幕間 不利な勝負ほど指し手は輝く
双子の親で伏線張ったと言った通り、隠す意味がほとんどありませんので答え同然の内容の幕間です。
ですが、敢えて伏線から目を逸らして読んでいるという方は読まない方がいいかもしれません。
その辺りは自己判断でお願いします。
答え合わせする方は自分の考えと照らし合わせてみてね?
窓にブラインドを付けた薄暗い部屋でオールバックの金髪の男が黒髪の少年少女から報告を受けていた。
「報告は以上になります」
「ありがとうねぇ。疲れただろうから今日は帰ってくれていいよ?」
黒髪の少年の報告を受けた金髪の男は軽薄に感じるが一応ねぎらいらしい言葉をかけてくる。
それに黒髪の少女が眉尻を上げる。
「ほとんど毎日、追跡調査させられたうえに通常業務までを1年続けさせて、夕方になろうという時間から帰って満足しろっていうの!」
黒髪の少女に突っ込まれた金髪の男は痛い所を突かれた、とばかりに額を叩いてみせる。
「本当なら後追いじゃなく、常時観察がいいんだけど、子供達だけならともかくホーラちゃんやテツ君に気取られずに観察するのは至難の業なんだよ?」
フットワークの軽い2人しか頼めないから分かってよ? とウィンクして、お茶目さんを気取る金髪の男を気持ち悪そうに見つめる黒髪の少女。
「気持ちワル。それと『アタァ~』って感じで額叩くの止めてよね。本当にオジサンとしか思えないから」
金髪の男は呼吸が止まったような顔をするとそのまま項垂れていき、額をデスクにぶつける。
さすがに心臓に毛が生えてると認識してる上司でも傷ついたかもしれないと思った黒髪の少年が黒髪の少女を諭す。
「駄目だよ! さすがに言い過ぎだからね? すいません、僕が後で言って聞かしておきますので」
ペコペコ謝る黒髪の少年は「それでは失礼します」というと金髪の男はその体勢で手だけ上げて振ってみせる。
プリプリと怒る黒髪の少女の背を押しながら出ていく黒髪の少年。
扉が閉まり、黒髪の少女の声が聞こえなくなったと同時にクスクスと笑う声が響く。
声の主を見つめると痩身の眼鏡をかけた男が金髪の男を見つめていた。
「貴方もついにこちら側ですか? 歓迎しますよ」
「いえいえ、俺は31です。まだまだ若いんでオジサンじゃないと思うんですがね」
「初耳ですね。31歳はオジサンじゃなかったんですね」
笑った痩身の男と別の死んだ魚のような目をするエルフの男が茶化すように言ってくるのをゲンナリとする金髪の男。
「年がどうかじゃなくて見た目年齢で勝負ってやつじゃないですか?」
金髪の男は足掻くように言うのをオジサンと言われる事にピクリとも傷つかない2人に笑われる。
確かに40という年で子供を助ける時に「お兄さんが助けてあげる」という強者がいる以上、金髪の男にはまだ猶予があるのかもしれない。
見透かされてるのを感じる金髪の男が項垂れる。
それを見て笑みを濃くする2人は「遊ぶのはこれぐらいにしておきましょう」というのを見て、とほほ、と呟く金髪の男に「そういう所がオジサンと言われるのです」と言われて撃沈する。
マジ泣きしてるのではないかと思われる金髪の男からブラインド越しから外を眺めるエルフの男。
「やっと重い腰を上げる気になったようですね。ああ見えて、ホーラは良く言えば慎重ですがビビりな所もあるので時間がかかりましたね」
嘆息するエルフの男は「昔から変わらない、虚勢を張る事でしか他人と接しられない所は」と呟き、初めて出会った小汚く心技体だけでなく、魔力も乏しい少女の姿を思い出す。
それでも、ただただ必死で自分が間違ってると思う事をしたくない、と叫んでいるような少女、ホーラをどうにかしてやりたいと常々思って日々を思い出す。
そして、雄一と出会い、色々満たされたが、なんだかんだと根っこの部分はそうそう変わる訳でないらしい。
「そうですね、確かに全体で見れば良い事をしててくれたのですが、なかなか私達がして欲しいと思う事に近寄ろうとしなかったので苦労させられたものです」
例えば、カラシルに雇われていた海賊がホーラ達が想定する以上に愚かで無能であった。
これでもか、と言わんばかりの脱獄の手筈を整えられていたのに逃亡に失敗しそうになったのをフォローしたりもした。
「あそこの悪人の討伐依頼は他国と比べて多過ぎて目に付かせる為にガンツに動いて貰いましたよ」
肩を竦める痩身の男は溜息を零す。
そう、余りに多い依頼で注目して欲しいカラシル絡みの海賊の依頼をホーラ達に集中させる為に纏めて手渡された依頼書の中に入れたり、2度目の時はガンツが普通の冒険者を装い「この依頼の相手、前にもなかったか?」とサラサにアピールして意識付けをした。
更に重要なポイントだが、ホーラやサラサは気付いてないようだが、カラシル側のアプローチで脱獄させ、看守達になんらかの影響を及ぼせるのに依頼が出てた謎である。
「この依頼人を調べる気にあの2人がなっていたら完全に隠せたかは微妙なところですね」
そう、2度の依頼も全て、この痩身の男が依頼したものである。
当然な話だ。
手駒に使う海賊に依頼を出す相手をカラシルから依頼されて援助してた者達が見逃したりしない。
当然、国内の者であれば懐柔、もしくは始末してくるだろう。
当たり前のように刺客を放たれていたが逆に罠にかけて掴まえて情報を引き出し済みである。
