プロローグ
私の人生はつまらないものだった。朝起きて、学校に行き、真面目に授業をこなし、部活でキャプテンとして部員を纏めて、帰りに塾、ピアノ、歌のレッスンを終わらせるともう9時。コンビニに行き夕食を食べ、帰ってお風呂に入り宿題と予習復習をして寝る、何の変哲もない女子中学生。
両親は共働きで、しかし厳しく教育熱心。たくさんの習い事をかけ持ちして、それを終わらせ宿題をすると寝る時間……と言う生活サイクル。学校のテストでも学年1位で満点を取らなければならない。
それでも認めて貰えず、もっと頑張って学校で初めての1年生生徒会長を務めた。だが認めて貰えない。目をかけてもらえない。そんな生活に、私はもう疲れてしまった。
そんなある日。数少ない友達がゲームを進めてきた。「ファンタスティック・ストーリー」と言うゲームだ。ダサいネーミング……と思いながら休日に時間を見つけてプレイしてみた。どうせ名前の通りファンタジーだろう。
ハマった。ハマったのだ。小さな田舎村に生まれた主人公(男)は、貴族しか持たない魔法の才能があった。特別に貴族しか通えない、国立・王都魔法学園に入学が決まる。平民という事で虐められながらも、仲間と健気に生きて、他の人にも認められる……と言う逆ハーゲームだ。
そう、逆ハーゲームである。……ゲームの主人公はもちろん男。つまり、このゲームはBLゲーだ。主に腐っている俗に言う腐女子に人気だ。そして、私は強く思った。……このゲームの、悪役令息に成りたいと。
悪役令息の名前はフェリシア・フロレンティーノ。ふわふわの銀髪、サファイアの様な青い眼をした愛らしい美少年。魔法の才能があり、愛らしく、天使の様。だがそれは表向きだ。
本当のフェリシアは、好奇心旺盛で、天真爛漫、才色兼備。表向きではよく言うと可愛くて人懐っこい。悪く言えばぶりっ子であざとい。基本的に優しいが、悪人には容赦ない腹黒。
様々な研究をして周りを振り回し、しかしそれによって世界の常識が変わってしまう。親の言いなりの私とは正反対の、この自由な少年になりたいと思った。
その日、私はいつもの様に暗くなった頃コンビニで弁当を買って食べた。 その帰り、家出少女だろうか。リュックを背負った少しボロめの服を来た女の子がおにぎりを食べながら後ろから歩いてきていた。別に家出少女では無いかもしれないが……とにかく、その少女の後ろからトラックが走ってくる。いや、トラックが走っているのは問題無い。問題なのが、凄くフラフラしていて危なっかしいところだ。飲酒運転か?と思った、その時。真っ直ぐ歩道の少女の方へ突っ込んでいた。危ない。そう思うよりも早く、部活で鍛えた脚力で少女の方へダッシュして、トラックの反対へ突き飛ばしていた。
物凄いスピードでこっちに突っ込んでくる。何も考えられなくて、真っ直ぐこっちへ来るトラックを見ながら、「もう死ぬんだな」と悟った。
目の前が赤く染った。感覚も無く、遠のいて行く意識の端で、もし生まれ変わるなら……フェリシアに成りたい……と、強く願った。