白色魔法の力
「ラ・リュミエール!!」
呪文を唱えたその瞬間、ニコラの右手から白い光が現れ出した。
とてもきれいな、まばゆい光がニコラたちがいる闘技場の中を照らした。辺り一帯を神々しい光が照らしている。
ニコラは黙ったまま自分の光の源である右手を見つめている。
初めて魔法を使ったためか体がふらついてしまい、シーカが体を支えてくれた。
「大丈夫ですか?」
シーカが心配して優しい言葉をかけてくれるが今のニコラには聞こえていない。
というより頭に入っていないと言った方が適切か。
今、ニコラは自分の右手の光に目が釘付けで他のことを何も考えられない状態だ。
(これが魔法か、何か体から力が抜ける感じがするな)
まだシーカに体を支えてもらっているままのニコラは開いていた右の手の平を強く握りしめた。
するといっそう光が増し、すぐ近くにいるシーカは目を開けていられなくなった。
「ニ、ニコラさん!ストップストップー!」
たまらなくなったのかシーカが目をつぶったまま大きな声でニコラに呼びかけた。
はっと気づいたニコラは力を込めて握りしめていた手を広げ、意識をシーカへと向けた。
同時にニコラのの手の平から出ていた光は消え、先ほどからいる元の景色に戻っていた。
さっきまでどこか別の場所にいたんじゃないかと錯覚してしまうほど、ニコラは何か不思議な感覚を感じていた。
「で、できましたね!ニコラさん!」
シーカがうれしそうに満面の笑みでニコラの顔を見つめている。
ちょっと近いな…。でもこんなにうれしそうにしてくれてこっちまでうれしくなってくる。
初めて魔法を使えてうれしいはずなのに、うれしさというよりかは好奇心みたいな、わくわく感の方が強くニコラの心を支配していた。
「うん、ありがとう。シーカさん」
シーカに笑顔でお礼をするニコラ。体をシーカに支えてもらっていたことにやっと気づき、それも合わせてニコラは感謝した。ニコラとシーカ、二人が笑顔でいる一方でどこか険しい顔をしている長身黄色髪鋭い目の女魔導師約一名いた。
「おい、なに何か達成しました感を出しているのだ。手が光っただけでなにもしてないじゃないか」
エレンの鋭い目に続き鋭い指摘がニコラを貫く。やっぱこれだけじゃ納得してくれませんよね~。
自分的にはもう満足でいっぱいのニコラであったが、エレンさん的にはまだ何も解決していないご様子。
とはいってもこれ以上何をすれば良いのかニコラには全く見当がつかない。
とりあえずもう一度さっきの光を出して、エレンみたく光を投げ飛ばす感じでやってみよう。
イメージは矢のようにスーッと伸びていく感じで。
「ラ・リュミエール」
もう一度呪文を唱えさっきと同じように右手に光を出そうと、右手の方に意識を集中する。
ぼわーと光が右手から光りだした。最初ほど勢いよく呪文を唱えていないためか、今度は辺り一帯を照らすほど強くはなく、適度に少し周りを明るくするくらいの光が現れた。
「おっと」
やはり魔法を使うと力が抜ける感じがしてしまう。少し体が揺らぎシーカの肩を借りようと手を伸ばした。そしてシーカの肩にニコラは右手を置いた。
「あ、ごめん…」
謝りかけたその瞬間、突然と光の色が変わった。それまで白かった光が水色に変化した。
なんだ?色を変えた自分の右手を確認してみる。 色の変化以外特に変わったところはない。
真っ白の光はとてもきれいであったが、水色の光もそれと負けず同じくらいきれいで明るく光っている。
そしてシーカは少し考えこみ何やら一人でぶつぶつ言っている。
「おーい、シーカさん?どうかしましたか?」
ニコラが問いかけてみる。するとシーカは真面目な顔つきでこう言った。
「少し試してみたいことがあります」
「う、うん…何かな?」
あまりすごいことはやってみたくないんだけど…。シーカがあまりにも真剣な表情なので、ニコラは一体どんなことを提案してくるのか分からずその返答を待っている。
