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亜人世界への生  作者: F**kin“nallow”novel'Guy
12/18

知るに知る世と己


「え、と……つまり 俺たちについて知りたい、と?」


……


 何とも言い難い気分での夕食を終え、コーヒーの様でいながら味は生姜系の、黒い飲み物をちびちびと飲んでひと休憩した、暫くの後。

 俺はデルカさんに問うた。

「デルカさん、突然で申し訳ないんですが……俺がなったこの身体。俺は自分がなったこの身体について全く知識が無いですので、詳しく “ご教授” してくださいませんか?」


 デルカさんには、俺自身の過去は話してある。

 この星の『ビツゥ = 人間』で あるならば、それ以上に言う事は出来ない。

 でも、俺はこの……『側頭部からは一対のツノが生え、頭頂には一対のケモミミが生え、瞳の黒目は猫の様に縦長で、歯も鮫ほどでは無いが其れなりに鋭い』……こんな特殊な人種のことは 何一つ 知らないのだ。

「俺が元人間だったってのは、以前話しました……話しましたよね? 俺……」

「え、あぁ、うん、聞いたよ、確かに」

「ですよね……。で 、ですね。俺は自身のこの身体や、デルカさんや村の皆様、若しくはこの世界に於いて生きている全ての! 全ての人達の “人種” について、先も述べた通りに全く! 知りません。ツノや耳がどうなっているのかなどの身体的特徴は疎か、世界的な人口、文化、文明、歴史、種族内で更に派生した人種等、俺はほんっっっっっっとうにっ! 全然! 知らないんです! だから、教えてください! お願いします!」


 勢い任せに頼み込んで、俺は机に頭をぶつけるくらいに勢いよく頭を下げた。

 ゴンっ という音に、其の振動で食器達が驚きに微か身を飛び跳ねさせた音が、静寂の中に響いた気がした。

 

「え、別に全く構わないけど……。うーーん と……」

 

 デルカさんは戸惑いを滲ませながら了承してくれて、然し直ぐに小さく唸りながら席を立ち、本棚の方へと歩む。

 彼の身長と同じくらい高い、全木製の本棚は結構な蔵書と化している。其の中からデルカさんは、数冊の分厚い本を持ち出して来て、机へと置いた。

「ちょっと隣 座るね」

 そう言ってこれまで座っていた椅子を俺の席の直ぐ隣に持って来て腰掛け、一冊の本を手に取り、俺に見せてくれた。

「この本は 高等教育院の、生物学教書。早速だけど……っと、このページから、俺たち『ゥペルヂェグナー』の項目だよ。えーとね……」



……


 デルカさんは知る限りに、詳しく、教書を使って教えてくれた。

 って言うか字ぃ読めるのすげえな俺。


 『今の俺』を含め、デルカさん達の種族……外見的に大きな特徴であるご立派なツノと、フサっとした獣耳 云々を持つ種族の正式名称は『ゥペルヂェグナー』と言うそうだ。一般的な呼び名は安易だが『ペルヂェグ』と言う様で、当種族の “人口” は全世界に約五四億人程度らしい。俺が言い換えるならば正にこの世界での『地球における人類種』と言っても間違いはないだろう。

 まあ『それがどうした?』と言われればそれはそれで、それまでだろうが。


 ともかく、この教書は非常に興味深く、俺は夢中になって彼の話を聞き、分からない所は質問し、そして読んだ。

 まず ツノや耳 歯などの身体特徴に始まり、種族的特徴・特性や、男女による身体構造などの差なども『かなり』しっかりと記されていたし、どの様にして子孫を残していくのか などの部分も生物学的見解に基づいた内容が記されていた。

 そうしてどの様に為され、どう成し創られ、やがて形を成して行き、産まれて行くかなどの所から始まり、産まれた直後や、ツノの成長や形状の多様さ、変遷、成体になるまでやなった後、老いて死に行くまで……


 兎にも角にも、俺は 夢中になって本を読んで、結局、一ページ目から読み直して読み耽るに至り……

 さらには歴史学教書の方にもその手は伸びたので有った……


……


「んがぁ……かはぅ……んぐかぁ……んふぅ……いへ……」

「……んぉぅ……やっべ、朝かよ……」


 何と 徹夜してしまった。

 其れに気づいたのも、あの朝に鳴くご存知の鳥類の声で、だ。 そう、コケコッコーと鳴く鶏の声。いや、鶏自体は居るのは知ってる、昨日に見たし鳴き声も聞いた。何なら牛も居たし羊も居たんだから俺は大層に驚かされたよ。まぁちょっと違う所も有ったし名前なんかは全然違うけどよ、おおよそ其の様な動物達が居たのは、見たし知ってる。

