特別授業
「 君をこんな朝早くから呼び出した大きな理由でもあるんだけどね、さっき話した試練はなんと、明日行われます」
(ふざけるなーーー!!!)
すごい笑顔で学園長はニコラにそう告げた。
ニコラはこの笑顔と相まって今の発言を聞いた瞬間一発ぶん殴ろうかと思ってしまった。
「ちょっと待ってください!何度も言ってますけど僕まだこの学園に来たばかりでなにも勉強とかしてないんですよ?」
「そうは言ってもね…元々の予定で決まっていたことだし、他の魔導師のみんなは明日に向けて色々と備えているだろうからニコラ君1人のために予定を変更することはできないのさ」
この学園長、申し訳なさそうな顔と声を一応しているといった感じだ。
顔が半分もう笑いかけている。
「学園長、なぜか面白がっているように思えるのは僕だでしょうか?」
「いやいや!何を言うかねニコラくん。私はいつなん時だって物事には真剣に取り組んでいるさ。……おもしろさの追求のためにはね」
殴っていいかな。殴ってもバチは当たらない気がする。今まで人に手を出したことは一度もないけど、この人になら手を出しても良い気がする。
なんならこの日のために今まで手を出さないで貯めておいたまである。
「そうカリカリするでないよニコラ君。エレン君とペアという特別な待遇を認めるのだから、少しは理解してくれたまえよ」
「いやその待遇自体も問題があるんですけどね」
「とにかく明日は毎年恒例の新魔導士達による試練が行われる。これはもう決定事項だからよろしく頼むよニコラ君」
学園長は僕の言葉を平気で流した。ウインクをしながら。
「…分かりました。でも僕何も出来ることはないと思うのですが…。エレンさんが一人で突っ走って終わる気がします」
「いやいや、エレン君には試練中は直接的な魔法の使用は制限するつもりさ。そうでもしないと新人魔導師相手だったらエレン君無双しちゃうだろうからね」
「そ、それじゃあまともに魔法が使える人がいないじゃないですか!?」
「大丈夫、今日はそんなニコラ君のために魔法の基礎に関する特別授業をある専門講師を呼んでお願いしているから。今日一日みっちりと勉強して明日に備えてくれたまえよニコラ君」
「特別講師?今日は学校の先生たちは普通の授業中ですよね?どこか別の学園とかから講師を呼んだということですか?」
「いやいや、我が優秀なホウレイ学園に他所から講師を呼ぶだなんてそんな恥ずかしい事はしないしできないよ。僕が恥をかいちゃうだろ?」
「え、じゃあいったい誰を読んだんですか?」
「そういうわけだ、よろしく頼むよエレン君」
「……承知しました」
「そのパターンはもういいです!!」
僕は盛大につっこんだ。そして思わず学園長の机を両手で勢いよく叩いてしまい、少し手のひらが痺れている。エレンさんは相変わらず無表情を貫いている。学園長はというと、ん?何かな?と言わんばかりのきょとんとおどけた顔をしている。僕には分かっている。学園長は僕からの追加のつっこみが来るのを待っていることを。
つくづく思う、この人の相手は面倒くさいと…でも実際はすごい偉大な魔導師なんだろうに。
そのすごさを全く感じないというか、感じさせないのか分からないが、心の奥で実際何を考えているのかは分からない。そういう少し謎めいている部分を秘めているそんな人物である。
「まあとりあえずニコラ君、君はエレン君と一緒にどこか空いている教室に行って二人きりでみっちりしごかれてくるといいよ。あ、もちろん変な意味じゃなくてね」
「分かっているので言わないでもらっていいですか、そういうこと」
はっはっはと学園長の笑い声を聞きながら、僕とエレンさんは二人で学園長室を出た。
この学園に来てから、いや来る前からか?とにかくエレンさんとずっと一緒な気がする。これならもっと親しい間柄になってもおかしくないはずなのに、なぜだろうか。エレンさんと仲良くなる未来が全く想像できない。
エレンさんが無表情でかつ目が怖いのが大きな原因だと思う。笑顔が素敵で気さくな方だったらもっとフレンドリーになって会話も弾むのにな。
などと考えながら、僕はエレンさんに連れられ普段あまり使われないという小規模の大きさの教室へと辿り着いた。
扉を開けると中は真っ暗であった。電気はついておらずカーテンは締まっている。
