71話 扱いに文句がある3名がここにいるのですぅ
ダンガの北に行った先の森の最奥部にある泉にダンテの姿があった。
「久しぶりにきたな……2年、ううん、タイミング悪い時にペーシア王国に行く事になって来れなくなったから3年になるのかな」
雄一にヒースを仲間に入れてやっていきたいと言ったレイアが雄一の安い挑発に乗ってしまい、コミュニティの力を使えない状態でペーシア王国で活動するように言われた時の事を思い出し苦笑する。
「はぁ……『のーひっと』でミレーヌさんに言われた事……3年経っても身に出来てなかったな」
3年、掃除してなかった事で汚れた水の精霊の神像に付いた苔を取り除き、泉の水で濡らした布で磨きながら思い出す。
「ダンテ君は、目が届く情報、他人から聞かされた情報を処理するのは良く出来てると思うわ。でも逆に目が届かない情報はまったく把握していないわ」
そう言われて視野を広くする事を意識付けするようにしてたつもりだったが年数が経ち、ついつい目の前だけの情報だけを優先するようになっていた。
いや、ダンテは今回に限っては目の前、自分自身にある解答すらからも目を逸らしていた。
水の精霊の神像を磨き終えたダンテはその隣にある人が座れる程度の大きさの石が3つ並んでいる右端の石を目を細めて撫でる。
ここはダンテが精神集中する時に座らされた言わば、ダンテ専用の石であった。
その隣にある石2つを見つめるとそこに座らされてた2人を思い出す。
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「ねぇ、レン? どうして精霊である私が精神を鍛えるのですか? 意味ないと思うんですけど……」
「私はもっと意味ないですぅ! 私は精霊でもないし、女神なのですぅ!」
ブツブツ言うシホーヌとアクアが目の前の長い銀髪を無造作に後ろに流し、場違いな感じがする白衣姿で紙煙草を咥えて見下ろすレン。
見下ろすレンの凄みに息を飲む2人に告げる。
「アンタ等のは精神修養よ。少しはマシになるといいな、と思ってやってる折檻」
「今、折檻って言ったのですぅ!」
「れ、レン? こんな事しなくても大丈夫ですよ? 明日から頑張りますから!」
必死に訴えるが目で黙らされる2人は静かに涙を流す。
だが、すぐに立ち直ると「飽きたのですぅ!」や「お尻が痛いです……」などと騒ぎだすのに呆れたレンが1人、真面目に精神集中をするダンテに言う。
「ダンテ、アレは絶対は見習っては駄目ですよ?」
「あはは……頑張ります。もっと精神を鍛えて水魔法を高めます」
レンの言葉に答えるダンテが「せっかく水の加護を貰えて、一番の武器を遊ばせてるのは勿体無いですし」と笑うのを見てレンが首を傾げる。
「あのね、ダンテ。貴方の一番の武器、ううん、一番優れている所はそんなくだらないものじゃないわよ?」
「えっ? そんなのがあるのですか?」
そう言ってくるダンテに、もう駄目ねえ? と言いたげなお姉さんのような笑みを浮かべ、ダンテの周りを指差しつつ覗き込んでくる。
「貴方が一番優れているのは……」
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「僕は大事な事を忘れていた。目を逸らしていた……訓練所に才能を揺り動かされた時からなんとなく感じていた事」
開いてなかった土の才能というパスが開かれた時、閉ざされたパスが揺らぐのに感覚的にダンテは感じていた。
それまでは強固に閉ざされていたがぐらつきを感じさせていた。
「確かにリアナのように弱点を補うのも大事な事だと思う。でも、それは自分の良さを引き出した上で連携させる事が一番大事だと僕は考える」
石の上で座禅を組むダンテは昔のように精神集中を始める。
昔の感覚を取り戻そうとするダンテの周りに魔力の奔流が起きる。
「やっぱりここは魔力が増幅しやすい。僕がやろうとしてる事が一番だと思ったのは間違いなかった」
座禅を組むダンテはリアナに手も足も出せずに敗北し、悔しい気持ちと戦いながらもミレーヌの言葉を思い出し、教訓とは口だけで理解出来る事は限界があるな、と悔しげに唇を噛み締める。
ミレーヌに言われた見えない所の情報の処理、今回で言うなら訓練所で開花した才能で強くなった気がしたが『ホウライ』相手に何が出来ただろうかと自問自答する。
必死に死なないように凌いだだけだ。
この後、他の訓練所に廻ったら漠然と何とかなるとダンテは思ってたのではないかとリアナの1件で真剣に考えさせられた。
その結果、予測ではあるが他の3か所を廻って才能開花があったとして、そのままではリアナに同じようにやられると判断できた。
