指を切ったら身の破滅
指切りげんまん
嘘ついたら針千本
飲ます.......
軽率な約束は即ち身の破滅
『外科医 高松の述懐』
私も医者として長年経験を積んでまいりましたが、あんなケースは後にも先にもこれっきりですね。
西川さんが当院に駆け込んできたのは97年の初頭でした。
刺すような腹痛ということで内科を受診されましたが、間もなくカルテは外科に回ってきました。
レントゲンの結果、胃の中に大量の『針』のような物が確認されたからです。
西川さんにレントゲンを見せて確認を取りましたが、彼は全く身に覚えが無いと答えました。
幼児の誤飲とは別に、ごく稀に患者の中には意識・無意識を問わずに異物を飲み込んでしまう方もいらっしゃいます。
自殺未遂で噛み砕いたガラスのコップを飲み込んでしまう方もおりました。
ただ、無意識でレントゲンに塊になって写るほどに針をのみこむことがあるのだろうか?とも考えました。
もっともそこは精神科医の分野でしたので、私は私の仕事を
即ち緊急開腹による摘出手術を行いました。
結果、摘出された針は計24本。
恥ずかしながら医療業界にはメスや手術針の置き忘れという事故がたまにあります。
しかし西川さんには手術経験は無く、摘出された針も縫合用の手術針ではなく
全て一般家庭で使う裁縫針でした。
俺の告白
手術後に麻酔から覚めた俺が最初にしたことは、看護師に胃から取り出してもらった針を見せて貰うことだった。
手術前にはレントゲンを見せられたし、目の前の盆に乗せられた針を穴が開くほど見つめたりもした。
だがそれでもおれにはさっぱり事態が把握できなかった。
俺は急な腹痛に悩まされて病院に駆け込んだだけなんだ。
内科で診察を受けて、レントゲンを撮り、青くなった医者から『手術をしなければなりません』と告げられてもなおタチの悪い冗談にしか思えなかった。
毎日会社が終わって真っ直ぐ家に帰り
レトルト食品で夕食を済ませ
翌日の仕事のために早めに床につき
翌朝痛みで目を覚ます。
この間、いったい誰がどうすれば俺に針を仕込めると言うんだ。
食事に針が1本でも混ざっていれば即座に気付いただろう。
医者に何度も聞かれたが、自分で飲み込んだりもしていないと断言できる。
独身三十男の我が家には裁縫針なんて1本も無いんだから。
手術の傷の痛みに耐えながら病室の天井をぼんやり眺めていると様々なことが頭に浮かんでくる。
どちらも外国の話だが、体から釘が出てくる男の話や、まぶたから水晶の欠片が出てくる少女の話だ。
だがあれはマスコミを呼び寄せて金を集めるトリックだったはずだ。
釘も水晶も事前に本人が体の中に仕込んでいたのだ。
俺は不意に誰かが話題作りのために、眠っている俺の体に針を仕込む所を想像した。
冷静に考えれば、いくら深く眠っていても他人の胃袋の中に気付かれないうちに針を仕込むなんてできるわけはないのだが。
鎮痛剤で朦朧とした頭にはなんだかそれが真実に思えてきた。




