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亜人世界への生  作者: F**kin“nallow”novel'Guy
18/18

生こう


 朝を迎える頃になってから訪れ始めた睡魔は憎い事この上ない。

 

 結局 俺は一睡すら出来なかった。

 ウトウトし始めたのも外の明るみがペラい遮光幕をやんわり抜いて漏れ出て来てからであって、街に出向かう当日が訪れたと頭が理解してからは もはや眠る事など出来まい。


 なので俺はいっそ訪れた睡魔を無理矢理に吹っ飛ばしてベッドから降り立つと、背伸びと欠伸を盛大に行い、それから両の頬をペチペチと挟み叩き、「ふん、ふん!」と元気に屈伸。

 いやあ、一睡出来ずとも何の重みも痛みもなく溌剌とした動きをしてくれる若い体は本当に素晴らしい。

「っしゃおらぁ! 今日もいちンチ元気で行こう! ヨシ!」

「ぉふぁぁ……んぐぅ、朝から元気だねぁ ノクァ……」

 同室で畳一枚と半分くらい離れたところのベッドで眠って居たデルカさんが目を覚ましてしまったようだ。声が大きすぎた様だ、失念。

「あ…… デルカさんすんません、うるさくしてしてしまって……」

「ぁへへー いいよいいよー どのみち起きなきゃいけないからね、今日は。という訳でぇ、おはよう、ノクァ」

「はい、おはようございます、デルカさん。今日はどうぞよろしくお願いします!」

「はははっ うん、こちらこそ、よろしくねー」


 で、だ。

 実はそうとは言えどやることは基本的に大して変わらないんだな、これが。

 俺は朝飯を作って、お片付けをして、洗濯をして、家の掃除をして……。デルカさんはデルカさんで仕事をしなきゃならないので、朝ご飯を食べると、いつもより少しだけ歩調を軽く家を出た。


 どうやって行くのか? 実は俺、それについて何も知らされて居ない。ただ「適当に身軽な準備だけしておいてくれてれば問題ないから!」 としか。


 俺も心躍るままにテキパキと家仕事を終わらせると、彼が帰ってくるまでの間に、身繕いやら荷造りやら何やらを悩みつつ、終わらせる。

 貰い受けた小柄な肩掛けバッグにこの四ヶ月とちょっとの間に得た個人的な貴重品の類を突っ込む。……貴重品、と言っても街に行くのには財布程度しか無いんだけどさ。


……


「ただいまーっ!」 張り上げられに爽風な声が新鮮な風と共に家に流れ入る。浮ついた、楽しげな声だ。 

「お疲れ様っすーっ! 俺 準備出来てます!」 それを俺は明るく 笑顔と共に迎えて、同時に準備は出来て居ると伝えた。

 するとすぐに準備するからちょっと待ってて と言われたので、最終的な家の確認をする。大事なのは、窓や裏口の鍵閉め、火の元の確認、灯火類。

 各部を指差呼称と一緒に触って確認して行くのだ。

「窓 良し」 「裏口 良し」 「灯り類 良し」 「火ぃ 良し」

 家を巡る様に回って確認の後に居間へ戻ってくれば、最後には「…… ヨシ!」の一言で締める。 この指差し確認は実際、有効だ。

 

「おまたせ〜 ごめんね待たせちゃって〜」

 そう呑気そうな声色で謝る彼の服装は、いつか見た森で出会った時とは違うが、それでもかなりシックな雰囲気が漂って居る。

 髪の色と服の色の差もそれほど違くはなく、纏まってる感があって非常に良い。正直ぶっちゃけると……割とイケメンじゃね?

「ほぁー デルカさん、イケてますねぇ! え、いや、マジで良いっすよ!」

「へへへ、よせやい照れるだろ〜? と言うか、ノクァも良いじゃないか 良く似合ってるよ、それ!」

 俺が来て居るのは、実は少年用で有る。俺には女の子の着こなしなんぞ分からん。がこの四ヶ月でそれなりに、同じくらいの女の子で有るベーレジェともそう言った服の話は幾度として来た     付き合わされた が正しいが、子供相手にそう言える筈が無く、俺自身もこの体への適応という意味合いも兼ねて有る程度の研究はして来たつもりだ。


 しかし俺は初めて街に行く。つまりそれは 程度は知らぬが多くの人目に晒される訳であり、俺自身、正直この体での着こなしには自信が無いし、慣れて居ない。

 然らば、女性的特徴が然して発現して居ない年齢層だからこそ出来る男の子の様な格好でも別に良い訳だ。その方が個人的には落ち着くしなっ!


「んじゃ行こうかー」

「うっす! ……てか、街までってどうやって行くんです?」

 俺は何一つとして聞かされて居ない其れについて、ようやく自然と口に出して問うた。

「ふふふー それはねぇ……」


……


「どぅっへぇぇー すっげ、これ……はぁあぁぁぁぁ」

 三輪バイクだ。それも相当古いぞ、これ。

 たとえるなら、こう、アニメ映画を作る某お髭監督が好きそうな、クラシックな感じの、でもそれよりもっと古い、そんな感じの! そんな感じの!