「さっき私が言唱えた風の魔法の呪文覚えていますか?」
「さっきの呪文?シーカさんの?んーいや覚えてないな…」
「ラ・ヴァン、です。風魔法の一番基礎となる呪文です」
「ラ・ヴァンね、分かったよ。でもそれが何なのさ?」
ニコラは急にシーカの使う魔法の呪文のことを言われ、何を考えているのか分からなかった。
シーカさんのことだからちゃんと意味はあるのだろう。しかし理解したい気持ちはあるのだがシーカさんの意図がさっぱり分からない。
「あのー、シーカさんの魔法の呪文が一体何なんでしょうか…」
今もなお真剣な表情で何か考えているシーカに向けて思考の妨げになりそうで申しわけないが、恐る恐る尋ねてみた。
「エレンさんも私と同じことを考えているようです」
シーカが口を開けたと思ったら、エレンの方を見ながらそんなことを言ってきた。
「えっと…、だから何をでしょうか…」
シーカが考えていることと同じことをエレンも考えていると言われ自分もそろそろその答えを知りたいと思い、エレンの方をちらっと見ながらシーカに聞こうとした。
しかしそんなこと聞いている場合ではないとすぐに思った。雷の魔法を繰り出し、こちらに放ってくる気まんまんなエレンの姿がそこにはあったからだ。
エレンさんがシーカさんと同じこと考えているって言ってたけど、あの人やってることずっと同じなんですけどー。ただひたすら雷を僕に向けて打ってくるだけなんですけどー。
そんなことを考えていると、エレンがまた矢の形をしたか雷をニコラに向けて放ってきた。
本当に容赦ないなあの人は。
「またきた!」
すぐさまかわすためにこの場から離れようとするがシーカに制止させられた。
「ニコラさん!今です!ラ・ヴァンと唱えてください!」
「え、でもそれはシーカさんの魔法じゃ…」
「いいから早く!死にたいんですか?」
「ラ・ヴァン!!」
死にたくないです!
ニコラはシーカに言われるまま風の魔法の呪文を勢いよく唱えた。
シーカの勢いに流され、唱えたというよりただ大きな声で叫んだ。
するとニコラの右手の水色の光が強くなった。そして目の前に勢いよく風が吹き荒れて、エレンの放った雷を迎え撃つように風が吹き、向かっていった。
その風は力強く、エレンの雷の矢に触れると一瞬にして雷をかき消し、その勢いのままエレンの方へと向かっていった
エレンは少し笑みを浮かべた気がした。何が何だか分からないニコラであったがエレンのその表情の変化には気づいた。
あの人も笑うんだ…。人間なんだから笑って当然なのだが、このエレンという人があまりにもずっと無表情のままであったため笑うようなイメージがなく、笑った表情を見れたことにニコラは少しうれしい気がした。
そんなことを考えていると、ニコラが生み出したであろう風は勢いを殺すことなくエレンへと向かい続け、エレンとの距離がわずかとなっていた。
「エレンさんっ!」
エレンが心配になり咄嗟に叫んだニコラ。しかし次の瞬間エレンの姿はニコラの視界から消えた。
勢いよく吹いていた風が止み、気が付くと右手の光は消えていた。
エレンの姿はどこだ、と辺りを見渡していると後ろからふと声が聞こえてきた。
「ふ、新人なんかに私が心配されるとはな」
すぐさまニコラは後ろを振り向いた。
そこには、エレンがまた無表情のまま片手を腰に当て堂々と立っている姿があった。。
「貴様の魔法の力が分かったな」
「そう、ですね、これもエレンさんのおかげ、ですかね?」
どこか納得したようなエレンと、少し苦笑いをしているシーカが二人並んで立っている。
「僕の魔法の力が分かった?いったい何ですか?」
さっきはシーカに言われるまま勢いに乗せて呪文を叫んだだけで、自分が何をしたのかいまだよくわかっていないニコラ。さっきのあれで二人には何か分かったらしい。
見当も全くつかない。考えても時間の無駄だと思いすぐに聞いてみた。
そうするとエレンがニコラの質問に端的に答えた。
「他者の魔法の模倣。コピーだな」