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デリ嬢を好きになれますか?  作者: ごっちゃん
二章 理想で初恋
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理想で初恋 2

2019年1月13日 17時


 

 今日も仕事が終わると、自校の授業が俺の事待っている。

 入校してから2日目で、学科を4回と実技を1回受けているのだが、初めて車を運転する流れには早々ならない訳で、乗車から発進までの下りで精一杯だった。こんな幸先の悪いスタートでほんとに三ヶ月間で卒業できるのかね。

 自校まで移動手段は送迎を利用している。毎回電車で通うのは資金的に辛いからこういうのは積極的に使わないと損だ。俺以外にも途中で乗せて行く自校生がいるのだが、特に喋るような事もなく到着するまで寝てるかスマホ弄りするかのどちらかだ。

 送迎で現地に到着する時間は授業開始の15分から20分前くらいだ。それまでは問題集で自主学習しながら時間を潰す。

 俺はホールの隅にある学習スペースでひそひそとテキストの問題を埋めながら時々間違えた問題を教本に付箋をしながら予習する。これを毎日のように繰り返しだ。


「こんにちわ。後嶋さん」


 学習スペースで自主学習をする俺のもとに、1人の女の子が話しかけてきた。


「………洟村さん」


 俺に話しかけてくる女の子、この子の名前は“洟村千織はなむらちおり“。愛知県の名古屋からこの自校へ合宿で免許を取りに来たらしい。

 外見に関しては流石の都会人。ショートカットの黒髪に周りの髪の毛先にブラウンのメッシュが入っていて、今日は前髪をピンで分けてある。私服はボアパーカーにニットのシャツとワイドパンツでスニーカー。いかにもおしゃれな10代女子のファッションだ。そうーーー洟村千織はまだ18歳の高校生なのだ。


「ーーて、もう外暗いから“こんばんわ“ですね」


 入校初日の授業で俺の隣に座ってきて以来、よく俺に話しかけてくる。ルックスがよく周囲の男からナンパ紛いの行為を受けてるのを見るが、軽くあしらっているのを見てるとなんだか藍原に似たような気もしないでもない。


「隣座りますねぇ」


 左隣の空いている椅子に座る彼女は持っているバックを下に置いて、中から俺と同じ教本とテキストを取り出す。


「洟村さんはーーー」

「千織です」


 俺の話を遮るように自分の名前を推してくる。


「いや、洟村さーーー」

「ち・お・り」

「………………………。千織ちゃんはさぁーーー」

「はい!」


 満面の笑みで返事をする千織ちゃんの身体が徐々にこっちへ近づいてくる。


「俺とどっかで会ったっけ?」

「いえ、初対面です」

「だよね。なんで俺に絡んでくるの?」


 千織ちゃんとは初対面かつ好感度を上げるようなイベントは全くない。もし彼女が俺となんらかの接点があるとしても俺はどう接したらいいか……。


「うーん……」


 人差し指を口に当てながら考えこむ千織ちゃんは仕草まで可愛い。


「一目惚れ、ですかね」


はい?


「こう……キュンッ! ときたんです」

「マジ?」

「マジです」


 そんなアホな!

 一目惚れなんてアニメやドラマだけだと思ってた俺には実感が微塵も湧かない。目と目があったらビビッときて3秒で恋に落ちました。………軽くない?


「クソッ! 見せつけやがって」

「マジうぜぇ」

「男潰すか」


 後から来校して来た自校生の若い男共から殺意と罵声の声が聞こえてくる。おい、こっちは歳上だぞ……。

 そんな周囲の声も他所に、千織ちゃんは袖をまくり腕時計を見ながら「もうすぐ授業の時間ですよ」とバックに教本とテキストをしまって椅子から立ち上がる。


「行きましょう」


 俺も鞄に教本とテキストをしまって椅子から立ち上がる。

 これから学科の授業を受ける2階の教室へ階段を上がる俺達は、前回と同じように窓際に座る。千織ちゃんは意地でも俺の隣に座りたいみたいだ。


 この後、最初の学科を受けた俺はこのまま窓際の席で次の学科の準備をする。

 隣に座る千織ちゃんはバックを持って立ち上がり、


「私、次は技能教習なのでお別れです」


 もの凄く名残惜しそうな表情で教室を出て行った。

 俺はやっと1人になることができて机に突っ伏す。気が楽になり疲れが一気に押し寄せてくる。


(はぁ……。疲れたぁ)


 正直な所、教習より疲れたんじゃないかと思う。

 たしかに千織ちゃんは可愛くて好意を寄せてくれるのは嬉しい。だが、何もフラグを立てずにただ一目惚れって理由なだけであそこまで積極的になれるだろうか。何か隠してることがあるのかもしれない。