 だからこそ、俺は思わず感嘆の溜息を長く吐いて出したって訳だ。

「これはね、ジジ家……つまり俺の一族の大事な家宝だよ」

「お宝でしょうねぇ、何年式なんです? これぇ」

「えっ? あ、えーと今が “八八神転九七六一年” だからー……えーと “九六九〇”年式! つまり七十一年前のものだよ!」

「ぐえーーっ! 七十一年っ?! 骨董品どころか博物館ものレベルじゃ無いですカァッ! 動くんですか? これ……」

「もちろん! 最近ちょっと乗ってなかったけど!」

 俺は正直に驚いた。

 いや驚くだろ普通! 七十一年も前の三輪バイクだぜっ?! 俺の居た世界ならとっくに博物館行きか個人所有なら本当にめっちゃ珍しいってレベルじゃねーぞなレベルだぞおおいっ!

 俺は其の三輪バイクを非常に珍しく思いながらじっくり隅々まで眺める。流石にくたびれてる感は出ているし、所々に錆こそ見られる。

 面白いのは、原動機と駆動装置が後方に纏められている方式だ。キャビン部分(と前輪、ハンドル等)と動力部分(原動機、駆動装置、後輪等)がハッキリと前後に分かれている式は、俺自身の知識でも心当たりはある。

 これによって運転者のキャビン部分はある程度、旋回時に左右に傾けることが可能なので云々……まぁ要は、日本の某H社の『ジャ○ロ』ですよ。

 これはそれをもっとでかく、長くした様な感じだ。以上っ!

 俺でも分かるのは、右足ブレーキ、左足変速、ハンドル左手でクラッチ、右手でフロントブレーキとアクセル、だ。ぶっちゃけこの辺が変わる事ってあんまり無いと思うね。


 構造機構云々は置いておくとして、俺は早くエンジン音を聞きたかったので彼へエンジンをかける様に促した。

「デルカさんデルカさんっ 早く早くっ! エンジンかけてみてくださいっ!」

「はいヨ〜。古いからねぇ、ちょっと一手間なんだヨォ」

 デルカさんは車体右後方……エンジン付近へ立つと何やらノブを引き、それから格納式のハンドルを展開してグルグルと回し始めた。

 勢い良く回して五から六回ぐらい回したら引っ張って居たノブをパッと離す。すると

 

 ドドッ ドドッ ドドッ ドドッ ドドッ ドドッ ドドッ


 心地よい低い鼓動音が連続して定間隔で響き、振動っで車体を微かに振るわせる。

「あぁ〜〜〜  いいっすねぇ〜」

 そこまで煩くは無い、低い 鼓動音。

 前にも言ったが、俺は元バイク乗りだ。だからこんな世界でも機構はどうあれ似た様なサウンドを耳に入れることが出来ると言うのはなんとも嬉しいのだ。

 だから、俺は暫くデルカさんの家宝たる三輪バイクの姿と、それが響かせる低く大きな鼓動音をそれぞれ堪能しながら、何となく感傷に浸ってしまった。


……


「そんじゃちょっくら行って来まーす!」

「デールっ! 気を付けていってらっしゃいっ!」

「分かってるって、大丈夫だよ!」

「俺も行きたーいっ!」「ノクァちゃーんっ! いってらっしゃーーいっ!」

「おーうっ! みやげ買ってくるからなぁーっ!」


 あの後 ちょっとした準備を済ましたデルカさんと俺は、三輪バイクに乗って遊びにでも出掛ける様な感じで出発した。

 当然村の皆は良い機会と見て、其々が其々の、町しか無い物を買ってくる様に依頼した。負担にはならない程度 の。

 対して子供のガゥルとベーレジェの二人、特にベーレジェは明るい笑顔で送り出してくれているが、ガゥルは面白くなさそうにぼやいて居た。 少年、いずれ自分の世界を自分の足で広げられる時が来る。今は辛抱だよ。


 三輪バイクが走り出してからは、村が見えなくなるのはあっという間だったが、そりゃまぁ、そうだろう。でも、今回の街への旅は、ただの買い出しの様な目的の旅であり、村にはまた戻ってくるのだ。特に心には大きな不安は 当然 ない。

 けれども それを二ヶ月後の “その時” が来て同じ事が言えるかと思うなら、俺自身では それは確実にNOと言える。

 なぜならば、本当の旅は、二度と村へ戻らない覚悟を持つ必要があるからだ。

 なぜならば、もしかしたら旅の最中で……

「……いや、そりゃない、よな」

 デルカさんのすぐ後ろのシートに俺が座ってる訳だが、呟きがぼんやりと届いたからか彼はどうかしたかと聞いて来た。だから答える。「何でもないっすよーっ!」 と。

 嫌な想像がふと頭の片隅を過ったのだが、恐らく “無い” として、そう言っただけだ。

 その応えに彼は非常に楽しげな様子で言う。

「あははっ! 無いなら良いやっ! 忘れ物でもしたかと思ったっ!」

「それにしてもやっぱ速えっすねーっ!」

「でしょーっ! 何も無けりゃ街まで『半と二十の過刻』で着くよーっ!」


 風切り音、ロードノイズ、エキゾーストノート、メカノイズ……バイクの醍醐味は、自然を感じながら、溶け込んで走る事、そして身体を使って人馬一体となって操り走る事。

 これに尽きるだろう。

 生憎、今の俺のこの少女の体で乗れる車両は無いだろうが……脚は、有るのだ。いつかは、またいつかの様に、バイクに乗って走り回りたいと思っている。

「いつかは、絶対……!」

 俺の命の旅は、まだ始まったばかりだ。

 生こう この世界に。 今の “俺の身体” で。 新しい、命の道を 行こう。

既視感ある終わりかた

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