番外編 1 前半
2018年12月20日 16時
「りょうちん、24日の夜空いてる?」
1日の業務を終えて帰り支度をしている俺に同僚の山崎卓郎も帰り支度をしながら聞いてくる。
12月24日といえばクリスマスイブの日だ。大体のカップル達が買い物に出かけ、お洒落なディナーで時間を過ごし、お約束の男女の営みをするリア充達のイベントだ。偏見かもしれないが俺はそう思っている。
かという俺も去年は元カノの河幹千尋と買い物に出かけ、ホテルのレストランで夕食を食べた後にお楽しみだった。前科があるからこその想像でもある。
しかし、今年は去年と違う。彼女と別れ1人になった俺の24日は家でだらだら過ごすのが現時点で確定している。だから、卓郎からの誘いを断る理由はない。むしろウェルカムだ。この際カップル達のイベントをむさい野郎の聖なる日にジョブチェンジしてやろうじゃないか。
「もちろん暇だぜ」
サムズアップをしながら予定がないことを明かす。
「だよな。うし! 人数揃ったぜ」
「どういうこと?」
そもそも卓郎がなんの用で俺を誘ったのか知らない。詳細求む。
「りょうちん、今彼女いないよな?」
「なんだよ急に……。いないことぐらい知ってるだろ?」
「まぁな。一応確認だよ」
解り切ったことを改めて言われたことに多少の不機嫌んさが滲み出るが、俺はこの流れから卓郎が何の用で確認をとったか大体理解、もとい悟ることができた。
「で、24日の夜何すんだよ」
卓郎はいきなりサムズアップした右手を俺に突き出し、
「合コン行こうぜ!」
清々しいくらいのイケメン風のフェイスで言う。
「やっぱりか………」
合コンとは、男女人数を揃えて食事をしながら会話の中で自分に合う異性を見つけ出す。仲良くなったりその日にもうお持ち帰りする関係にまで発展する奴もいると聞くが。
「後1人足りなくてさぁ……。りょうちんは元カノと別れたばっかりだから誘おうか悩んでたんだよ」
「まぁ人数合わせなら全然行くよ」
「そう言ってくれると思ってたぜ」
俺としては元カノことはさほど引きずっていないし、寧ろ新たな恋をするのも悪くないと思う。いい機会だから参加しようじゃないか。
「で、他のメンツは?」
そう。肝心なのは参加するメンバーの詳細だ。
「男側は、佐藤と三村と俺」
卓郎以外の2人も職場の同僚で、佐藤は高身長の眼鏡をかけた冴えないやつ。もう1人の三村は少し低身長で服装とか、髪型を気にするオサレ大好きなブサメン君だ。
正直、このメンツで合コンするということは相手の女性達もそこまで可愛い子は揃わないだろうな。
「相手の女の子達は?」
念のため聞くことにした。
「ふっふっふぅ……。なんとーーー」
なんと?
「あの藍原千歳のいるBフロアのスイーツ店の子達だぁ!」
「……………」
「リアクション薄過ぎだろ」
「いや、まぁ……」
「あそこの女の子みんなレベル高いんだぞ」
それに関しては否定しない。確かにあそこの店で働いてる女性陣は皆レベル高い方だとは思う。藍原千歳を抜きにしても可愛い子や美人な子が多いと思う。しかしなぁ、
「あそこのメンツと合コンして、俺達が成功して帰れると思ってるのか!?」
「りょうちんーーー」
卓郎は着替え終わりロッカーを閉めて俺の肩に手を置く。
「俺達は成功も失敗も怖くないんだ。可愛い子達とご飯を食べ、お話が出来ればそれでいい」
それもう合コンじゃなくね?
「お店はもう決まっていて予約してある。女の子達が先にお店に入るって言っていたから、俺達は駅で集合してお店に向かう手筈だ」
「あいよ」
「じゃあ、また明日な」
詳細を話した卓郎は帰って行った。
はたしてこの合コンどうなることやら。まぁ、藍原が合コンに来ることはまずあり得ないからそっちの心配をする必要はないんだよなぁ。
当日は適当に喋ってご飯を食べて帰ればいいか。と軽率な気持ちでいる俺だった。
そして合コンの日までの4日間なんてあっという間で、藍原の相談の時も朝一緒に通勤する時も藍原から合コンの合の字も出なかった。とりあえずは安心だ。
2018年12月24日 20時前
仕事を終えた俺は、一旦自宅に戻ってシャワーで体を洗い流して外出用の私服に着替える。
今日のコーデは、フードに毛皮のついたジャンパーを羽織り白のニットのシャツとジーンズにした。一応、女性の前に出る以上はそれなりの格好しないとな。
そのあとはバスで待ち合わせの駅に向かう。現地に着いた俺は駅の北口の前に屯って居る卓郎、佐藤、三村の3人と合流し女性陣の待つ居酒屋に向かって歩き出す。卓郎は相変わらずの黒いコートとスーツといったホストみたいな格好で、残りの2人は俺とあまり変わらない服装だ。
道中、今回の女性陣について4人で話していた。
「向こうのメンツは、バイトの子2人は確定。あと2人はお楽しみって言っていたぜ」
この合コンの幹事である卓郎は佐藤と三村に女性陣の詳細を話し始める。
「じゃあワンチャン藍原千歳が来ることも!?」
佐藤は藍原狙いか。まぁ当たり前だな。
「乾さんもワンチャンあるぞぉ」
三村は乾さん狙いか。年上好きだもんな。
「まぁあの2人は来ないだろ」
「「なんでっ!?」」
2人は食い気味に俺へ突っかかる。
「乾さんは最近ホール長に就任したから忙しいらしい。藍原も担当工程が増えて大変らしいって」
「なんでそんなこと知ってるんだよ」
三村は怪しんだ目つきで俺を睨む。
「いや、あの店は俺の運搬先だから直接聞いたんだよ」
嘘。
本当は藍原から全部聞いた。
「そっかぁ……」
露骨に落ち込む佐藤と三村。まぁ現実を見ろということだ。
「2人とも高嶺の花だよ」
お約束の台詞で話を閉めた。
同日20時半
俺達4人は目的地の居酒屋に着いた。お店に入ってすぐ店員さんが駆け寄り、幹事で店の予約をしていた卓郎が名前を言うと「お連れの方々が先に到着していますのでご案内します」と俺達を店の奥に案内する。
ここの居酒屋は海鮮物がメインで地元の仕入れた魚を取り扱っている。そのため静岡で取れた海鮮類が味わえるというわけだ。
店内は基本客室になっていて、少人数用の個室から宴会用の客室まである。お店は全部座敷になっていて楽な空間で食事を楽しめるようになっているそうだ。
店員に案内されて、宴会用の個室の前まできた俺達。卓郎が引き戸に手をかけ先陣を切って中に入る。
「こんばんわー。待たせてごめんねー」
続けて中に入ろうとする三村と佐藤は入り口で地蔵のように固まってしまった。
「おい、早く入ってくれ」
俺は後ろから2人を催促させる。なんで中に入らないんだ?
固まって動けなくなっている2人を押し込み俺も個室内に入る。なぜ佐藤と三村が固まっていたのかは俺もすぐに理解し唖然とした。
「なっ!?」
個室の中には、来ると思っていなかった乾さんと2人の女の子を挟んだ向かいに座る藍原が俺を見て驚愕していたからだ。
ーーーーーーーなんでいるんだよッ!!。
番外編 1 前半 完