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デリ嬢を好きになれますか?  作者: ごっちゃん
二章 理想で初恋
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プロローグ

2019年1月4日 16時


 正月休みもいよいよ佳境に入り、外出する人間がだいぶまばらになってきた。

 昨日まで家族連れの客が大半を占めていたが、カップルだったり休みの学生が多かった気がするのは気のせいじゃない。子供がおじいちゃんとおばちゃんの家に遊びに行くとお年玉をもらってウキウキの上機嫌で買い物に来るのをこの三日間よく見た光景だ。

 この正月間で1番辛かったのは新年売り出しの福袋作りだ。子供の頃は何が入ってるのかお楽しみ感が満載だったが、実際に商品を詰める側になると夢も何も無い。いくら高額商品を詰め込んだと言えど結局は去年の売れ残りを詰め込んでいるだけの紙袋を残業で延々と作り続けた。福袋を作った次の日は、群がる奥様方を見ていると心がいたたまれる。

 仕事を終えた俺は休憩室でお茶を飲みながら同僚の山崎卓朗やまざきたくろうといつもの雑談に入る。


「今度、振り替えで休み取れってさ」

「りょうちんは何か予定あるのか?」

「あぁ……親戚に顔見せに来いってお袋が……」

「俺達正月休みないもんな」


 商業施設は正月休みのような長期休みは忙しく休みがない。その代わりに状況が落ち着き始めれば振替で休みが取れる。

 年が明けてからお袋からLINEで『休みの日に顔見せに来い』と連絡を貰っていたが『そのうち』と返事をしておいた。


「とりあえず、明後日振り替え入れておいた。卓郎は?」

「俺も似たようなもんだよ」

「そっか」


 自立すると家族との会える機会が減ってしまうのは仕方ない。長い長期休みが無いならどこかタイミングを見つけるしかないのだ。

 ただ、俺には少し懸念すべき点が……。


「ただなぁ、ウチ親とは仲悪いからなぁ」

「そうなのか?」

「去年も顔見せに帰ったけど、ど突かれたわ」

「なんで?」


 元々、一人暮らしをする時に喧嘩別れの形で家を飛び出した俺をそれでもたまに連絡を送ってきてくれるのはやっぱり親なんだなぁと思う。ただ、ちょっと暴力的なのは困るけど。


「まぁ、ウチのはそんな感じなんだよ」

「へー」

「じゃあ帰るわ」


 俺はお茶を飲み干し空のペットボトルをゴミ箱に捨てると、貴重品をジャンパーのポケットにしまい休憩室を出た。

 デパ地下のスイーツコーナーの通路を歩く俺は、年末付近から何かと接点ができたS級美女の藍原千歳あいはらちとせのいるスイーツ店Bをチラ見する。12月の一件から前のホール長が捕まり、今はサブリーダーだった皆のお姉さん的存在の乾さんがホール長に就任した。現場の体制も変わり、今年に入ってかなりドタバタしてる様子だ。

 俺はお店のカウンターでお客さんの対応を終えたさきちゃんに、


「おつかれ」


と一言告げるとさきちゃんも『おつかれ』と返してくれる。

 カウンターでお客さんの対応しているバイトの子はクリスマス・イブの時に卓郎幹事の合コンで相席した2人のバイトのうちの1人で、かなり友好的なのでこちらも話しやすいのだ。


 建物を出た俺は、日の落ち始めで暗くなりつつある空を眺めていた。気温も下がり冷たい風が吹き付けると身体の芯に寒気が伝わって来る。

 去年の12月から怒涛の展開が続き、今まで死んでいたような俺の時間が動き出したような気がしていた。彼女との破局後すぐに性欲処理のためにデリ嬢を呼ぶというクズ行為から始まったフィクションのような出来事は、藍原千歳をトリガーに俺の世界を変えた。

 この先どんなことが起きるのか今は神のみぞ知るーーーてか。



プロローグ 完

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