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デリ嬢を好きになれますか?  作者: ごっちゃん
一章 新人嬢で素人
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プロローグ


「あたし、将来の事を考えてるの。結婚しないなら別れよ」




ーそれは彼女といつもの週末デートの時だった。

 突き付けられた現実と告白。自分がこの時、彼女に告げた言葉が、まさかこんな結果になっるなんて………。



ー2018年 11月10日 午前9時ー


  俺、後嶋龍太ごしまりょうたはフリーターだ。高校を中退してバイトやパートを転々と繰り返し、18歳の誕生日に家族と喧嘩して一人暮らしを始めた。生活をするのに生活費を稼ぐのは当たり前で、スーパー・コンビニ・引っ越し業者………etcのバイトでなんとかギリギリの生活をしていた俺に23歳の秋に小学校の付き合いの男友達に女の子を紹介してもらい、今はデパートのフロアスタッフのパートで働く彼女持ちの25歳リア充なわけだ。

 今日は朝9時から夕方4時まで働き、そのあとは彼女との週末デートだ。マジで充実してる俺は開店前の1時間前にはフロアの清掃やトイレ清掃を済ましたあとに任されたフロア内の見回りとコーナーで使う業務用品の補充、お客が困っていると対応する。パートなら大体この程度の仕事だ。

 俺の任されたフロアは地下の食品売り場。お菓子やスイーツ、お弁当にお惣菜といわゆるデパ地下というやつだ。


龍太りょうちん、そっち終わった?」

「あぁ、掃除は終わったよ」

「じゃあ、包装や土産袋の補充に回るか」

「あいよ」


この慣れ慣れしい感じに話しかけてくるのは山崎卓郎やまざきたくろう。このバイトで1番仲良く飲みに行ったり、プライベートでも遊ぶ仲だ。


「お前、今日彼女とデートだろ?」

「そうだよ」

「よくもまぁ2年も付き合ってられるよなぁ。そろそろ結婚したいって言われないのか?」


 いつもの仕事中の雑談。物資の倉庫で代車にダンボールを積み、フロアコーナーに運ぶ作業の時に俺達は喋りながら作業する。


「結婚かぁ……。まだ25だしもうちょい遊んでたくね?」

「まぁ気持ちはわかる!けどなぁ、さすがに2年も付き合って結婚しないのも彼女に悪いだろ」


卓郎は自分が運ぶ代車にダンボールを積み終えて倉庫から出る直前に、


「少し考えてみろよっ」


と言い残し後にした。

 たしかに今の彼女とは2年付き合っていて側から見たら結婚してもおかしくないとは思う。

 けど俺はまだ25で遊びたい気持ちは強い。だから気持ちを有耶無耶にしてたらあっという間に2年も経っていて、世間でいうところのダメ男なのだと解っていても認識しようとしてこなかった。きっとこれからも中途半端で俺は生きていくんだ。

 自分の代車にダンボールを積み終えて、お土産用の紙袋と包装紙をスイーツ売り場に持っていく。カウンターの裏手の棚に運んで来た紙袋と包装紙を補充してる俺の後ろから澄んだ声色の挨拶が聞こえてきた。

 

「おはようございます!」

「おはよう!」

「おはよう、千歳ちゃん」


 藍原千歳あいはらちとせ

 俺が働く地下フロアのスイーツ作り担当のバイトの女の子。外見からしてもうS級美女で、少しブラウンかかったロングにスタイルも良くて何より足が細い。履いてきた黒いストッキングが妙に色気を出しているのが見てわかるレベルだ。あと胸でか。


「今日も千歳ちゃんかわいいよなぁ」

「彼氏いるんだっけ?いなかったら声かけてみようかなぁ」

「やめとけ、絶対いるから」


周囲の男性スタッフ達の藍原千歳に対する評価は当然星5中星5。たしかにスタイルも良くておしゃれだ。今日も着て来た紅色のロングコートにネックが下がった白いセーター、ジーンズタイプのスカートに黒ストッキングとヒールタイプのショートブーツ。今時のおしゃれ女子って感じだ。

 だが、周りの男達が藍原千歳に惹かれる1番の理由は顔と気の利く性格が1番だろう。

 あんな女神のようなスマイルで気さくに話しかけてくれたら誰だって勘違いするのは当然。実際、藍原千歳に告ったり食事に誘った男性スタッフがこれまでに何人もいたが全員玉砕だと聞いている。知らんけど。

 けどなぁ、あれはただの愛想。周りと上手く接するための作られた藍原千歳。きっと内心は口の悪い、腹黒ビッチだな。間違いない。

 俺は藍原千歳と話たことはほとんど無い。担当仕事が違うのは勿論、ほとんどすれ違いや軽く挨拶するくらい。というか、あんなS級美女とまともに会話できる自信なんて持ち合わせてないわけだ。

