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亜人世界への生  作者: F**kin“nallow”novel'Guy
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選ばざるを得ない道


 「一人になる時間が欲しい」 そう 頼んだ。

 そうして教えてもらったのが、村からはさほど離れてはいない場所にある、丘だ。其処まで行くのに、あの温泉の沸いて居た大川を渡るんだけど、そこに掛かってるアーチ橋がまた総石造りで、歴史を感じる古い橋だったのよ。

「この橋はね、旧国道時代の名残。ちょっと前まではこっちが主道だったんだけど、国軍の人たちが新しく道作ってそっちが新道になったもんで。たまに……そうだ、もう極稀にしか人は通らないし、通るって言ったらもっぱら村の皆だけかも!」

 との事だそうで。

 んで、だ。旧道も、これまたなんというか、まばらに石を敷き通して居るだけってなぁ、嘗て生きて居た世界のインフラと比べたら太古の時代とも言えそうなほどの粗末な道であった。だが、よくよく考えてみればその石の一つ一つもまた、この世界でも大昔に人々が一生懸命に頑張って敷いて作り上げていったんだ とも考えれば、粗末の一言で済ませてはいけないし、貶めてはいけないとも思う。

 先人は偉大なのだ。

 

 ほいで、その橋を渡り、ちょっとぐねった坂道を登るのだが……いや、子供の体ってすごいわ。疲れない。んで軽い。しかも動けば動くほど体の奥底から活力が湧き上がる。

 いやはや、元の俺なら絶対にこの程度の坂道で息荒げてたわ……少しだけ、多分。


 そうそう、服なんだけど、少年物のお下がり貰った……とぉ、言いたい所なんだけどぉ! はぁ……定めか、女児服を充てがわれてしまった。

 肌着はまあ 普通。 で、基本で ノースリーブのワンピース。薄い青色が中々どうして 綺麗だ。

 それだけじゃ寒いんでその上に、あの森で拾った布と同じ、フェルトのような生地の なんかこう、ちょっとだぼっとした感じのオーバージャケット? っていうの? を着て居る。柄も色もシンプルで落ち着いて居るから派手では無いのは確か。

 これは  良い。暖かいぞ!

 靴下、其れと 靴。ごく普通の靴下と、キャンバス生地の普通のシューズ。造りはシンプル以上にシンプルで、手作りのようだ。

 え? パンツ? ……うん、まあ ね。ちょっと、履き慣れないな……。こう、キュッとしてて、締まる感じと、なんとない頼りなさが……ねぇ。


 でも考えようによっては、こういう服もまた『よし』である。今の身体は十つくらいの女の子なんだから、其れに合わせた服を着るのが定石であろう。


 服云々は斯様にこさえて貰ったのを着て居て、それで そう、丘。 気付いたら丘の頂に 着いた。着きましたさ、到着。疲れない身体は若く素晴らしいね!

 

「名前なんて無い、でも俺らの大事な場所なんだ、この丘は」

 僅かしんみりとした感じで述べたデルカさんの顔を見上げれば、その表情は懐郷に巡らす遠い瞳に、穏やかな微笑みであった。


 この丘の頂には、村からも見えたが立派に太く永生きな広葉樹が、一本。森の木々とは違った、暗褐色の硬い幹はぐねりと趣ある曲がりをして居るが太く、俺が両手を広げて抱きついても全く足りないほど。老いた人の肌のような木の皮肌は撫でても頬を当てても心地良い触りだ。ずっと触れていればやがて暖かく感じる。

「すげぇ……とても立派な木ですね……すごい……」

 俺は無意識に側頭部を幹に当てようとして、直ぐに『ゴツっ』という硬い接触感に我に帰っては、頭頂の獣耳の両方を正面に向けて、額を当てるように 幹に触れさせた。

 毛がふわりと触れると耳の根元にサワ付いた感を覚えたが、不思議とくすぐったさも何も感じない。


 音に意識を傾け、目を閉じる。すると『こぽっ』と、なにか液体の中の気泡が湧き上るような音を捉えた “気がした” 。

「えっ」 パチリと瞼は開かれ、少女の驚きの声が喉から漏れる。 「ん? どうしたの?」 デルカさんは慈しみある声色でそう問いかけてきたので、偽らず答える 「気泡の音が聞こえました……気のせいかもだけど」と、正直に。

「あははっ! すごい! 俺も聴こえるかなっ?」

 すごく楽しそうな、少年の好奇心に満ち溢れたような声だったので思わず俺も笑顔になって、もう一度……幹に獣耳を当てて、目を閉じ聴覚に集中する。


 ははは 残念ながら、やはり気のせいだったようだ。まあ だから『気がした』って言ったんだがね。


「でもね、この木、俺が子供の頃からずっとある木なんだよ。其れどころか、もっと昔からあったのかも。宿のキィミおばさんや、彼女の幼馴染のビーリャおじさん……あー、あの、ビツゥ〆てた人ね……とか! も、同じこと言ってた   のを、思い出した!」


 デルカさんの言葉に俺は感嘆の吐息を吐かされ、また『はぇ そんなに昔からあるんならもう村のシンボルのようなモンだな』とも俺は思った。

「じゃあもうあれですね、この丘とこの大樹は、ンビクゥヌ村にとっての御神木ですね! やっぱすげえなぁこの木……」

 

……


「んじゃ、俺は村に戻るから、早めに戻ってねー! 遠くには行かないでね! 危険を感じたらその笛を思いっきり吹いて逃げるんだよ! 怪我しないでね! 気をつけてね! 絶対戻ってね!」

