魔法色適性検査
2020年3月15日、ニコラはこの日を楽しみにしていた。来年18歳になるニコラにとって、今日という日は大事な日であった。
今日は来年から魔道学園に通えることのできる子供を対象にした、魔法色適性検査が行われる日である。
この検査を受けることで自分が何色の魔法の適性を持っているか分かるのである。
色は全部で7色に分けられており、赤色、緑色、水色、黄色、青色、白色、黒色がある。
赤色は火を、緑色は木を、水色は風を、黄色は雷を、青色は水を、白色は光を、黒色は闇をそれぞれ扱う。
赤、緑、水、黄、青の5色にはそれぞれお互いに対し優越があり、基本の魔法色とされている。
赤は緑に強く、青に弱い。緑は水に強く、赤に弱い。
このように、赤、緑、水、黄、青の順番で隣同士に有利不利が存在する。
残る白色と黒色はというと、この2色はとても特殊である。
まず黒色は赤、緑、水、黄、青の5色全てに対して有利である。
これだけを聞くと黒色が最強すぎるのではと思うかもしれないが、最後の白色があるおかげで魔法7色のバランスがとれているとされる。
なぜなら、白色は黒色にだけ有利であり、しかも先ほどの5色同士の有利不利とはけた違いの有利性を白色は黒色に対して持っているのである。
また、今回の検査で自分がどれくらいの魔法の実力・才能があるのかがある程度分かる。これも適性検査の目的の一つでもある。とても優秀であれば三大魔法学園として有名なホウレイ学園、メイリツ学園、セイオウ学園のいづれかに行けることになる。
ニコラはできれば三大魔法学園のどこかに入りたいと思っていた。もしだめでも、自分が入った学園の中で精一杯勉強を頑張ろうと決めていた。また自分の適正の色が何色かとうきうきしながら検査場へと向かう。しかしそんな意気込みで受けに行った適性検査で、ニコラにとって思わぬ事態がおこる。
「適正色なし」
「ん、え?」
「はい次の方ー」
「ちょっと待ってください!!」
全く予想していなかった言葉を何気ない感じで女性の検査官に告げられ、思わず大きな声で反応してしまった。
「適正色なしってどういうことですか?」
「そのままの意味ですよ?。あなたに魔道を極める素質がないというだけです」
ニコラの質問に少しも動じることなく、淡々とその検査官は答えた。ニコラの心が今どんだけ動揺し、困惑しているのかつゆ知らずに。
「そ、そんなことってあるんですか?人間にはみんな魔法を使うための魔力が備わっているんじゃないんですか?」
「もちろんみなさんに魔力は備わっています。しかしこの先学園に入り、魔道を極めるべく研究や勉学に励むとなると一定数の魔力というものが必要となるのです。あなたはその必要とされる最低限の魔力がないため、この装置が魔法色の反応を示さなかった、ということです」
「そんな………」
「毎年全体の数パーセントの方が適正なしと判断されておりますので、あまり気を落とさないでください。それでは気を付けてお帰りください」
検査官の人におじぎをされ、そのままニコラも流れでおじぎを返しその場を後にした。帰り道頭が 真っ白になっていた。何も考えることができない。ずっとこの日を楽しみにしていて、これから学園での魔法の勉強をする生活に憧れていたニコラにとっては仕方のないことであった。
帰り道、ニコラの頭には魔法色の判定に一喜一憂し、盛り上がっていた人たちの様子がよぎる。いづれは偉大な魔導士になると約束をした今は亡き父の顔が思い浮かび、自分の不甲斐なさやみじめさ、やるせなさで胸が締め付けられる。
ニコラの父はとても優秀な魔導士であった。学園時代、魔法学園の中で一番優秀な学園とも言われるホウレイ学園に在校しており、魔法の才能に溢れ、みんなから頼りにされていたし尊敬されていた。また自分の優秀さに溺れることなく日々魔道の研究に励んでいた姿も、みんなから評価を得ていた理由のひとつであった。
しかし10年ほど前、闇の組織が他の複数の学園に襲撃をかけにきたときに助けに行ったとき命を落としたのだ。優秀といえど、学園の人たちを守りながら闇の組織を相手するのは容易なことではなかった。結局後から助けがが来るまで耐えしのぐことしかできなかったのである。しかし父のおかげで敵からの攻撃に耐えることができ、多くの人の命を救ったとして英雄と評されている。
ちなみに、ニコラの母はというとニコラがまだ小さい頃に持病で死んでいる。ニコラの記憶にないほどニコラがまだ小さいときだったので、母の顔は写真でしか見たことがなかった。肌は白く笑顔が素敵な人だった。父から、お母さんの話はあまり聞いたことがなかった。一度どんな人だったのか父に聞いてみたことがあるが、「とても良い人だった」と、ただそれだけしか言わなかったのをよく覚えている。
魔道の方は父みたいにとても優秀というわけではなかったが、いつも側で父を支えていたらしい。献身的でとても良い人だと町の人からの評判も良かった。
そんな両親をニコラは誇りに思っていた。必ず立派な魔導士になってやると心に誓った。
このような背景での魔法色適性検査では適性なしという結果。
ニコラがどれだけ絶望しているか、他の人には分かりようがない。
そして一人さみしくニコラは誰も待っていない自宅へとゆっくりと、うつむきながら帰って行った。
これから、またもや思いもよらないことが起きるとは微塵も思わずに。