2019年1月14日 8時


「自校どんな感じだ?」

「まぁぼちぼちだ。ただなぁ……」


 朝のロッカールーム兼休憩室で同僚の山崎卓郎やまざきたくろうは、俺の自校での進行具合を聞いてくる。

 俺としては、学科の教習や技能教習に関して特に問題は無い。懸念すべき点はーーー。


「ただ、なんだよ」

「向こうで合宿に来ている女の子に猛烈アタックされてる」

「はぁ? なんだそれ」

「話せば短いけどどうする?」

「そこは長くないのかよ」


 これまでの件に関して特に面倒なやり取りはなく、寧ろ真っ直ぐストレートな展開だったから話す内容も短くなる。


「実はーーー」


 俺はここ数日の出来事を卓郎に簡単に話した。


「なるほどなぁ……」

「相手はまだ高校生だから、どう対処したもんか……」

「面倒なのに絡まれたな」

「ほんとだよ」


 おそらく千織ちゃん自身の根はいい子なのは分かるが、少し……いや、かなり積極的なのだ。相手はまだ高校生の未成年だから下手な事は言えないし、対応に困ったものだ。


「でも、可愛いんだろ?」

「うん? まぁ……」

「じゃあ付き合えばいいんじゃね?」

「さすがに未成年はダメだろ」


 それに、いい加減な気持ちで付き合ったらそれこそ千織ちゃんに悪い。

 卓郎と話しながら着替えを終えた俺の制服のズボンからスマホが鳴り響き、ポケットからスマホを取り出す。


「………………」

「まさか、その可愛子ちゃんからLINEか?」

「そのまさかだ」


 あの日、入校したその日の教習を終えた後にLINE交換を千織ちゃんから持ちかけられた。俺はLINEを開きメッセージを見てみる。


『おはようございます!』


『おはよう』


『今日も17時からですか?』


 とりあえず返事をする。


『そうだよ』


『わかりました。今日も一緒に教習受けましょ♡』


『あんまりくっつき過ぎないでね。怒られるから』


『はーい』


 これで一通りのやり取りは終わりだ。


「お熱だねぇ」

「なんで俺なんだろ」


 俺はスマホをズボンにしまい、もう直ぐ始業の時間になるため休憩室を出ようとする。

 今日はどこの応援も無く、自分の持ち場のみなので気が楽だ。

 別れ際に卓郎が、


「そりゃお前、モテ期にきまってんだろ」


と、捨て台詞を吐いて行ってしまった。

 真面目な話、モテ期だったら元カノと付き合ってたのはなんだったんだろう。


 今日一日の業務にこれといった出来事は無く、藍原千歳あいはらちとせからの相談事も無い。きっと自校の事で邪魔しないように藍原自身気を遣ってくれているのかもしれない。



同日16時


 終業時間になり、帰り支度をして職場を後にした俺は、送迎の来る指定の場所に向かいながら駅前の地下街を歩いていた。地下外は帰宅する学生や社会人が多く、飲食店や本屋が並ぶが今は混み合う時間ではない。

 俺は寄り道せずに駅まで向かう途中、見覚えのある人物が花屋から出てきて鉢合わせする。


「あーーー」

「え?」


 出てきたのは、両手にカーネーションを持った藍原千歳だった。


「……よう」


 俺と藍原は出会ったついでに駅の方まで一緒に歩く。

 普段藍原の終業時間は18時くらいでこの時間に鉢合わせすることはない。だとすれば、藍原がお見舞い用のカーネーションを購入していたという事は、


「お祖父さんのお見舞いか?」

「ええ」


 今も市内の病院に入院している藍原の祖父へのお見舞いだ。

 一応、藍原のお祖父さんとは面識がある。今度俺も何か持ってお見舞いに行った方がいいかもな。


「そうか。迷惑じゃなかったら今度俺もお見舞い行くよ」

「そうしてくれるとありがたいわ。お祖父ちゃんたまにあなたの事を聞いてくるから」

「わかったよ」


 そこから先は特に喋らず、黙々と歩いていたら駅の南側に着いていた。

 藍原はバスでそのまま病院へ向かうので、俺とはここでお別れだ。


「ねぇーーー」

「うん?」


 藍原が別れ際に俺を呼び止める。


「ちゃんとご飯食べてるの? 少し痩せたみたいだけど」


オカンかよ! 


「最近は帰ってくるの遅いから、食べないで寝ることが多いな。朝は急いでるからスポーツゼリーで済ましてるし」


 自校に入校してからの俺の生活ルーティンはそんな感じだ。まともに飯を食べずに寝ることが多い。


「はぁ……」


 藍原は小さく溜め息を吐く。


「またお裾分け持ってくわ。ちゃんと食べないと体調崩すわよ」


 前回、ロールキャベツを作り過ぎて俺にお裾分けしてくれた藍原の料理をまた食べれるのか。


「あぁ。助かるよ」


 この時、俺は下心など一切無しに藍原に感謝しながら、今日の自校の教習を受けに行くための送迎の指定の場所へ歩いていく。



理想で初恋 2 完


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