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七色のドラゴン  作者: 雲の糸
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魔道試練(1)

 真っ暗闇の中に僕は飛び込んだ。エレンさんを追いかけるようにして走りながら。

 扉が開いた時、外から見ているだけでは中の様子は真っ暗で何も見えなかったが、扉を抜けた瞬間そこには明るい景色が広がっていた。



 明るいというよりまぶしい、一面真っ白だ。

 壁、天井、床、目の前にあるものすべてが純白そのものである。

 さっきまで真っ暗に見えていたのが嘘みたいだ。

 

 

 「どうやら迷路になっているようだな」



 エレンさんが僕に背を向けたままそう言った。

 僕たちは今、何もないただの四角の空間の中にいる。

 それぞれの面に通路が別れていて、計3つの通路がある。

 後ろを振り向くと僕たちが入って来たはず扉が消えておりそこにはただの壁があった。3つの通路のどれかに進むしかなくなってしまっている。いったいどんな仕組みなのだろうか、今の僕には考えるだけ無駄なことだな。


 エレンさんが空間の真ん中の方へ歩いて行きしゃがみ込んだ。どうしたのか不思議に思って後ろから近づいてみると、エレンさんが視線を落とした床に一つの宝箱が置いてある。



 「あ、それですね。今回の試練に必要な玉が入っているという宝箱は」


 僕がそう話しかけてみるが返事がない。しゃがみながら何か深く考えているようだ。宝箱を色々と触ったりしてなにやら分析をしているようだ。

 エレンさんの真剣な顔をしている横顔を見ると、黙っていれば本当に美人な人だなと思わせられる。

 黙っていれば美人なエレンさんの顔を見ていたら急にエレンさんがスッと立ち上がった。


 「なにか分かったんですか?」



 「………動かない」



 「え?何がです?」



 「この箱がだ。開けようとしたり持ち上げようとしたがびくともしない。何か仕掛けがあるようだ」


 

 「やっぱりただ宝箱を見つけて中の玉を集めるだけじゃないんですね。魔法を使ってどうにかするんでしょうね」



 「そうなると私にできることはない。この試練では私は魔法を使うことは禁止されているからな。お前が一人でなんとかしろ」



 「急に突っ離された!まあ確かに本当は上級生のエレンさんがこの試練に参加していること自体が問題なんですよね」



 うーんどうしたものかな。僕の魔法って言っても右手が白く光るだけなんだよな…。

 でもそれ以外で今の僕にできることはないからとりあえずやってみよう。

 目を閉じ、息を整える。右手が光る様子を思い浮かべ集中する。


 「ラ・光の魔法(リュミエール)


 自分にだけ聞こえるくらいの声の大きさでニコラは詠唱を唱えた。そして目を開け右手が光りだしたことを確認する。すると今までと同じ、ニコラの右手が白く光りだしたのだが周りが一面真っ白なため、その光の強さがあまり分からなくなっている。まあ辺りを照らすために使う魔法ではないからそれほど気にすることではないのだが。



 無事に魔法が発動して安堵した二コラはそのまま光っている右手で宝箱に触れてみた。

 その瞬間宝箱がパカっと開き、中にはきれいな青色を放っている手の平サイスの玉が一つ入っていた。



 「エレンさん開きましたよ!きれいな青色の玉が入っていました」



 エレンさんに報告をしてニコラは腰に取り付けてあるポーチの中にその玉を入れた。

 実はこのポーチは学園から支給されたもので、一人につき一つ配られている。これはいわゆる魔法グッズのようで、中に入れると物が小さくなり中から取り出すと元の大きさに戻るという便利なものである。これのおかげで今回の試練中にたくさん玉を集めても持ち運びに困るということにはならない。


 試練が終わったら、中のものを全部出して得点を計算することになるのだろう。万一でも転んだりして無くさないよう気を付けなければと思った。僕のポーチに白色の玉を、エレンさんのポーチに黄色の玉を一個ずつ入れることができればとりあえず今回の試練はクリアとなる。それ以外の玉はあくまで加点ということになるのだからまずは試練クリアに必要な白色と黄色の玉を集めることが先決だ。



 「おい、もうそれには用はないだろう。先を急ぐぞ」



 「だから待ってくださいよ」


 

 気づくとエレンさんがもうここの部屋から出ようと歩き出している。この部屋からは三つの通路に分かれているのだが全く迷ったりせず、最初に僕たちが出てきた壁側を背にして正面にある通路の方へと向かっている。



