度も減っていき今でもは犯人も捕まって事件は解決したという形になった。

 千織は現在親戚の家で預かってもらっている状態で、母親が回復した時に"二人で"生活する日が来るのをずっと待っている。ーーー父親を除いて。

 

 今から約1週間前、事件の日から顔を見せなくなっていた父親がお見舞いに来た。

 

「久しぶりだな、千織………」

「今までどこにいたの? お父さん」


 病院の一階、受付前で出くわした父親に千織の瞳は酷く冷めきっていた。


「ここじゃなんだから、外行こうか」


 病院の庭に移動し父親と二人っきりになる千織は、少し距離を空けて父親の前に立つ。


「あの時はすまなかったな……。あの後急いで警察を呼びに行ったんだよ」

「そんなのいいから」

「えっ?」


 冷たい眼差しで自分の父親と話す千織に父親は徐々に慌てふためく。


「お父さんがした事なんて今更どうでもいいよ。また家族三人で暮らしたいならお母さんに相談すれば」

「………千織、怒ってるよな?」

「そんな風に見える?」


 今の千織には怒りも悲しみも無い。目の前にいるのは"ただの男の人"という認識でしかしなくなってしまっている。千織にとって目の前にいる人間は赤の他人になってしまった。

 病院の庭で話を終えた父親は、病室にいる母親と対談した。

 千織は病室の外で二人の邪魔にならないように待つのだが、この対談の結末がどこへ向かうのかは千織には既に分かっていた。

 病院から聞こえてくる母親の酷い叫びと父親を責め立てる話し声が只々耳に響くだけだった。

 そして、父親と母親は離婚を同意し、洟村家は散り散りとなった。



ー2年後


2017年6月


 あの事件以来、千織は同じ名古屋の母親の妹にあたる叔母の家で生活している。

 あれ以来、母親は精神的ダメージから復帰が困難、実家で療養することになった。千織は、母親から一線を引くことで早期回復が望めると思い親戚の家に引き取ってもらった。

 中学はそのまま在校していた学校を卒業、高校は親戚の叔父、叔母に負担をかけないよう公立校に受験した。合格した千織は去年の春から市内の公立校に通っている。

 千織自身は将来の事も既に考えていて、高校を卒業後は県外の大学に通い独立したいと思っている。叔父と叔母は「気にしなくていい」と言ってくれるが、二人の本当の娘の将来もある為いつまでも厄介になるのが千織は多少辛かった。

 高校2年の春から学校に内緒でバイトを始めた。大学に進学する資金を貯めるためだ。

バイトと勉強の両立、そこに加わる一つの出会いがあった。

 

 高校2年の春から、別のクラスの男子・緑谷から告白された千織は考えるまでもなくその男子と付き合うことにした。

 緑谷は同学年の女子達に人気の爽やか系男子で、スポーツ推薦で進学する大学も決まっている。

 しかし、千織もルックスはかなりいい方で、この時の千織は黒髪のストレートロングで落ち着いた雰囲気を出していて、同学年の男子達に何度も告白された経験がある。

 そして付き合い始めれば噂が広がるのもあっという間だった。学年中に広まった噂を聞いた生徒達はお似合いの二人と納得し誰しも二言は無かった。

 

 付き合い始めて2ヶ月が経ち、千織は緑谷と何度目かのデートで市街地に遊びに来ていた。バイトと受験勉強との両立はそこまで苦ではなく、空いた時間を彼との時間にしている。

 午前中に映画を観て、午後は最近バズっているカフェで食事をした。その後はプレゼントを互いに渡すことになり商業施設で買い物をしながら様々な店舗を見て周ると時間はあっという間に16時を過ぎていた。

 最後に名古屋のテレビ塔で夕日を見る前に緑谷は公園近くのお店に飲み物を買いに行った。

 1人で待つ千織はスマホでSNSを見ていたところに、


「君、可愛いねぇ〜。今1人?」

「俺たち暇してるからさぁ、一緒にカラオケ行かない?」

「お前ベタすぎ」


チャラついた4人の男達に声をかけられる。

 千織は特にリアクションをせずに4人を見ている。


(はぁ………。男ってしょうもな)


 4人に囲まれた千織はその間から遠くで両手に飲み物を持って立ち尽くす緑谷の姿を見つけた。

 緑谷は躊躇った表情でその場に立ち、千織を助けようか迷ってるように見えた。


(どうするの? 緑谷くん)


 千織にとっての理想、それはどんな状況でも相手を大切に思うのなら躊躇わず動く人間こそが自分を好きになってくれるに相応しいと思っていた。だから千織は緑谷を試す。彼が本物かどうかをーーー。

 

「ねぇ、聞いてる?」

「俺たちとカラオケどうよ?」

「カラオケ好きすぎだろ」

「俺はなんでもいいけど?」


 懲りずに誘ってくる男達を無視して緑谷の様子を窺う。

 しかし、その場に立ち尽くすばかりで一向に動かない緑谷を見た千織はーーー


「いいですよ。カラオケ行きましょ」


愛想を振り撒き男達の誘いに乗った。


「マジかよ!」

「よし行こうぜ」


 4人の男達と共にカラオケ店へ移動する千織を緑谷は只々見ていた。


(ごめんね、緑谷くん。あなたじゃなかったみたい)


 彼を見た時、千織の脳内で2年前の事件で逃げた父親を重ねて見てしまった。

 だから千織は彼が自分を大切にしてくれる存在にならないと確信を持ってしまった。母親を捨てた父親と自分を見捨てる緑谷は似ていると。


 緑谷と離れカラオケ店に向かう途中で千織は4人のチャラい男達からどうやって逃げるかを考えながら歩いてた。

 強引に逃げるのは不可能であることは現状明白で振り切るのも不可能と考えた千織は、近くで停車していた巡回中の警察車両を見つけた。


「ッ!!」

「あっ! おい!!」


 男達から勢い良く走って警察車両に近づき窓ガラスを叩く。

 運転席の窓が下がり、


「どうしました?」

「助けて下さい! 私、未成年なのにあの人達に無理矢理連れてかれそうで」

「本当かい!?」


助手席の警察官が降りるとそれを見た男達は、


「ヤベッ!」

「あの女、未成年だったのかよ」

「逃げるぞ!」


急いでその場から逃走した。

 警察官は彼らを追う事はせず千織に、


「大事にならなくて良かったけど、日も落ちて来てるから1人で街の中を彷徨うろつくのは危ないからね」

「すみません……」


 軽い注意喚起だけしてその場を後にした。

 無事に男達から逃れる事ができた千織は、地下鉄とバスを使い自宅で帰路についた。

 その日の夜、スマホを確認するも緑谷からの連絡はなかった事で千織の中では緑谷という男は彼氏でもなんでもなかったと認識した。


 翌日、朝の昇降口で緑谷と会った千織は彼と人目に付かないゴミ捨て場に移動した。


「この間はごめん……」

「………………」

「見捨てるつもりじゃーーー」

「緑谷くんーーー」

「なに?」

「別れよう」


 千織は淡々と告げて校舎の方へ歩いて行った。

 千織と緑谷が破局した事はすぐに学年中に広まり、周囲の女子達から陰口を言われ男子達からは弄ばれると噂され軽蔑の目で見られるようになった。


ーーーそして千織は高校2年から3年の秋まで1人で学校生活を過ごし、高校3年の冬に進学先の体験キャンパスの帰りにある事件現場に立ち寄ることになる。



理想で初恋 7 中編 完

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