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デリ嬢を好きになれますか?  作者: ごっちゃん
二章 理想で初恋
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理想で初恋 5

2019年1月16日 7時



 アラームと共に目が覚め、カーテンを開けて朝の景色を見る洟村千織はなむらちおりは、地元名古屋では見れない広大な海の広がる景色に毎朝見惚れている。

 合宿で自動車学校に免許を取得するために勉強しに来ている千織は2、3週間の間ホテルで生活している。朝食と夕食はホテルの食堂で食べ、お昼は自分でコンビニやら飲食店やらで済ませる。

 8時半になれば送迎車の迎えが来る。それまでに着替えと身支度を済ませて、十代のちょっとしたメイクもしつつバッチリ決める。

周囲からは可愛いと声をかけられることが多い千織には声をかけて来る男性は皆軽薄だったり、上っ面な感じがした。千織が求める男性像とは程遠い。

 送迎車に乗り込み移動している途中、今日は仮免許の試験で朝から身が入っている千織はスマホを出し、家族にLINEをした後、もう1人気になる相手にメッセージを送った。


ーーー後嶋龍太ごしまりょうた


 12月7日に彼を見た日から、静岡こっちへ来た際に会えたらと思っていた人物。

偶然、合宿に来た自校で会いアプローチをかけている。千織にとって後嶋龍太は理想の男性かもしれないとーーー。

 千織が彼に送ったメッセージは、


『今から仮免試験いってきます!』


と今日の意気込んだメッセージで、


『がんばってね!』


と応援のメッセージが帰ってくる。

 後嶋龍太は昼間仕事をしていて終わった後に自校へ来るため、それまで会えない間はアプリでやり取りをする

 千織にとってこうしたやり取りが当たり前のようになってきて返信が来るだけでも嬉しくなっていた事と自分の感情に確信を持っていた。


  *******


同日8時



 職場にいつもの様に出社してから休憩室で同僚ーーー山崎卓郎やまざきたくろうと世間話で仕事が始まるまでの時間を潰す。ここ最近は俺の自校の進行状況の話題が多い。


「"正義の味方"ねぇ……」

「どういう意味だと思う?」

「わからん!」

「だよなぁ」


 俺は卓郎に千織ちゃんの件を相談している。卓郎は何かと機転が聞いたり情報通だったりと相談するには凄く頼りになる奴だ。藍原の事件の時も、卓郎が噂や近くに居てくれたおかげでどうにか解決できた節はある。


「"正義の味方"なんて、フィンクションの世界から生み出される偶像だからなぁ……。それを自分のための存在として龍太りょうちんを意識してるなんて、その子メンヘラ?」

「言い方……」


 卓郎の言った通り"正義の味方"なんて偶像・架空の存在にしか過ぎない。もし自分がそれを実行するなら、そいつは傲慢な自己顕示欲の塊のような奴だ。


「まぁ、ヤバそうなら距離を置くのもアリだぞ。ていうか、お前には藍原千歳あいはらちとせがいるだろ」

「はぁッ!? 藍原とは別にそういう仲じゃねぇし!」

「はいはい」


 12月に起きた事件以来、卓郎には俺と藍原が恋仲のような関係だと勘違いしている。断じて言うが、俺と藍原はそういう関係ではない。

 藍原は、秘密の共有相手で同じアパートのご近所さん、ただそれだけだ。


「で、その子は後1、2週間で居なくなるから真意を知りたいわけか」

「名古屋に帰った後もLINEのやり取りはしたいって言っているからなぁ。あんまりあやふやな感情でいたくないんだよ」

「りょうちん、ほんと変わったな」


 しばらく他に世間話をするわけでもなく始業時間はすぐに来てしまった。

 今日は半休を貰っていて、午前中の仕事が終わったら自校へ直行だ。

 特に何かあるわけでもなく、業務に集中してれば午前中はすぐに終わってしまうのだ。二十歳超えたら時間経つの早く感じるよ。



同日13時



「やりましたよ後嶋さん! 仮免取れました!」


 仮運転免許証と書かれた紙っぺらを見せつけブイブイと左手の人差し指と中指を動かして嬉しそうに見せつけてくる洟村千織は、満面の笑みだ。


「無事に仮免合格できたんだね」

「はい!」


 今日は俺の受けたい教習が14時からでまだ1時間もある。俺と千織ちゃんは別館の休憩室でお茶を飲みながら会話をしている。

 千織ちゃんの今日の服装は、タートルネックのセーターにレディースジーンズにニット帽をかぶった大人な感じの服装だ。おそらく運転する時に動きやすくするためのコーデだろう。


