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デリ嬢を好きになれますか?  作者: ごっちゃん
一章 新人嬢で素人
13/43

新人嬢で素人 12

この回は特に性的な描写を修正し、内容を抑えました

2018年12月6日 20時



 今日の勤務を終えた藍原千歳あいはらちとせは自宅に戻り21時からのデリヘルの仕事で指名の予約が入っている。シャワーを浴びて髪を乾かし、いつもストレートの髪をウェーブにする。化粧もしっかりこなしアイドルや女優にも勝るほどの美しい外見に仕上がった。

 ホテルまではお店側の送迎で向かう。遠い場所でも近い場所でも基本は送迎で現場へ向かうのだ

 身支度を済ました千歳は戸締りをして家を出る。送迎車は近所のコンビニで待機してくれるているため多少は歩くが、周りからの視線が千歳に集中する。すれ違う周囲の男性達から、


「アイドル?」

「芸能人とか?」

「可愛い……」


と呟く声を耳にする。

 だが、千歳にとってそれは聞き飽きている言葉。どんなに外見が良くても、どんなに性格が良くても努力が報われるわけではない事を千歳は理解している。だから千歳は周囲からの軽薄な言葉には動じないようになった。


同日21時前


 お店の送迎車で駅前に着いた千歳は、そのままホテルへ向かう。指定されたホテルは、秘密の共有相手ーーー後嶋龍太ごしまりょうたと2回利用したホテル。

 千歳はフロントに部屋と自分がその部屋を利用している客の連れだという事を伝え、エレベーターを経由して通路を少し歩き部屋の前に到着した。扉を3回ノックしドアノブを回して部屋に入る。


「お邪魔します」


千歳は部屋の奥に座っていた人物に身体が強張り戦慄が走った。





「やっぱりサイトの写真は君だったのか。ーーー藍原千歳」




「ホール長……」


 予想しなかった。予想出来なかった事態が千歳を追い込む。

 部屋のソファーには黒の革ジャンにタートルネックのシャツとジーンズ姿の男が堂々と座っていた。紛れもなく千歳の働くスイーツ店のホール長その人だ。

 千歳は秘密がバレてしまったと内心焦り始める。


「お店のサイトの写真を見たとき、顔はモザイクかかってたけど体型ですぐわかったよ」


  今、千歳はどうやってこの場を誤魔化すか、乗り切るのかを思考する。


「まさか君が風俗嬢やってたとはねぇ。そんなとこで立ってないでこっちへ来なよ」


入り口で立ち尽くす千歳を手招きする。


「わかってて指名したんですか?」

「だとしたら?」

「この事は、秘密でーーー」


千歳は声を震わせながら懇願しようとするがーーー。


「あー、そういことじゃないんだよ」


ホール長は立ち上がり千歳に近づく。千歳の顔が首元に来るぐらいの身長差で物理的に押されたら千歳では抵抗できないだろう。

 千歳は近づいてくるホール長に後退り背中か出入口の扉に当たる。


「藍原千歳、オレはお前を抱きたいんだよ」

「ーーーえっ?」


 千歳に覆いかぶるようにホール長は顔を近づけてくる。ホール長の表情に恐怖を感じ始めた千歳は顔を逸らす。だが、ホール長は逸らす千歳の顎を掴みこちらへ強引に向ける。


「今までの女は食事に誘えば簡単にこじつけられた。けどお前はオレの誘いを断った」

「それは、こっちにも事情がーーー」


 千歳は様々な男性から食事や休日デートの誘いを受けてきた。その中にはホール長から食事の誘いはあった。

 しかし千歳にとって自分の時間はスイーツ作りに時間を割いているため断るしかなかった。


「だから、余計に抱いてみたくなったのさ」

「ーーーッ!」

「断られてからオレはずっと観察していた。お前が真剣に自分の仕事に打ち込む姿を見て、オレは興奮と興味を感じた」


 千歳はホール長の手を掴んで振り払い、ホール長から逃げるように部屋のベッド側へ行く。


「お前を抱いたらたらオレはどんな快楽を得られるのか興味が徐々に湧き上がった」


千歳は迫ってくるホール長から距離を置くように後ろへ下がるが、ベッドのふちに足が引っかかりベッドに倒れ込む。


「ーーー」

「誘惑に興味をみせないお前がどんな顔をするか見たくてなぁ」


 羽織っていた革ジャンを脱ぎタートルネックのシャツをも脱ぎ始めるホール長から千歳はベッドの隅へと下がっていく。


「じゃあ、新作会の候補に出してくれなかったのは……」

「お前をオレの店に繋ぎ止める口実みたいなものだ」

「ーーー自分の欲求を満たすために……」


千歳は日々思考を働かし、1日でも早く祖父に

食べてもらうためのスイーツをお店に取り上げてもらうために雑務や生地作りをこなしてきた。だが、それは無駄だった。あの店で自分がしてきたことは何一つ意味がなかったと悟ってしまった。

 千歳は力が抜けてベッドに身体を委ねる。

それを見たホール長は千歳に近づいて覆いかぶさり千歳の着ているシャツのボタンに手をかけ外し始めた。このままではまずいと思い千歳は、


「その前にお手洗いいいかしら?」

「お好きに」


なんとか千歳は着崩れしたままトイレに入る。


「言っておくが、助けを求める相手がいないことはわかってる。今まで周囲との距離を縮めてこなかったのは観察しててわかる。お店に報告してもオレが出禁になる。ただそれだけだ」


トイレの扉越しに聞こえくるホール長の言葉。


「ーーーオレは今お前を抱ければそれでいい」


 千歳は落胆しトイレの中に座り込み、スマホをスカートのポケットから取り出して画面をスワイプする。ホール長の言った通りお店に報告しても自分が所属するお店を利用できなくなるだけであの男の致命傷にはならない。とはいえ、助けを求める相手もいない。

