学園のしきたり
「はっはっはっは。それは災難だったねニコラ君」
ニコラ、エレン、そして学園長の3人がいる学園長室には楽しそうな、愉快そうにしている学園長の笑い声が響いていた。
先日、学園に来た初日に学園案内をしてくれると言われエレンさんとシーカさんに連れられ学園内を歩くまでは良かった。しかし連れていかれた場所はなんと闘技場。
そこでいきなり僕の魔法の力をみせてもらうとかなんとか急に言い出して、エレンさんの相手をすることになった僕。
まだ魔法を使ったこともなければ見たこともない、全くの未知な状態な僕を相手に問答無用と言わんばかりにエレンさんは雷の魔法を使ってくる。その場にシーかさんがいなかったらと思うと怖くて震えてしまう。
その闘技場の中で何があったかというと、まあ色々起きたわけだが、1つの大きな出来事として僕の魔法の力がどんなものか少し入り口の部分だけ分かったことが大きな進展となったことが挙げられる。
まだ詳細なことについては分かっていないが、どうやら僕は他の人の魔法が使えるみたいなのだ。つまり他人の色の魔法が扱えるということだ。
それってすごいことなんじゃないのか?先日のエレンさんの雷の矢を打ち消した風の魔法は僕が生み出したもので、シーカさんの水色の魔法を僕がコピーしたことでできたみたいだ。
僕の右手から白い光が出ていたのが、シーカさんに触れて水色に変わったのはそういうことらしい。風は水色の魔法だからだ。
今度エレンさんに触れたら黄色に光るのだろうか。やってみないと分からないが試す価値はありそうだ。
そして、先日の闘技場での出来事を終えた後、もう日が暮れそうな時間帯だったので二人に寮の僕の部屋のところまで案内され1日を終えた。
忘れていたのだが、このホウレイ学園は一部を除き全寮制となっている。一部屋につき二人の生徒が割り当てられ生活することになっている。
僕は特別生として来たからであろうが、同室には誰もおらず昨日は一人で就寝した。よほど疲れていたのか部屋に入りベッドに横になってからの記憶がない。
そして一夜明けた本日、朝一番にエレンさんが僕の部屋のところまでやって来た。学園長がお呼びだということで、今僕はここ、学園長室にいるということだ。
「君には期待しているの言ってたけど、まさか初日にいきなり魔法を使うことができるとはね。しかも、エレン君の攻撃を打ち消すだなんて。いやー素晴らしい素晴らしい」
学園長は一人目を閉じうんうんとうなづいている。関心関心と言った感じに僕を褒めてくる。僕がどんな目にあったか知りもしないで。
「いやいや、ほんと怖かったんですから!殺されるかもしれないと思いましたよ!」
「はっはっは。まあまあ落ち着きたまえよ。エレン君だって馬鹿じゃないさ。そこら辺のことはちゃんと考えてやってるに決まっているだろう?」
またまたニコラくんはー、という感じに軽くあしらわれてしまった。
そーなのか?エレンさん、あの時本気で僕に雷を打ち込もうとしてたよな?シーカさんも私が助けなかったら僕がただじゃすまなかったですよ?とか言ってたし。
あ、あれか。シーカさんがいたからそれを考慮してのことだったのか。いやでもシーカさんに邪魔はするなとか、二人一緒に相手してやるとか言ってたし…。
深く考えるのはやめよう、僕は無事だ。それだけで良いじゃないか。
「ところでニコラくん。昨日の今日で悪いんだけど、今日君を呼んだのはういの学校のあるしきたりについて説明すふことがあったからなんだよ」
「しきたり、ですか?」
「そう、我が校にはこの時期になったらある試練みたいなものを受けてもらうことになっているのさ。新人魔導師全員にね」
試練と聞いて少しびびり、だまってしまったニコラを見て、にっこり笑いながら続けて学園長が話し始める。
「試練と言っても、そんな大したものじゃないから心配ないさ。さっきも言ったけど、これは今年魔導師になったばかりの魔導師新人が対象だからね」
「今年魔導師になったばかりの人と言いますが、僕今年というレベルではなく先日魔導師になったばかりなのですが」
「昨日だって今年に入るよね?」
「そういうことを言ってるんではなく、まだ十分な魔法の指導を受けていないって意味です!」
「はっはっは。大丈夫、ニコラ君の言いたいことは分かっているさ。僕だってなにも考えていないわけじゃないよ?」
「分かっているなら最初から言ってもらいたいのですが…」
「ニコラ君、もしかすると君は…つまらない人間なのかな?」
「学園長の中で、これがつまらない人間になるのなら、僕はつまらない人間でいいです」
「おもしろい!やっぱり君は僕が見込んだだけはあるね」
もうやだこの人の相手をするのは。話しているだけで疲れてくる。分かっているのなら早く言って欲しい。学園長のこの笑顔のインパクトが大きすぎて脳内に残ってしまう。この人、人生楽しそうだなと思う。
「話を戻すとだね、今回の試練では通常新人魔導師2人1組でチームを作ることになっている。でもニコラくんをそうしてしまうと君と組んだ子が不満を持ってしまうかもしれない」
「そうですねそれは仕方ないと思いますし、僕も申し訳ない気持ちになってしまいます」
「そこでだ、僕は考えついたのさ。ニコラ君は特別に上級生の魔導師の子とペアを組んでもらおうと」
なるほど、たしかにそれぐらいしか他に良さそうな方法はないのかもしれない。僕のマイナス分を補うハンデみたいな感じだ。
上級生とか…優しそうな方が良いな。僕が全然ダメダメでも責めたりせず、優しくフォローしてくれる笑顔の素敵な方が。
「というわけだ、よろしく頼むねエレン君」
「……承知しました」
「ちょっと待ったー!」
「なにかな?ニコラ君」
「何かな?じゃないですよ!話しましたよね?僕この人に酷い目に遭わされたって!」
「大丈夫大丈夫、次はペアとして協力関係になるんだから何も問題はないさ」
ちらっとエレンさんの方を見てみた。相変わらず無表情のまま姿勢よく立っている。やっぱり目、怖い。
試練というものがどんなことをするのかまだ分からないが、この方が味方ということになれば優秀な先輩として頼りにしてもいいのであろうか。未だこの人への警戒心は否めないが…
とりあえず今分かったことは、近いうちに新人魔導師対象の試練と呼ばれるものがあること。そして、つい先日魔導師になったばかりの僕は普通なら同じ新人魔導師とペアを組んで試練に挑むところを例外的に上級生と組んでいどむこと。そしてその上級生は、エレンさんだということ。あれ、急に胃が痛くなってきたような、気のせいか?
「話はそれだけですか?もう終わりなら教室の方に行きたいのですが」
実は今日は普通の平日なため、学園では授業が通常通り行われている。ニコラは今日からクラスへと初めて行き、魔法の授業を受けることになっている。そのときにニコラは自己紹介をすることにもなっている。
「あー待ちたまえニコラ君。最後に君に伝えておくことがあったよ」
「まだ何かあったんですか?何ですか?」
「君をこんな朝早くから呼び出した大きな理由でもあるんだけどね、さっき話した試練はなんと、明日行われます」