 で  その鶏のあの鳴き声に、朝だ、と気付かされたんだなぁ。

 不思議なのは、朝と、そして徹夜してしまったんだと気づいた瞬間に眠気が襲ってくる事だろうか。「ぅふぁ〜〜あ っと やべ ねみぃ……」 盛大な、あくび。


 因みに隣で色々教えてくれて居たデルカさんはと言うと、何時からか机に突っ伏して眠って居て、たまに寝言もモニャモニャと呟き、あのケモノ耳も時折にピクピクと動く。

……何と言うか 寝顔は殊更に幼く見えるものだな。大人に対して言う事では無いが、かわいい顔だ。


 俺は、眠いが既に朝であるし、その上寝床も無いので眠気を飛ばそうと背伸びをした。丸めて居た背中が少し痛むが、其れも何だか懐かしい感覚だ。

 さらに『因み』を付け加えると、昨日から何度か行った おトイレ、何だか見慣れた光景で有りましたぜ。

 いやぁ、なんて言うか、俺は元々日本人だったから少し心配して居たんだけど、遜色無かったわ。水洗だし、便座あったかいし、紙も溶けるし。電気がある事にも驚きだけど、元いた世界の日本と大差ない技術力あるのが何よりも驚いたわ。

 んー、このご都合主義、万歳。

 と言うより、何処の世界でもある程度 文明が栄えている場合、人が自然な欲求に対して求める物は、変わらないのだなぁ と、今ならそう言えるわ、これ。

 

 そんな訳で、気づいた途端にやってくる朝イチの尿意も良く清掃されている綺麗なトイレで開放させた俺は、眠気からかぼけっとする頭と眼を放って広い場所で軽く体を動かしてから机に戻り、どこかぼーっとしている頭のままに生物学教書を開いて適当に流し読む。

「まぁ……何つーか、人間と比べても同じ所は同じで、でも割と違うと言えば違うのは、けっこう面白いなぁ〜。歴史もかなりある癖して同種族間での戦争と言う戦争が二、三回程度しか起きてないのも地味にすげ〜し……」


「……考えや価値観が異なるってだけで互いに啀み合ったり攻撃し合うのってすごく馬鹿らしいし、何より俺らにはガグズって言う共通の絶対敵が居るから、争い合ってる場合じゃないんだよねぇ」

「びっくりっす」

「へへ、おはよう、ノクァ」 

「おはようございます、デルカさん」

 

 誰に向けるでもなく呟いて居た言葉に、何時の間にか起きて居たらしい彼が のぼ〜 っとした声色でそう返して来たのに少しだけ驚いたが、その後の挨拶にきちんと挨拶は返す。此方を向いて見つめてくるその瞳は優しく、同時に寝ぼけ眼でもあった。

「へへ ごめんね、途中で寝ちゃった」

 その謝罪に俺は即座に『別に構わない』との旨を返して本を閉じて積み置き、改めて背伸びしながら、生活の行動についてどうするかを聞いた。

 なんせよく考えたら昨晩の夕食後は、教えて貰うのと本を読むのに夢中になってお風呂も入るのを忘れてしまったのだから。

「どうします? 俺、朝めし 作ってみてもいいですか? あ その前に風呂かな……」

「あ〜 夢中になっちゃったから風呂入るの忘れったね……あっ! そうだ!」

 この人は寝起きでも良い事を思い付いたのか、眠そうだった顔を一気に閃きの良い笑顔に変えて、提案して来た。

「共用の露天温泉、行こう! その後に宿屋で朝ごはん! いわゆる外食ってやつ!」

「……あぁ いいっすねぇ そうしましょう!」

 

 そんな訳で、お勉強は一旦さて置いて、俺とデルカさんは体を清める為に村の共用温泉へと、足を伸ばしたのであったとさ。


……


 その道中、俺は朝の村の中を歩み、時折に皆と挨拶を交わしながら、様々と思う。

 あの教書が正しければ、俺は再び似た様な道を歩んで行けるのではないか、と。

 もちろん前提として、この身体と種族としての文化に慣れて、馴染み、其れを当たり前の事として受け入れて生きて行かなければならないのだが。

 しかし

 そんな前提など、些細な事だ。

 俺は 一度死んで、この世界に於ける “喰らい、生きる側” に転生したのだから。

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