「僕は逃げていた! でも、もう逃げない。1度、失ったから怖いと情けない言ってしまっても、次、同じ事があろうとも、その度にまた手繰り寄せてみせる!」
魔力の奔流が激しさを増すダンテはレンが言ったセリフをもう一度思い出す。
「貴方が一番優れているのは精霊と友達になれることよ?」
錆ついた蓋を揺さぶって開けるとばかりに魔力を練るダンテは高らかに叫ぶ。
「僕は失った友達を取り戻す! アリア、レイア、スゥ、ミュウ……そして、ヒース! 僕達もまた一緒の時間を取り戻そう。君達は僕の友達でもあり、もう居場所なんだ!」
静かに目を瞑るダンテは周りに漂う濃い精霊の力に耳を傾けるように集中を続けた。
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山を疾走するピンクの塊、ミュウが息を切らしながら走っていた。
どうやら考えても分からないから、とりあえず走っているようだ。
しかし、いくら体力自慢のミュウですら一昼夜を全力に近い速度で走り続けた結果、もつれた足が木の根っこに引っかかって転ぶと弾丸のように吹っ飛ぶ。
一度、止まってしまった瞬間、疲労のし過ぎで体の自由がきかない事に気付くミュウ。
地面に叩きつけられる覚悟をしたミュウを嘲笑うように突き抜けた木々の先は何もなかった。
「がぅ……ヤバい」
そこは断崖絶壁の底が暗くて見えない程の高さに身を踊らされた。
慌てたミュウが生活魔法の風を行使して逃げようとするが体は満足に動かず、生活魔法も不発する。
死を予感したミュウの体にロープが巻き付き、滑降を止められる。。
「危なっかしいヤツだな、間一髪だったぞ?」
その言葉と同時に一気に引き上げられたミュウは地面に叩きつけらるように帰還する。
巻き付けられたロープを引っ張るだけで解かれたミュウは目の前の黒装束の男を見つめる。
「お前、誰?」
「まずは礼だろう? 礼も言えない育て方をされたのか?」
そう言われたミュウは眉間に皺を寄せると震える体で立ち上がると黒装束の両手を取って大袈裟に上下に振ってみせる。
「ありがとう、ありがとう! しっかり教わった。ミュウが馬鹿なだけ」
亡き父母と雄一を自分の行動で蔑まれるのは耐えれないと、悪いのは自分だと強調する。
そんなミュウの様子に肩を竦める黒装束。
「すまない、知っていて言った。少し躾をするつもりだったんだが劇的な効果があって少し面喰った」
まだ手を上下させるミュウに止めるように言う黒装束は自己紹介を始める。
「俺の名はシャオロン。ある者にお前、ミュウを鍛えて欲しいと言われて、しばらく前から様子を見ていた」
だから、リアナの一件も知っていると告げる黒装束、シャオロンは少し目を離したら崖にミュウがダイブしていたのはビックリしたと小さく口許に笑みを作った。
どうしたらいいか分からなくなっていたミュウは見栄もなくあっさりと言う。
「どうしたらいい?」
「躊躇いなしか……見込みありというところだな。まあいい、あの娘に考えて行動しろと言われていたが獣人には半分ハズレで半分アタリだ」
基本、頭を使うのを不得手なミュウはガゥゥと唸るとシャオロンを見つめる。
「どういう事? 分からない」
「獣人の一番の強みは野生のカンだ。だが、未熟者ほど野生に引っ張られ過ぎて自分を見失う。だから、中途半端に野生に頼らず突き抜けさせ、野生に飲み込まれずに思考出来るように武器として扱えるようにする」
「そんな事出来る訳ない」
そう言ってくるミュウを見てシャオロンは目元だけ見せていた巻かれていた布を剥いでいく。
そこから現れたのは黒毛の頭頂部にある耳と口許には犬歯が見えた。
マジマジと見つめるミュウに苦笑するシャオロンは再び、布を巻きつける。
「俺も獣人だから信じろ」
「どうして、また顔を隠す?」
「お前と同じで希少種で、気付かれるとお前以上に面倒事になるんでな?」
巻き終えたシャオロンがミュウを見つめる。
「どちらにせよ、出来ない限り、お前は皆の下へ帰れないのじゃないのか?」
「がぅ……分かった、ミュウ、シャオロン信じる」
一瞬、迷いを見せるがアリア達の下に戻るという想いに押されてミュウは力強く頷く。
ミュウの決意を受け取った、と頷くシャオロンは「着いてこい」と走り出す。
走り出したシャオロンに並走するミュウは質問する。
「誰に頼まれた?」
「……30過ぎても『お兄さん』と思ってる馬鹿野郎だ」
唯一、露出してる目が優しげにするシャオロンを見つめるミュウは「ふーん」と適当に頷くのを見てシャオロンは布越しでも分かる口許に笑みを作る。
お喋りはここまでとお互い頷き合うと速度を上げて山の奥へと姿を消した。
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