 俺は自分の作業を黙々と続け、いつもの業務に勤しみ、気づけば昼休憩の時間になっていた。


「藍原千歳、今日もかわいいよなぁ」


隣でデパ地下弁当を食いながら卓郎がぼやくのを俺はデパ地下サンドイッチを食いながら聞く。

 

「卓郎も藍原さんのこと狙ってんのか?」

「んなわけあるか。高嶺の花だ」

「だよな」

「でもあれで彼氏いないんだってよ」


マジ?意外だ。


「超イケメンの彼氏いると思ってた」

「まぁあんだけ可愛ければなぁ…。小耳に挟んだが、彼氏はいないらしい」

「へぇー」


 もし卓郎の話が本当なら、何人もの男に誘われただろう。けどそれを全部断って来たのはなんでだろう。職場にはそれなりにイケメンもいるがそれでも断る理由。藍原千歳には彼女なりの感性があるんだと思う。実はブサメン推しとか。


「彼女いる俺にはどうでもいいわ」

「リア充乙」




ー昼休憩を終えて午後の業務も終わり、自宅に戻りデートの準備をする。

 季節は冬間近で11月前半だが日が落ちてくればかなり寒い。

 今日は下に白のパーカー、上には赤の袖なしジャンバーにジーンズとスニーカーで待ち合わせの静岡駅の待ち合わせ場所に向かった。

 俺は車を持っていないどころか免許も持ってない。移動手段は公共交通機関、自宅からバスで駅へ行くしかない。



ー2018年 11月10日 午後5時


「お待たせー」


 駅の改札前でスマホを弄りながら待ってると改札側から彼女が来た。

河幹千尋かわみきちひろ

 小柄で背は150前後くらい。茶髪のショートボブの23歳。いわゆるロリ系というやつだ。

 彼女との出会いは2年前の9月、今年で2年経つ。これまでは2人で出かけたりディズニーやUSJも行ったりと充実した2年を過ごした。今日もこれから軽くショッピングをしてご飯を食べてあわよくばそのままホテルにも……。これがリア充のデートだ。


「全然待ってないよ。5分前ぐらいに着いたから」

「そうなんだ。よかったぁ」

「今日のワンピース似合ってるよ。けど寒くない?」

「そうなんだよねぇ。ちょっと肌寒いかも」

「じゃあ早く行こうか」


 俺は彼女と手を繋いで駅の地下街から商店街へと向かった。

 そのあとは2人で服みたり、雑貨屋に寄ったり、本屋に行ったりとただただ普通のデートを過ごした。夕食は和食ビュッフェで少しお酒も飲んでいい感じに2人はほろ酔い状態になったところで俺は切り出した。


「今日はまだ時間あるし、この後……ホテル行かない?」


駅の地下街を歩きながら恐る恐ると。


「ごめんね。今日……女の子の日で………」

「そ、そっか、ごめんね。気が利かなかったわ」

「ううん、大丈夫だよ。薬飲んでて痛みを抑えてるから」

「それじゃあ今日はもう帰ろうか?」

「そうだね」


正直なところその後の展開は期待した

 俺は自分の欲を抑えることはできる。むしろ女性の事情なら尚更我慢しなきゃいけない。

 俺達は駅の改札前まで着て、彼女は電車の切符を買い終えると俺のところへ戻ってきた。


「それじゃあ、またね」

「うん。またね」

「………………」

「?」


 彼女はその場に立ち尽くしたまま黙った。


「どうしたのちぃちゃん?」

「りょうくんさぁ、あたし達付き合って2年だよね?」

「……そうだね」

「あたしの仕事は保育士だけど、いつまでも保育士をやってられるかわからない。だからねー」


 俺は朝に卓郎が言ってた言葉がフラッシュバックした。


『そろそろ結婚したいって言われないのか?』



「結婚したい………て、思ってる」


来た。来ちまった。ほんとに来ちまった。

 朝、卓郎が言ってたいたことが本当になっちまった。アイツは予知能力でも持ってるのか?!

 俺がここで返す言葉は多分「しようか」が正解だと思ってる。河幹千尋という子は、高校中退フリーターの俺でも気にせず付き合ってくれたし、はじめても嫌がらずしてくれた。こんな優しい子から結婚したいって言われたら2つ返事でオーケーのはず。はずなのにー


「……俺達まだ20代前半だし、結婚は早いっていうか……その……まだ遊びたいっていうか………」


 長い沈黙だった。駅内の音声や歩く人、立ち話している人の声がやたらうるさく聞こえた。

何故そうしたのか、何故こう答えたのか。今は何も考えられなかった。

 1分くらいの沈黙した後、彼女が出した返事はー


「そっか……。ーーーあたし、将来の事を考えてるの。結婚しないなら別れよ」


その言葉を告げられ、俺はーーー石みたいに動かなくなった。



プロローグ  完。


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