「わ わ 分かりましたっ 分かりましたからっ! ははっ 心配症だなぁ……」


 デルカさんと別れた後、シンボルたる御立派大層で神聖な大樹の下に座り込んで、しばし景色を眺めた。

 小高い丘の上であるが故に、其処からの眺めは、だが其れなりでしかない。

 台地の崖っぷちで見た時もそうだが点々と存在する林や森、この村にも寄り添い流る大きな川はくねりくねってどこまで続いて居るのかは分からないがとにかく長く、陸は地平線を描くまでに続いて居る。イコールこの場所が随分と内陸であることを示して居る訳だから、旅は長くなると推測できる。


 そして、彼が言って居た『弟の住んでいる街』なんだが、其れらしい所は見つけた。この場所からだと大凡人差し指で摘める程度の大きさにしか見えない。遠いのだろう……いや遠いわっ! 街までは、淡褐色の 道と思しき線が川と同様にくねって大地に描かれており、これまた本当に  遠そうだ。


「旅 かぁ……」


 景色を眺めつつ、微かに涼しい微風に撫で触られたり、絶えない川のひそひそ話や色々な鳥達の燥ぎ声、頭上の木の葉と微風が交わす囁やかな会話などを耳にしながら、俺は悶々と、考え巡らせ、何人かの自分とも話し合い、振り返りに思い返し、悩み、時に感情を憂鬱な気分に陥れさせられながらも……静かな、一人の時間を過ごした。


 そうして居たら座って居るのもしんどくなり、晴れも相俟って気持ち良くて、思わず仰向けになって空を眺める。

 一本の大樹が茂らせる鮮緑の葉っぱ達は遠く無限とも広がる淡い大青空をちょっとだけ隠し、双子の陽光星が齎す眩く心地良い光を受け、また隠しに風受けに煌めく。

 

 気持ちいい

 

 ずっと  こうして居たい


 何もかも、考えるのも放り投げて、只管にぼけっと空を眺めて居たい


 体に感じる、大地を埋め尽くすほどに茂って居る淡緑草の柔らかくも硬いくすぐりは何だか暖かくて、でも、どこか冷たくて……


 気持ちいい


 眠気も     なんだか      今を “夢” のよう とも   感じさせ……


……


「……ぐっぅ……、(舌打ち)……、んんだよぉ」


 何か、小突くような感覚が頭を何度と襲ってきて居たからか、俺は 目を覚ました。

 深い夢の中で、誰かが無心に『俺を』殴る感覚、感情、恐怖、抵抗、怒り憎しみ。

 浅い眠りに消ゆく夢、鈍い身体と頭に響く鈍な感。

 寝起きに重く、無感の様に鈍く、眩さと瞼裏の影に。


「おーい、起きてよノクァーちゃーん」 「おいノクー、起きろよおいぃー」コンコン 「ねぇガゥル やめなよツノこんこんするのー」 「んじゃ ベージェが起こせよ!」 「だって起きないんだもん」 「だから俺が小突いてんじゃんかよ……」


「……ふっ ふふふっ っはぁ……よっ。 あー ガゥル に ベーレジェ 」

「おっ 起きた」 「あっ ノクァーちゃんおはよう!」


 少年と少女のそれぞれの無邪気な感情が、俺を現実に引き戻す。

 寝起きに気怠く重い体を動かさずに、俺は 少しだけ眩しい逆光の中で笑顔を浮かべて居る二人へと「おはよう」 と告げた。

 すると二人はキョトンとしてから直ぐに満面の笑みを浮かべて、返してくれる 「おはようっ!」 無垢な、無邪気な、心底正直な、眩い子供達の 笑顔。 微笑ましい。

 

「っくぅーーーーっ! ……っはぁ〜〜〜〜〜ぁ  今何時ぃ?」

「お昼だよ!」

 寝転んだままに思いっきり背伸びをして脱力し、深く息をついてそう聞いたらお昼だと言われた。もうそんな時間かぁ。てかいつの間にか眠りこけてしまったのは、不覚。余りにも気温も風も音も何もかもが心地良くて、しかも徹夜してしまったので相俟って寝てしまった。やー、よく寝た。


 俺は起きあがろうと足を垂直に立て、それを振る勢いで上体を起こした。

「だっ! おんまえ何やってんだよバーカっ! 」

「あ゛ぁ? あぁ……んだよパンツ見えた程度で喚くなや……っせーな」 

 俺のパンツを見たらしい少年ガゥルは顔を真っ赤にしてそっぽを向いたのだが、その様は純真で 面白い。揶揄いたくなる。


「あ、の、ノクァーちゃん……少しは気をつけてね……?」

「おっ、そうだな。でもごめんなぁ お兄さん、女の子になってからまだ日が浅くてなぁ。振る舞いが良く分からんのだよなぁ」

 対して少女ベーレジェの反応は、やはり女の子としての矜持からか俺の行動をやんわりと注意。してくれるのは有難いし勉強にはなるが、如何せん中身は二十六年を男として生きた人間なもんだから、其処んところは良く分からんのである。

 まあ後々身に付いて行くだろう、恐らくは。笑えない話だが。


 そんな子供特有の青臭い一幕もあったが、俺たち三人はなんやかんやと仲良く村へと戻り、各々の家へと向かうのであった。昼時の村の中は各家庭から、空腹の虫を鳴かせんと良い香りが溢れ漂っている。


 「んじゃなぁ!」「ばいばーい!」 本当に明るく無垢な笑顔で別れる姿はなんとも、本当に、微笑ましい。だから俺は思わず心をほっこりとさせられて「お前たぁ、しっかり食えよー」 と言ってしまった。

 当然、返ってくるのは小さな笑いと少年少女なりの、俺への同じ意味の促しである。

「はははっ そりゃおまえもだろー!」 「ふふっ ノクァーちゃんもねー!」


 子供に気を遣われるとはな。まぁ、しっかり食って、またしっかり考えんとなぁ。


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