「でも残念です」

「なにが?」

「このまま行けば、あと一週間で卒業してしまいますから……。後嶋さんとこうしてお話できるのも後ちょっとだけです」


 合宿の期間的に卒業までのスケジュールが詰め込み過ぎてて、こうやって話をしてられるのも所々で時間の合間を見てのことだ。


「それなんだけどさーーー」


 俺はここで話を切り替え、千織ちゃんの本意に触れることにした。


「時間があるからちゃんと聞きたいんだ。千織ちゃんのこと」

「私の………ことですか」


 急に表情が曇るのと同時に外の天候も暗くなる。そういえば午後から雨だったような……。


「本当に、私のことを知りたいんですか?」

「あぁ。君がなんで俺に好意ーーーじゃない。固着するのか」


 彼女の俺に対する行動は、好意を超越し、まるで俺に執着や固着ような感じに捉えれる。

 そして降り出す雨ーーー。

 雨音と休憩室の暗さが何やら雲行きの怪しい雰囲気を醸し出していく。


「これを見てください」


 そう言って千織ちゃんは、スマホを操作してから画面を俺に突き出し動画見せてくる。

 そこに映っていたのはーーー


『てめぇの粗末な欲求にあいつを巻き込むなッ!!!!』


画面にはパトランプで赤く光る周囲に人混み越しから見える男性の姿ーーー俺だ。

 これは12月7日に藍原千歳あいはらちとせを元ホール長から助けるために警察を動かし、その後俺が感情的になって掴みかかった時の映像だ。


「どうして千織ちゃんがこの現場ときの動画を……」

「私、観てました」


一体なにを………。


「12月7日ーーー」


まさか、あの場にいたのか!?


「後嶋さんはあの場で誰かを救おうとしていた。そうですよね?」


 真剣な趣きで俺を見つめてくる千織ちゃんに、俺は少し恐怖を感じた。

 ここで藍原の事を言えば洟村千織という女の子はどういうアクションを起こすかわからない。慎重にかつ上手く濁さなければ。


「確かに、あれは知り合いを助けるために警察を動かした」

「"知り合い"というのは女の人ですか?」


 ここだ。ここをどう誤魔化すかだ。


「確かに女の人だけど、職場の同僚だよ」

「職場の同僚ってだけで、そこまでしますか?」


 正論だ。

 あれは俺の身勝手な我儘で動いたことだ。普通の人間なら赤の他人にあそこまで感情的になりはしないだろう。


「この世界には、誰かを助けるなんて感情は偽善に過ぎないんです。皆んな自分が大切で、傷つくのが怖くてーーー」


 対面に座る千織ちゃんは、降り続く雨を見ながら哀しげな表情で語り始めた。


「人を守るとか助けるとか、偽善的な感情なんです。それでもーーー」


 千織ちゃんはこっちへ向き直り哀しげな笑顔で、


「それができる後嶋さんは、私の理想で初恋の人なんです」


彼女は言い切った。

 洟村千織には過去に何かあって、異性に対し渇いた感情を抱いた。

 

「聞かせてくれないかな? 千織ちゃんがどうして異性にそこまで求めるようになったのかを」


 またお節介をするのか俺はーーー。

 でも、このまま相手の気持ちを汲ない考え方で人を好きになるのはなんだか間違っている気がする。

 だから俺は、少し踏み込んでみることにしたのだ。


「いいですよ。ただ……少し長いです」


 俺はスマホをポケットから取り出して時間を確認する。

 

「大丈夫。まだ時間はたっぷりある」


 教習が始まるまでの間、洟村千織の心情に俺は向き合う。



理想で初恋 5

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