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亜人世界への生  作者: F**kin“nallow”novel'Guy
7/18

夢、早朝の不運に逃るる

間が空いてごめんちょ


 寝てる間に見る夢ってのは不思議なもんでさ、全く知らない世界でも『その中に居る自分』は何故かその世界を知っているんだよな。だから『住んで、生きている様に』体を動かせ、自在に立ち回るんだ。

 尤も、その立ち回りが本当に“正しいかどうか”は、全く分からないけどな


……


 俺は『今のままの少女』

 何かから逃げていた疲れから、うたた寝でバスに乗ってて事故に遭ったのだ。その時は隣に居た母に守られて生きていたが、頭は混乱に飲み込まれて分からなかった。

 だが状況や散乱具合から、事故原因がすぐに『奴ら』だと分かってしまった俺とお母さんは痛む体に鞭打って、慌てて車外へ飛び出して近くの街へと逃げ紛れたんだ。

 人の多い街だった。子供も居れば大人も居て、警務組織が守っていて、そこがある程度の治安の良い街だというのは活性状況からも良く分かる。

 人が多い。いや多いなんてものでは無く、むしろ空と世が橙色に染まり馴染んで居る時間帯だからかとても『ごった返して居る』と言っても過言ではない程に人が沢山だった。

 しかもこの狭い商店街に、だ。

 そんな人ごみと言うに等しい中を、『ツノと獣耳のある母さん』は俺の手を引きつつ……しかも痛む体を引きずる様にしてでも早足に進んでゆく。

 “俺”は母の手を強く握り返しながらも、人混みに引っかかる体を無理くり進めようともがきながら、喉を震わせたのだ。

『ま 待ってっ! お母さん待ってっ! そんなに早く歩かれても、こんな人混みじゃあ付いて行けないってばっ! ねえってばっ!』

 喧騒は大きい訳では無い。声は出て居る筈だが、まるで聞こえていないかの様な周囲。

 けど母さんだけは振り返り、その聞こえない声で訴えてくる……『逃げるのよ』

『わかってるけど、ちょっと——あっ!』

 しまった、と思わざるを得ない。暖かく柔らかで、でもとても急ぎと焦りの滲み出ていた母の手がふっと離れて行ってしまったのだ。今まで引っ張られて貰って漸く進めていたのに、このごった返す人ごみの中を一人で掻き分けて進んで行くなどと、俺のこの非力な体ではとてもとても……出来たものではなかった。

 だから強烈な焦りが我が身を襲い包み、脳内が途端に真っ白になった様に感じた“俺”は半ばパニックに陥ってしまったのだ。

『あれ……? お母さん? どこ行ったっ……お母さんどこ行ったぁっ!? こっちか! ちょっと待っ——え、あれ……っ!』

 それでも『こなくそ』と言わんばかりに真っ直ぐ、母が進んだであろう後を追って必死の思いで掻き分け、抜け出た先は……路地裏だった。

 世が橙色に照らし出されている場所に比べて、ビルでは無いのに大きく感じる建物達が聳えて成す路地裏は、暗い影に依って酷く仄暗くて……とても不気味だ。

 暗い影に浮浪者が居ない事を祈って怯えながら進んで行くと、少し開けた場所に出ようとしていた。だからその場に差す夕陽の明るみに安心して安堵の溜息を吐いたのも束の間……開けた場所の左方に建つビルの影から出てきたらしい三体の巨影に俺は思わず……いや、むしろ必然的かつ本能で恐怖させられてしまった。

 “俺は”見た事は無いのに、“私は”知って居る……だから、恐れに(おのの)く。

『え……う、嘘だろ、何で “あいつら” が此処にっ……! やべえ、やべえよ、逃げなきゃ……! だめだ “私じゃあ” 逃げ切れる訳っ……か、かく 隠れなきゃ……!』

 巨影の正体……其れこそは“私達”の唯一の脅威である敵……『ガグズ』だった。

 そして“俺”自身が見た事が無いのに、対峙した其れ等が明確な敵意を表しながら攻撃行動の予備動作を示したのを見て大変に焦り、体を震わせながらも俺は強い危機感から傍の建物に大急ぎで逃げ込んだ。対峙する三体の“奴ら”に見られて居る事も承知の上で……。

 この路地裏の先には同種の人々が沢山居るが……“私では”どうしようも無かった。


 だが俺のヴィジョンは其処で途切れ、何故か映画の1sceneの様なカメラ視点となる。

 映すのは……三体のガグズと思しき『敵』の、横顔。 

——そうだ、この姿は“俺”の知る限りじゃまるで闘牛なんだ。非常にマッシブな体躯、鋭い瞳、そして何とも立派な角……。恐ろしいのは、先頭の特に大きな奴の角が水平な三日月状に広がっており、しかもギラリと鈍い輝きを見せて、その上で刃物の様に鋭利である事だ。刃と捉えて刃渡りを言うなれば恐らくは一尺四寸程だろう。