だが、ホーラ達にそういう手は使えないので、仲介は挟んで仲介にも偽名を使うという手は取ってはいたが、ホーラとテツが本気で調べたら状況証拠ぐらいは掴んだかもしれない。
微笑を浮かべるエルフの男は頷く。
「おそらく調べない。それが貴方が出した結論通りです。予定通りですよ」
「まったく」
楽しそうに笑い合うお互いが認め合った2人である。ある男で遊ぶ事を誓いあった仲であった。
金髪の男が漸く立ち直ったようでムクリと起きるとヘラッとした笑みを浮かべる。
「それはそうとホーラちゃん達、だいぶビックリしたんじゃないですかね? あの水龍を見て?」
「そうですね、正直、ダンテなら気付いてくれるのでは? と期待したのですが過剰な信頼だったようですね」
「さすがにそれは酷な話ですよ、我が友よ。ダンテは新年祭に間に合ってませんから」
エルフの男に諭された痩身の男は、フム、と頷いてみせる。
「つまり、みんなの知ってる事を共有すれば気付けたかもしれない事に気付けてない。弟子は師に似る、それともカエルの子はカエルでしょうか?」
「いやぁ~あれは情報だけでは難しいんじゃないですかねぇ? 共有出来ても現場で見てないと?」
さすがに12歳の少年にそこまでの期待は重いと思う金髪の男は珍しく擁護に廻る。
そういうものか、と納得した痩身の男は次の議題を口にする。
「次はどう出ます?」
聞きながら見渡すと金髪の男が手を上げる。
「あの若きヤンチャな女王が『いつでもいける出番がまだか!』と頻繁に催促が来るんですが、どうにかして貰えませんかね?」
「どうにもなりませんよ。それ以前に、あの国はいつでも他人任せにできる段階に達してません。それは彼女も重々に承知しているはずなので、貴方で鬱憤を晴らしたいだけでしょ?」
痩身の男に言われて「いや、分かってるんで、なんとか黙らせる方法を……」と金髪の男が言うが、サラッと流されてデスクの上にあるチェスを弄るエルフの男を見つめる。
エルフの男は痩身の男とチェスを指すように対面に置く。
そして、キングを持ち上げ、話し始める。
「私達の相手のキングは間違いなく半神半人の『ホウライ』でしょう。では、こちら側のキングは?」
そう言うエルフの男が見つめる痩身の男もキングの駒を持ち上げるとデスクに座る金髪の男を見つめると肩を竦め、報告書のある名前を指差す。
自嘲するような笑みを浮かべ合う3人は嘆息する。
「酷く見劣りするキングですね……ですが!」
「ええ、ウチのキングはポーンとビショップと心を通わせる事で力を発揮します」
「とはいえ、地力が足らなさ過ぎるけどねぇ」
痩身の男は、キングとビショップとポーンの駒を寄せる。
「それも今後の展開次第でしょう。人とは強くなりたい理由と覚悟があれば、いくらでも強くなれます。ホーラやテツのように」
「最初から見てた訳じゃないですが、確かにテツ君は特にそう感じますねぇ」
「ですが、このキングはホーラやテツにあったものがない、そこで指し手として打つ手はこれです」
チェスの盤外にトランプのカードのジョーカーを置く痩身の男。
なるほど、と頷くエルフの男と対照的に金髪の男は極悪人を見るような目で見る。
「チェスをしてるのに勝手にトランプルールを入れるんですか? 卑怯臭いなぁ」
「私はチェスをしてるつもりはありませんし、勝てば官軍ですよ?」
シレっと言う痩身の男が怖いと体を縮めてみせる金髪の男であるが怖がってるとは2人も思っていない。
「ジョーカー、ワイルドカードですね。ですが、投入するタイミングは今ではない」
「ええ、ホーラ達はこれからザガンに向かうはずです。そこできっと困る事になるでしょう。なので……」
痩身の男はトランプのJのダイヤとハートのカードを2人に並べてみせる。
ほう、と感心するエルフの男と納得とばかりに頷く金髪の男。
「扱いが難しいですが、彼女達に行って貰いましょう。現状、3カ国でこちら側に居るモノで彼女達以上の逸材はいないでしょうしね」
そう言って痩身の男は眼鏡を指で押し上げて肩を揺らして笑う。
笑う痩身の男に気付いたエルフの男が「どうしましたか?」と問いかける。
「いえね、始めは彼に生涯最後の大勝負とベットしたのはナイファ国だけの話だと思っていれば、他国にも広がり最後には4カ国を巻き込んだものになりました。そして、今は世界を飛び越えて並列世界全部に及ぼす勝負をしているんだな、と思いましてね」
「怖いですか? 降りたいですか?」
微笑みを浮かべるエルフの男が言うが言ってる本人にも返ってくる言葉は分かっていた。
「まさか、ここで降ろされたら気が狂いますよ。結末を見るまではね」
「勿論、勝利する結末ですよね?」
当然です、とウィンクしてお茶目に笑う痩身の男にエルフの男は優しい笑みを浮かべる。
2人並んで部屋の外へと歩き出す。
「全てに置いてこちらが不利ですが、引っ繰り返して見せましょう」
「ええ、私達が指し手をする以上、負けはありません」
自信を漲らせる背を見る金髪の男はボソッと呟く。
「だったら、俺は自信ないんで、通常業務だけでいいかな?」
割と本当に聞こえないように絞られた声であったが、2人が最高のアクマの笑みを浮かべて言ってくる。
「「却下♪」」
「ですよねぇ!」
金髪の男を半泣きにさせる事に満足したアクマな2人は嬉しげに金髪の男の部屋を後にした。
彼等の戦いの盤上にホーラ達がついに上がる。
感想や誤字がありましたら、気楽に感想欄にお願いします。