だが、


「……………ッ!」


1人だけ自分を秘密を共有している相手がいた。

 千歳は通話ボタンをタップしスマホを耳に当てる。呼び出し音が2、3回鳴り響いたところで、


『あ、藍原っ!? 急に電話なんてどうした?』


スマホから狼狽る男性の声。


「………………………………………………」


『ーーー藍原?』


千歳は霞んだ声で一言発する。




「ーーー助けて……」




千歳は霞んだ声と目尻に涙が浮かび喋るのが満身の状態だ。


「結局……どんなに頑張っても意味なかったわ………。私がしてきたことは……………無駄だった」


目尻に浮かんだ涙が瞬きと同時に落下する。


「………うっ………………っ」


『ちょっと待ってろ』


ガタガタと電話越しから物音が響く。しばらく静かになり、息を荒くする声が聞こえる。


『はぁ…………はぁ……………。藍原、今どこにいる?』


「……………駅前のホテル」


『そういえば今日指名入ってたよな』


 千歳は彼に助けを求めた。だが、本心は違う。千歳は彼が助けを求めれば確実に行動を起こすことを確認したかった。千歳にとって唯一の秘密の共有相手でこれまでに何度も自分の事情に踏み込んできた彼に期待をしてはいけないと思ったからだ。助けを求めたらまた彼はこっちへ踏み込んでこようとする。それが千歳にとって嬉しくもあり辛いことでもあるのだとーーー。


「やっぱり、ごめんなさい………。もうこれで終わりにするから、あなたはもう私に関わらなくていいからーーー」


『関係ねーよ』


「えっ?」


千歳は遮るようなタイミングで返事をする彼の言葉に驚愕する。


『言っただろ? 俺は藍原にお節介を焼きたいって。ーーー俺の我儘なんだ。だから、なんとかするからもう少し待っててくれ』


 千歳は彼にこれ以上自分の事情に関わらないでほしかった。終わりにしようとしたかった。だが、それを拒みこの状況から助け出そうとしてくれるという行為に甘える自分が妬ましく思えてしまい同時に嬉しかった。ならば彼の行為にかけてみることにする。

 千歳は涙を指で弾き表情を引き締める。


「わかった。待ってる」


『あ、それとーーー』


 まだ何か伝える事があるようだ。


『通話切らないでそのままにしてほしい。アプリ通話だから電話料金気にしなくてすむだろ?』


「え、ええ……。わかったわ」


 千歳はスマホの通話を切らずに鞄に入れた。"通話を切らない"という事が何の意味があるかはわからないが言われた事をそのまま実行する。


「長いトイレだったなぁ」

「……………………………」


 千歳は何も返答せず、纏っていた衣類を脱ぎ下着姿になった。

 今は少しでも怪しまれないように相手の意識を夢中にさせる。それが今千歳がやるべききとだ。


("彼"は必ず来る。今は少しでも怪しまれず時間稼ぎしなきゃ)


 千歳は黙ったままベッドに横たわり、顔を赤らめ逸らしたまんまーーー


「するんでしょ?」


と一言だけ口にした。

 ホール長は唖然とした後、狂気のような笑みで千歳を見下ろす。


「あぁ、最高だよ! 藍原千歳!」


 そのまま行為に走るかと思いきや、ホール長はソファにある自分の革ジャンから封筒を取り出し千歳に投げつける。


「オレが見出したお前の価値だ」


 千歳は封筒の中身を確認する。封筒の中には大量の1万円札が入っている。


「30万だ」

「さん……じゅう………まん」


 封筒の中の30万に千歳の心境は揺らいだ。このお金があれば祖父の入院費はしばらく足りる上にデリヘル嬢の仕事をしなくて良くなる。


「こんなお金いらないわ」


 だが、千歳はそのお金を受け取らなかった。このお金を手に取れば入院費の問題は無くなっても、祖父に自作のスイーツを食べてもらうという望みは叶わなくなる事に気づいてしまったからだ。この男の下で永遠に頭が上がらなくなれば職場での現状が続いてしまう。なにより、自分のために動いてくれている"彼"に申し訳なくなる。


「私は、安い女じゃない!」

「…………。くすッ! ッははははははははは!!」


 ホール長はたけ猛々しく笑い、千歳の上に覆いのし掛かる。

 千歳はホール長の秘部を見ないように顔を逸らす。


「だったら、ちゃんと満足させろ」


顔を撫でられ、耳や唇、至ってはに膝を触られる。千歳はただそれに耐えるしかない。


「ここからが1番気持ちいぃだろ」


 ホール長はベッドの上にあるコンドームに手をかけようとする。

 千歳はそれに気づきやめるように説得する。


「待って! それ以上は禁止ってお店の決まりがーーー」

「そんなもん黙ってしてるに決まってんだろ」

「そんなのダメよッ!!」


千歳は必死に抵抗した瞬間、右頬をビンタされた。そのまま男の力には手も足も出ず、両手を掴まれ押さえつけられる。


「大人しくしてろ」


もう無理だった。時間は大して稼げもせず一方的に押さえつけられ、無理矢理犯されるのが結局関の山だった。"彼"はまだ来ない。千歳はもう諦め目を閉じた。


プルルッ! プルルッ!


突然部屋の電話が鳴り響く。

 ホール長は千歳から手を離して、


「チッ! なんだよ」


舌打ちしながら受話器を取る。


「もしもし。……………………はぁ?! 警察ッ!?」


ホール長も千歳も警察が来た事に驚いた。

ホール長は唖然としたままだが、千歳は気付いた。この警察は"彼"ーーー後嶋龍太によるものだと。千歳はそれを理解し心の奥底から安堵した。



新人嬢で素人 12 完

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