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87話 新しく生まれる緊張なのですぅ

 ダンテの隣に現れた城門クラスの精霊門をツヴァイは憎々しく見つめる。


「この肌がひりつく感じは……四大精霊クラスを召喚する門か」

「さすが、ユウイチさんの素養が良いのか、やはり気付きますか?」


 ダンテがジッと見つめて言ってくる言葉、雄一と比べる発言にツヴァイは苛立ちを見せ、唾を吐き捨てる。


 同じように見ていたアリア達もまさか精霊門を召喚すると思っていなかったので驚きを隠せない。


 ニカッと歯を見せる笑みを浮かべ、両手を天に突き上げるレイアが叫ぶ。


「おおっ! ついにポロネ復活かぁ!」

「ポロネ……初代精霊王と人の子の間に生まれた女だったか……やべぇな」


 迷いを見せるツヴァイに特に変化を見せないダンテが話しかけてくる。


「ツヴァイ、確かに貴方は僕達全員よりずっと強い。しかし、四大精霊と渡り合える程に強いのかな?」

「ちぃぃ!」


 舌打ちをするツヴァイは先程捨てた折られた青竜刀を見つめ、「得物すらねぇとは分が悪すぎるか……」と拳を握り締める。


 退くべきか、退かざるべきかと悩むツヴァイを見てダンテがゆっくりと両手を広げる。


 すると、僅かに門が軋むような音と共に門が僅かに揺れる。


「やりますか? 確かにツヴァイであれば門が開き切る前に僕を殺せるでしょう。それが分かってるのにこんな近くで精霊門を召喚した。分かりますよね?」

「……てめぇが開門出来るだけの魔力を送ったら勝手に開くってカラクリだと言いたいのかよ」


 そこで初めて微笑を浮かべるダンテに吐き出すように「俺に脅迫とはいい度胸だ」と悪態をツヴァイが吐く。


 目を細めるツヴァイと微笑を浮かべるダンテと静かな駆け引き、視線を逸らしたら負けるといった緊迫感がその場を支配する。


 それは傍で見ていたアリア達にも伝播し、握る手に汗が滲み出す。


 いつまで続く? と2人が放つプレッシャーに圧されて呼吸を荒くしていたアリア達。


 まるで永遠のように感じるアリア達であるが実際は1分程度しか経ってない。


 すると、ツヴァイが口角を鋭く上げ、迷いを捨てたように自分の中にあるリミッターを解除したと見てるアリア達がはっきりと分かるオーラの強さと大きさに目を丸くする。


 そこから噴き出る力が風を生み、その暴風と言って差し支えのない力にアリア達は吹き飛ばされそうになるが必死に踏み止まる。


 ダンテは綺麗な金髪がその暴風を受けて後ろに流れはするが変わらぬ姿でツヴァイを静かに見つめ続けていた。


「やってやらぁ! 四大精霊だろうが精霊王だろうが召喚してみやがれ!」

「……本当にいいんだね?」


 広げていた両手に力を込めると再び、門が軋むような音を鳴らすのをツヴァイだけでなくアリア達も見守り生唾を飲み込む。


 ダンテとツヴァイの間に生まれる緊張感がマックスになろうとした時、場違いな声が響き渡る。


「ちょっと待ったぁ!!」


 男の声が響き渡る。


 その声はダンテやヒースのものではなく、もっと野太い男の声であった。


 声の発生源にみんなの視線が集まると木の枝の上に立つ、似合いもしないのにカウボーイハットで目元を隠し、片目だけ覗かせてツヴァイを見る男、というよりオッサンという表記が正しいハッサンの姿がそこにあった。