あまり使われていない証拠だ。電気をつけ中へと入る。よく見ると机やいすの上にはうっすらとほこりがかぶっているのが見える。使わなくても掃除くらいしてもいいのにと思う。
「ではまず、この世界における魔法の基礎中の基礎について話す。どこでもいい、席につけ」
エレンさんは教室の前にある黒板の前に立つと僕にそう言った。言われるまま僕は真ん中の一番前の席についた。
「まず初めに魔法を使うための源、魔力はかつてこの地にいたドラゴンの体の中にのみ存在していたとされている。
そしてドラゴンは全部で7体、それぞれ赤、青、黄、緑、水、白、黒の色をしており、その色と同じ魔法色の力を持っていたと言われている。そしてあるとき我々人間にドラゴンの魔法の力が宿り、今この世界に魔法が広がっているというわけだ。加えて、それぞれの色魔法の魔導師には1人ずつ竜魔導師と呼ばれるその色の熟練者が存在する。そのものは体内にドラゴンの魂が宿っているとされている。そしてお前の中に白色のドラゴンの力が宿っているらしいのだが、熟練者でないお前になぜ宿っているのか理由は分かっていない。前試したとき到底熟練者とは呼べるものではなかったからな」
なるほど、そういうわけか。エレンさんが僕と相手をしたがったのは。
エレンさんは続いて黒板にチョークで7つの色をそれぞれ書いていきながら話し始めた。赤、緑、水、黄、青の5色をこの順に時計回りで円上に書くように書いていく。残りの白と黒色はさっき書いた5色の上の方に黒、その上に白と書いていった。
「まずはこの5色魔法についての関係を話そう。時計回りで「優」、反時計回りで「劣」を表している」
赤→緑→水→黄→青→赤の順に相性が良く、逆に
赤←緑←水←黄←青←赤の順に相性が悪いということ。
エレンさんの黄色の魔法、雷に対して有効なのはシーカさんの水色の魔法、風だったからこの前の戦いはなんとかなったということだ。
エレンさんが水色魔法でシーカさんがある黄色魔法だったら……終わってたね。
「こうなってくると5色魔法以外のもの、白色と黒色の魔法がどうなるかということだが、結論黒色はこの下に書いた5色魔法全てに対して有利である」
エレンさんは黒板に「黒」と書いた文字から下に書いた5色の字のところまで矢印を書いた。そして続いて「黒」と書いた字の上の「白」の字から「黒」の字のあるところまで矢印を書いた。
「黒色は下の5色全てに対して有利、そして白色はその黒色に対して有利である。この図はそのことを表している。この図が現在の魔法の元となるような、基礎的なことを端的に表現している。ここの生徒はみなこのことから学ぶ」
続いてエレンさんは7色魔法の根本的な部分、またその概要など大まかに説明してくれた。
なんか黒色魔法ってチートくさい気がする。赤、青、黄、緑、水の5色に対して有利とか、子供が好みそうな設定だ。でもただ一つ不利になる相手がいるってところがまだそのチートっぽさを薄れさせている感じがする。
それが僕の魔法、白色魔法だ。「闇」を操る黒色魔法には「光」を操る白色魔法が有利なのは感覚でも分かる。でも白と黒色魔法の魔導師はとても稀らしい。そのため他の5色の魔法については色々と研究が進んでいるが、白と黒の2色に関してはまだ未知な部分が多いのだそうだ。添い言った意味もあって前回エレンさんが僕と会うなりいきなり相手をしろだなんて言ってきたのかもしれない。
「よし、とりあえず7色魔法の概略はこんなものだろう」
「え、これだけですか?もうちょっと何かないんですか?だってまだ、7色魔法のお互いの関係というか優劣くらいしか説明されていないですけど」
「大丈夫だ、細かいところはいくら説明したところで分からないものは分からない。実際にやってみるしか理解できないところがある。それにそんな詳しく説明する時間はない。お前にはもっと他にやるべきことがあるからな」
「な、なんですか?今エレンさんの相手をしても前と結果は変わらないと思いますよ?」
この人のことだ、あとは実践しながら教えるとか言い出しそう。
「違う。まあ私はそれでもかまわないんだがな。だが学園長にお願いされたことがあるからな」
「学園長が?あの人が何を言ってたんです?」
「魔法の詠唱の練習。それもお前の白色魔法ではない。
赤、青、黄、緑、水、5色それぞれの魔法の詠唱をすべて覚えてもらう」