記憶
『俺の告白』
また夢を見た。
今度の夢は昔の記憶をそのままなぞった夢だった。
あの日、俺は放課後の教室で板垣あゆみと二人きりで向かい合っていた。
当時から奥手だった俺が唯一気兼ねなく会話することができる女友達。
恋愛感情は無かったが、大事な友達には変わりなかった。
それに俺は久保が板垣あゆみを好きな事に気付いていた。
友人の恋愛に横入りはしたくなかったし、する気も無かった。
今日の話・明日の話・来週の話・卒業後の話
そして10年後の話。
他愛もない会話の中に織り交ぜられる将来の話。
俺はあの時はまだ自分が選ばれた人間だと根拠もなく信じていた。
自分には可能性があるも思っていた。
だから板垣あゆみが『西川は将来どうするの?』と聞いてきたときも何か格好をつけた答えを返した。
現実にはクビに脅えるただのサラリーマンにしかなれなかったというのに。
俺はそっくりオウム返しに同じ質問を板垣あゆみに返した。
彼女
少しだけ考える素振りをしてから『幸せな生活を築いていたらそれでいい』と答えた。
当時はありきたりな夢だと思っていたが、根拠の無い可能性を盲目的に信じていた俺より、板垣あゆみの方が余程現実味のある将来だった。
『結婚は何歳でできるのかな』
板垣あゆみはポツリと呟いた。
結婚はしようと思ってできるのものではないと思っていた俺は『さぁ』とだけ簡潔に答えた。
板垣あゆみは俺の素っ気ない返事にさして気を悪くした風でもなく『あたしはさ、20代の内に結婚したいな』と言った。
それは本当に
本当にただの思い付きだった。
『じゃあさ、30までお互い独身で恋人もいなかったら結婚しないか?』
板垣あゆみは目を丸くして『本気?』と呟いた。
『もちろん』
本気じゃなかった。
ただの冗談だったし、まさか板垣あゆみも本気にはしないだろうと思った。
『そっか、それなら行き遅れなくて済むね』と板垣あゆみは笑った。
『じゃあ約束だから指切りしようよ』
板垣あゆみは右手の小指を差し出した。
指切りの約束なんて何年振りだろうか。
多分子供の頃以来だ。
指切り げんまん
嘘ついたら 針千本
飲ます
板垣あゆみの白く細い小指と
俺の指が絡んで踊り、『指切った』の合図で離れる。
他愛のない冗談と軽い嘘を含んだ指切り。
小指にはまだ板垣あゆみの感触が残っている。
板垣あゆみは小さく笑って『指切りは約束』と呟いた。
夢の終わりが近づいて、半覚醒の意識の中で俺はこの軽率な約束をやっと思い出したのだ。
『やっと思い出してくれた』
覚醒する直前に板垣あゆみの懐かしい声が頭に響いた。
小指の痺れがまた強くなった気がした。




