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指切り  作者: 黒爪
6/10

兆し

『スナックママのぼやき』


ああ、あのコね。

もうとっくに辞めたわよ。

恩を仇で返されるってのはこの事ね。

あのコがウチに来たのは三年前。

どこだったかの田舎から出てきたコで、27だったかしら。

ちょっとトウが立ってるかなとは思ったけど、ウチはご覧の通り大衆向けのスナックだし、来る客だって安さ以外はハナから期待なんかしちゃいないから雇ったわよ。

住む所も無いって言うからわざわざここの二階の空き部屋まで世話してやったのに。

あのコ前はレストランで働いてたらしいじゃない。そのせいか接客は悪くなかったわね。

見た目も悪くなかったし、これは意外といいコを拾ったかもなんて考えた矢先よ。

客の男とフラッといなくなったのは。

相手?

詳しくは知らないわよ。

それに知ってたら真っ先にアタシが追いかけてるもの。

あの男いったいいくらツケを残して消えたと思ってるのよ。

景気のいい時でも頭に来るのに、このご時世にそんなことやられちゃたまったもんじゃないわよ。

ところでアンタあのコの知り合い?

だったらあのコの出した損害をナンボかでも肩代わりしてくんない?



あっそ

だったら帰って頂戴

もうすぐ開店なんだから。



『板垣あゆみの叫び』

アタシはこんな所で何をしているんだろうか。

疲れ果てて部屋の片隅に座り込むたびにいつもそう思う。

働いていた地元のレストランを辞めざるを得なくなり、退職届を出した後。

両親と折り合いの悪かった私はいとも簡単に居場所を失った。

早く新しい仕事を見つけたかったが、地元ではなかなか見つからず、最終的に行けばなんとかなるという思いから東京を目指した。

それに東京には西川君がいると聞いている。

向こうでの生活が落ち着いたら久しぶりに連絡を取ってみよう。

住所も電話番号さえも知らないけど、地元の誰か、例えば久保君なら知ってるかもしれない。

西川君を頼るわけにはいかないけれど、同じ町に西川君が居ると思えばきっと頑張れる。

運が良ければ何処かの街角でバッタリ再開できるかもしれない。


そんな私の妄想を嘲笑うかのように都会の人混みは深くら大きく。

田舎者の私はそのうねりに溶け込むことを許されず、いともあっさり都会の隅に弾き出された。

仕事も住む場所も見つからないまま、貯金だけが減っていく日々の中でやっと辿り着いたのは場末のスナックだった。

水商売の経験なんてなかったけど、仕事の選り好みはしてられない。

幸いママが店の2階にある一室を空けてくれて、住み込みで働けることになった。

仕事と家、二つ同時に手に入れることがでした私は、きっとここでなら幸せになれると確信した。


仕事に慣れるにつけ生活は安定していきました。

ベタベタと体を触られることは未だに慣れなかったけど、ママもお客もみんな優しい人達ばかりでした。

そろそろ西川君を探してみようか

そんなことを考えていたある日、常連のお客さんに連れられて来たのが金田という男でした。

気さくで話も面白く

少しだけ

ほんの少しだけ西川君に目元が似ていました。

すぐに店の雰囲気に溶け込んだ金田はほれから三日後にら今度は一人で来店しました。

隣についた私が水割りを作り終えると金田はポケットからブランドの包み紙で包装された小箱を取り出して渡してきました。

有名な時計店の包装でしたので、開けるまでもなく中身は高級な腕時計だと分かりました。

金田は目を白黒させる私ににっこり微笑みかけると『プレゼントです』と言いました。

もちろん私はプレゼントをお断りしました。

こういう仕事ではお客さんからプレゼントを頂くこともあると知っていましたが、来店二回目のお客さんからいきなり高価なものを貰うわけにはいきません。

ですが金田は『ほんの気持ちですから』と強引に手元に押し付けてきました。

私は判断に困ってしまいましたが、最終的にはママの『貰ってあげたら』の一言で決着しました。

それからです



金田の熱烈なアプローチが始まったのは。


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