 形状を例えて言うなら……死神の鎌の刃、あれをもう少し頑丈そうにゴツくして角として付けてる様な感じ。尤もそれは、この『先頭の大きなガグズ』のみの様だ。

 其れと言うのも両翼に居る手下と推察できる二体はガタイも一回り小柄で、角も其処まで大きくも無いのである。

 其れでも十分な脅威では、あるだろう。

「カシラぁ、建物に逃げたガキ……なーしやす? 何ならオレァ殺して来やすが?」

 喋ったぞ、右翼のこいつ。こんな闘牛みたいな姿なのに喋って意思疎通するのか、と他人事の様に驚いたがその『ガキ』が俺自身である事を理解出来た時、少しだけ焦った。

 だが先頭の『カシラ』と呼ばれた奴はとんでもない事を言いやがった。

「いや、ほっとけ。後隊が持ってくだろ。メスのガキは母体に使えるからな」


 発言からの衝撃が“私”の脳を揺さぶり、其処で“俺”は『夢だ』と強く念じ、瞳を閉じた

 

……


 嫌な夢だった気がした。

 視界の薄暗い、見慣れない風景は“夢が覚めた夢の中”とも一瞬勘違いしそうだったが、自身の体が『此処が現実で有る』と知って認知したのならば……俺は、呟くのだ。

「……夢 か」

 つい此の間までの自分の男の声とは掛け離れた、随分と可愛らしい少女の声に強烈な違和感と瞬間的な焦りや冷や汗などに襲われたが、頭に感ずる違和感と共に……思い出す。 

 “俺は、生まれ変わって生きて居るんだ” とな。

 そう軽々しく思うが、頭で再考すれば其れが如何に……本当にどれだけ現実離れした出来事で有るかも思い知らされる。

 しかも先ほど見た夢の中の『少女の自我』が、本当は自分に眠る本来の『其れ』なのでは無いか? などとも考えさせられたら気が滅入る一方だ。なんでって? ……俺が、『此の娘』を“奪った”んじゃないかってさ……

 しかし其れらの自己嫌悪にも似た負の感情や考えをも容易く消え失せさるのが、下腹部に訪れた所謂『尿意』って奴だ。いや、こりゃ大きい方も出るな……。

 そんな訳なんで、俺は深い眠りを齎してくれた窪みのベッドから降りたって、未だスヤスヤと眠りについて居る彼……デルカさんを起こさない様に忍び足で外へと向かう。

 この隠れ家内の地面は比較的に乾燥して居る土だが、ほんの微かな湿り気は感じなくも無く何処かヒンヤリと心地良い。また小粒な石飛礫達は足の裏へとツンツンと刺激を与えてくるが、この刺激がまた僅か寝ぼけな頭にとても心地良いのである。

 そんな大地からの刺激に徐々に眠気を追い払われながら、隠れ家から外へと躍り出た俺を出迎えたのは……既に風に騒めき揺れる森の木々達と、合間を掻い潜って光柱と射す陽光の眩さだった。夜の時もそうだったが、朝は朝でとても幻想的な光景だ。

「ぅわぁ……すっげ……」

 朝、故に光は斜めに射し込んでおり、川下りの方から陽は上って居るらしいが、そんな理屈や世界云々など、今はどうでも良い。

 俺の心は驚きに空白化され、しかし直後にはどうとも喩え難い、駆け出したくなるような衝動が溢れかえったからだ。

 だから落ち着く為に一旦深呼吸すれば、これまた森の濃い緑の空気が嗅覚に清んだ爽やかさを与え、ヒンヤリともして居る為か肺に冷たくも清々しい新鮮な『気』を齎してくるのだ。

 あんまりにも気持ちが良いものだから、俺は思いっきり体を伸ばして背伸びをして、首を強めに左右へと傾げる。コキ、コキと小気味良い音と微かな響きが体へ伝われば……

「あぁ 朝だ……最高……」

 気分は大変に良く澄んだ。もうさっきの夢なぞどうでも良くなった。なんせ所詮は夢なんだから、深く考える必要は『無い』だろう。

 気分が入れ替わったので、俺は手頃な茂みへと赴いて手早く木の枝か何かで少し掘り下げてから用を済ませ、立つ鳥跡を濁さず——犬か猫のように、大地へと埋め立てた。

 お腹がすっきりしたので今度は川へと赴いて、きちんと手を洗う。なんとも透明に綺麗な川で、遠慮なく手を洗おうとした時……何か、音がするのに気が付いた。

 ポットからお湯を注ぐ時のような、いやもう少しそれを派手にしたような……

 鋭い聴覚を持つ耳の左側が更に音を大きく捉えたので、俺もそちらを向くと……ほんの数メートルほど離れた所の上流で、何時の間にか起きて居たデルカさんが呑気な欠伸をしながら、気持ち良さそうに川へと小便をして居た。

「うぅおぁ、あぶねぇ……マジあぶねぇ……」

 俺は早朝から運良く、小さな不運から逃れる事が出来たのだった。

 勘弁してよ、デルカさん……

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