 明らかに邪魔されて苛立ちを隠さないツヴァイがハッサンを睨みつける。


「誰だ、おっさん」

「俺はおっさんではない! トレジャーハンターのハッサン。39歳、アラサ―さっ!!」


 歯を輝かせてサムズアップして「決まった……」と悦に入り無精ひげを撫でて嬉しそうにする。


 30秒、無駄にした、と言いたげな顔をしたツヴァイがハッサンから視線を外してダンテを見つめ直す。


「いくぞ、ガキエルフ……!」

「だから、待てというのに!!」


 呼び掛けてくるハッサンを無視しようとしたツヴァイの視線の端で木の上から飛び、ツヴァイの方向に向かうのに気付いて渋々、顔を向ける。


 ハッサンは空中で一回転、いや、勢いが付いていたのか一回転では済まずにでかい顔から地面に着地した。


 まるで顔で地面を耕すようにして滑るハッサンを呆れた顔で見つめるツヴァイが嘆息していると半泣きのハッサンが顔を向けてくる。


「い、痛くない……だって、ハッサンさんは若い、アラサ―だからっ!!」


 そう叫んだと同時に見栄も恥じらいもなく泣き出すハッサンにツヴァイだけでなくアリア達も疲れたように溜息を洩らし、レイアなどは気が抜けたのかその場に座り込む。


 何とも言えなさそうな顔をしたツヴァイが苛立ちげに鼻を鳴らし、頭を掻き毟る。


「ちっ! やる気が削がれた。ヤメだ、ヤメ」


 無警戒に背を向けたツヴァイが首だけで振り返り、ダンテの足下に目を向ける。


「次にやり合う時にはそんな無様を晒すなよ、ガキエルフ……いや、ダンテだったか?」

「……」


 そう言われても表情を変えないダンテに鼻で笑うようにするが好意的に取れる笑みを浮かべるツヴァイの姿が掻き消える。


 ツヴァイの姿が本当に消えたのかと辺りを見渡すダンテが本当にいなさそうだと判断したと同時に制御していた精霊門を解除してその場に膝から崩れるように座り込む。


「あ、危なかった……」

「凄いよ、ダンテ! いつの間に精霊門を単独で召喚出来るようになったんだい!?」


 ツヴァイとの緊迫する空気から話しかける事が出来なかったヒースがダンテに駆け寄る。


 同じようにやってきたアリア達、ミュウはレイアに肩を借りながらではあるが集合する。


 自分を見つめてくるアリア達に弱った笑みを浮かべるダンテは漸く落ち付けたのか安堵のため息を吐いて情けない内情を吐露する。


「あはは……土の訓練所での覚醒と精霊感応がある程度、復活したからかろうじて精霊門を召喚できたのだけど……実は四大精霊クラスを使役するのは勿論、門を開ける事すら出来ないんだよ」

「はあぁぁ!?」

「そうじゃないかと思ってたの。確か、ダンテが精霊門なら単独で召喚出来るかもしれないとは言ってたの」

「ダンテ、ツヴァイと向き合ってる時、涼しい顔をしてた。でも、心の色はグチャグチャだった」


 驚いた声を上げるレイアと隣にいるミュウとヒースは目をパチクリさせる。


 アリアとスゥはお互い違う理由からダンテのハッタリだと気付いていたようだ。


 参ったな、と苦笑いするダンテはとりあえず笑うしかないと腹を括る。


 すると、意気揚々と歩いてくるハッサンの姿をダンテは捉える。


「おう! 無事で何よりだ」

「あっ、はい。有難うございます。正直、精霊門のハッタリでツヴァイを退かせようと思っていたのに失敗してどうしようかと思っていたので」


 頭を下げるダンテに「照れるな」と顔を朱に染めて照れ隠しに帽子で顔を隠そうとするが当然のように隠しきれない。


 アリア達にも称賛を浴びるのを眺めていたダンテはあの絶妙な間で割って入ってくれたハッサンに感謝していると引っ掛かりを感じた。


 何気なくアリア達に煽てられるハッサンを見ているとある事に目を見開く。


 1つの疑念が生まれると次々に新たな疑念が沸き上がるダンテはハッサンを視界から外して考え込む。


 確かに絶妙な間で割って入ってくれた。


 その間を読み切ったのではなく、偶然だったとしても腑に落ちない事があった。


 ツヴァイと睨み合うダンテとの間には凄まじいプレッシャーがあり、アリア達、無駄に強気を発揮するレイアですら口を挟む事が出来なかった。


 なのに、どうしてハッサンはあのタイミングでダンテ達に自己紹介したノリで話せたのだろう、と考えを巡らせる。


 アリア達に質問しても只の馬鹿だから? と答えを返しそうだが、馬鹿だろうがあの場の空気で生きるか死ぬかを感じたはずだというのがダンテの考えであった。


「良し! こんな場所にいたら、またアイツが戻ってきたら面倒だ。とりあえず、祠に入ってみよう。ハッサン隊長に着いてこい!」

「馬鹿じゃねぇーの?」

「まあ、ツヴァイが戻ってきたら目も当てられないのも本当なの」


 そう言いながらハッサンに着いていくアリア達を追うようにダンテも立ち上がり、その後ろを歩く。


 先頭にいるハッサンの後ろ姿を見つめるダンテが呟く。


「全体的に土汚れがある。間違いなく顔から地面に落ちたはずなのに……」


 ダンテはハッサンが顔から落ちて抉れている地面に目を向け、難しい顔になるのを必死に堪えた。


 自分の行動に不審に思うモノがいないかとサッと目を走らせ、そっとハッサンを見るダンテは、やはりおかしいと内心、動揺する。


 あれだけ激しく地面を抉るようにしたのだから顔に怪我がないのがおかし過ぎる。


 一度、解いて疲労感が激しい体をムチ打ってダンテは緊張状態を復帰させながら歩く。


「まだまだ油断させてくれないようだ」


 ダンテは言い知れない緊張感に耐えながら最後尾を歩いて祠へと向かった。

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