66話 暴君復活なのですぅ
病院から帰って来て早めの昼飯を食べた後、昼寝したら母親に起こされました。
窓から差し込む太陽はなく、真っ暗で時計を見れば18時過ぎ……
「俺の6時間はどこに?」
そう言う俺に母親が人差し指と中指を合わせて伸ばした状態で額に充ててピッと振って見せる。
「太陽が食っちまった。アンタも飯を食いな」
どうしてだろう、色々、負けた気分にさせられました(泣)
ヘロヘロになったアリア達がザガン入りしたと同時にポプリが手配した船に文字通りホーラに蹴り入れられ、出航する運びになった。
説明らしい説明もなく、出航されたアリア達が事情を聞かせて貰おうとピーチク騒ぐ小鳥のようにホーラとポプリの周りに集まる。
「ホーラ姉! またヒースがいなくなったんだ! すぐにザガンに戻ろう!」
「うっさい、黙れ!」
文句や苦情を上げる妹、弟が集まる中で一番殴り易い位置にいたレイアが問答無用に頬を躊躇なく殴られる。
さすがにいきなり殴られるとは思ってなかったアリア達は絶句し、レイアは頬を抑えて屈みこみ、声なき悲鳴を上げる。
手をプラプラと振りながら眉を寄せるホーラがしゃがむレイアに言う。
「手が痛くなったさ。どうしてくれる?」
「えっと、それは殴った人が言うセリフなの?」
恐る恐るホーラに告げるスゥであったが「ああん?」と威圧するホーラから目を逸らして「何でもないの」と掌を返す。
屈んでたレイアであったが、さすがの打たれ強さを発揮して飛び上がるとガクガクと震えながらもヒースへの想いが勝ったようで暴君、姉のホーラに訴える。
「ほ、ホーラ姉! お願い、ヒースを捜しに行かせて!」
必死に訴えてくるレイアを見つめるホーラは鼻を鳴らすと同時に足下が疎かになっているレイアに足払いをかけてコカすと背中を踏んで抑えつける。
「捜しに行く必要はないさ。ほっとくさ」
「でもぉ! げふぅ」
口答えしようとしたレイアの背中を更に強く踏みつけるホーラ。
ジタバタするレイアに嘆息するホーラは告げる。
「最後まで聞くさ。アタイは今回の事で少しあのガキを見直したさ。今まで逃げてたのなら、あの場にアンタ等がいた時点で姿を晦ましたはずさ。でも……」
「そう、出てきてアタシ達を助けて……痛い痛い、黙りますから乗らないでぇ!」
全体重を載せてきたホーラにギブアップするレイアの背をトドメと言わんばかりに踏み抜いて静かになったレイアを見ながら片足に戻す。
「あのガキはこちらに関わる気はある意志表示はしたさ。でも、まだ今の強さに満足してない。見立て違いじゃなければ少なくともアンタ等よりは確実に腕を上げてたさ」
そう言うホーラはアリア達の背後にいるテツに目を向けると静かに頷くのを見てその目の前のアリア達を見渡す。
「まだ強くなれると思ったのは自分の判断か、鍛えてるヤツかは分からないが男が覚悟を決めてやろうっていうなら黙ってやらせてやるといいさ」
「でも……次、会った時、ヒースがアタシ達を仲間と思わないかも……」
しょんぼりするレイアが両手の人差し指をツンツンさせて泣き事を言うのを黙らせるように踏んでる足を振り上げて叩きつけるようにしようとする。
足を外して貰えたと思ったレイアが見上げた事で振り下ろされると気付き、転がって脱出するのを口の端を上げてホーラは笑みを作る。
「アンタ達が出会って4年。それはどうでもいい時間だったかい? 信じてやりな、あのガキを。そして一緒に過ごした時をね」
アリア達に背を向けるホーラはポプリにマサムネから聞き出した内容の説明を任せ、一歩、船尾に向けると首だけで振り返る。
「デンの妹、リアナだったさ? アンタに話があるさ。着いてきな」
黙って頷くリアナはホーラの背を追うように向かうのを見送るダンテがテツに近づき、テツにだけ聞こえるように呟く。
「ホーラさん、どうしたんですか? 行動がストレートに……元々、手も早いし無茶を言う人でしたが……なんというか余裕があるというか?」
まるで別人のように言うダンテにクスリと笑うテツ。
「ユウイチさんの偽者を見た後だから思ってしまうのかもしれないけど、俺、ポプリさんが知るホーラ姉さんはあんな感じだったよ」
むしろ、アリア達に触れ合いや雄一がいなくなってからのホーラの姿がテツ達には無理しているように見えた。
雄一がいた頃は姉として振る舞おうと見栄を張っていたし、いなくなってからは姉であると同時に雄一の代わりをしなくてはと肩肘を張っていたとテツは思う。
その張り詰めてた時に現れた偽者を見て爆発してしまった。
ホーラとてテツと年が1つしか違わない。
雄一に縋りたいと思って責められる謂れはテツはないと思っていた。
「やっぱり俺はまだ頼りになると思われるほどの男じゃないという事か……」
「えっ? 何か言いましたか?」
近くにいたダンテですら聞き逃すような声音で呟いたテツは「何でもない」と微笑を浮かべて首を横に振る。
聞きたそうにするダンテの背を押して「ポプリさんの説明をしっかり聞かなきゃ?」とテツが笑いかける。
テツが話してくれる気がないと理解したダンテは少し不満そうにしつつも頷くとテツと共にポプリの説明に耳を傾け始めた。
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リアナを連れたホーラが人気のない船尾にやってくると振り返り、リアナと向き合う。
「さて、アタイは廻りくどい話は嫌いさ。単刀直入に聞くからサクサク答えな」
覚悟が決まったような表情でジッとホーラを見つめるリアナを目を細めて見つめる。
「何故、アタイ等と行動を一緒しようとしてるさ? 目的をキリキリ吐け」
「……ユウイチ様からお聞きしてた憧れのテツ兄様、そしてお姉様達と御一緒したいと……」
硬い笑みで答えるリアナ。
何故ならリアナを見つめるホーラが目を更に細めて込める威圧が高まり、余裕を見せられない為であった。
どんどん強まるホーラの威圧に降参するように頭を垂れるリアナを見て威圧をかけるのを止めるホーラ。
ホッと安堵の溜息を吐くリアナに先を促す。
「嘘は申したつもりはありません。しかし……」
「分かった、分かった。そこはどうでもいいさ。それでも理由がそれだけでは動機として弱いさ。アンタは仮にも一国の王女さ」
そう言うホーラは「まあ、そうは言っても王女という立場はやりようでは好き勝手出来るようだけどね?」と皮肉を言って先程、口応えをしようとした赤髪の少女を思い出す。
肩を竦めるホーラにクスッと笑うリアナ。
「王女だけでなく女王もやりようのようですね?」
「まったくさ。この世の王族はやりたい放題さ?」
笑みを浮かべ合う2人であったが、すぐに真顔になる2人。
「そろそろ聞かせてくれるかい?」
「私も初めに話すのはホーラ姉様が良いと思っておりました。説明というよりお願いになってしまいますが……」
自分を指差すホーラが「アタイにかい?」と言われ、リアナはホーラを見上げる。
「陸に上がってからで構いません。あの子達と手合わせさせて貰えませんか?」
「へぇ?」
真摯にホーラを見つめてくるリアナをホーラは好意的な笑みを浮かべて見つめ返した。
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