 エレンさんのことだから、特に理由もなく進んでいるんだろうなと思いながらニコラはその後についていく。



 さっき手に入れた玉をいれたポーチに目をやり、まずは順調に玉を手に入れられてよかったなと思う。目標とする色ではなかったが僕一人だけの力で玉を手に入れられたことで、自分がちゃんと魔道試練に参加できていると感じられどこかうれしさを感じていることに僕は気づいた。

 


 先ほどいた部屋をでて一本道の通路を二人で歩くがすぐにまた違う部屋へと出てきた。さっきと同じくらいの広さの部屋だ。周りがすべて白いのは変わらないがいくつかさっきの部屋の異なることがある。



 まずこの部屋は行き止まりであること。ほかの部屋へと通ずる道は今歩いてきた通路しかない。

それともう一つ、部屋の中央に宝箱が二個置いてある。近くに看板のような物まである。



 近づいてみるとそこに何か書いてあった。



 【一つには玉が、一つには道が】



 「この玉は分かるとして、道っていったい何なんでしょうか?」


 宝箱の側にある看板に書かれてある文章を読んでエレンさんの意見を聞こうと尋ねてみる。ここでいう玉は間違いなく僕たちが集めている玉であるとして、”道”ってなんだろうか。全く見当がつかない。

 


 「そうだな」


 エレンさんがそう一言だけ呟くと、二つの宝箱の前に近づいて片方の宝箱を開けようと試みた。

 さっきと同じで全く動かず魔法を使わないと開かないのだろうとニコラは思い、僕がやりますよとエレンさんに声をかけようとしたとき、スッと宝箱が簡単に開いた。



 「ちょちょっと、エレンさん!道がなんのことか分からないのにいきなり開けないでくださいよ!」



 頭の中で道が何の意味なのか考えてたことに加え、宝箱はエレンさんには開けられないと思っていただけに予想していなかったことでひどく驚いてしまった。中を見ると何も入っていない。玉の方ではなかったようだ。ということは…



 僕はすぐに辺りを見回し何か変化は起きていないか確認した。

 特に変わったことはない…と思ったら、あれ、僕たちあっちから来たっけ?

 見ると今いる部屋から他へと通ずる道が一つしかないことには変わりないのだが、方向が違う。僕たちがこの部屋に入ってくると、宝箱がこちらに正面を向いていたが、今は宝箱を正面にして右側の方に通じる一つの通路がある。


 僕たちが通ってきた通路が消え、新たな通路、つまり道ができたということか。

 看板に書かれていることの意味が分かり納得した。しかしエレンさんの予想外の行動にびっくりしてしまい、心臓に悪いことこの上ない。



 「ちょっとエレンさん、開けるなら開けると言ってくださいよ。でもまさか特に何もせずに開くとは思わなかったですけど」



 「宝箱を開ける以外に解決方法はないだろう。必要以上に考えても仕方あるまい」



 この人本当に必要な分を考えた上での行動なのだろうか。僕には考えなしでただ突っ走った感が否めないのですけど。というか絶対何も考えていないだろう。

 


 そんなことを考えている僕にはお構いなしで、続いて開けていないもう一つの方の宝箱の方に手を伸ばすエレンさん。こちらの方は開かないようで、すっと宝箱から距離をとった。エレンさんの行動から僕に開かせるということだと読み取ったので、一歩宝箱に近づき、最初に宝箱を開けたときと同じように詠唱を唱えてから宝箱に触れてみた。



 「開きませんね…」



 「使えんな」



 エレンさんがぼそっと呟いたことはスルーして、僕は開かない宝箱に色々と触ったりしてみて開かないか試してみるが全く開きそうにない。僕が悪いのか、それともどちらか一方の宝箱しか開かないようになっていたのか分からないが、僕にはどうすることもできないと判断してエレンさんにどうするか聞いてみる。



「こっちの宝箱は開きませんね…仕方ないのでこれはもう諦めて、新しい道ができたようなのでそちらの方に進みませんか?」 



 「私が魔法を使えばこのような宝箱など簡単に粉砕することができるが、仕方あるまい。貴様が魔法を使っても開けられないのであれば先に進むしかあるまい。行くぞ」



 宝箱を粉砕したら中の玉も一緒に粉砕しちゃうよな…

 今回の試練、上級生だからエレンさんは魔法の使用禁止ということになっているけど、エレンさんだからというだけで今回の試練で魔法禁止ってことの方が僕としてはしっくりくるなあ。

 などと僕に背を向けて歩き出すエレンさんの後姿を眺めながら僕は思った。


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