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異形の塔  作者: 紅龍
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直感

門番から貰った中古のランタン。その情報に、心の何処かが囁く。此れを使えと、そして、その後に鮮烈なイメージ。

燃え盛る爆炎と、逃げ惑うゴブリンの姿。そのイメージに添うように、手にした『鈍』を振り上げ、ランタンに穴を開ける。開け放たれた穴からは、具象石の結晶が覗き、淡い光を灯す。

門番としても、破壊される為に渡した訳ではなかろうし、行為を踏みにじる事になるだろうが、此れしか無い。

サンゴは決断を下し、咆哮を上げ、再度『鈍』を具象石へと叩き込む。

「っくうぁああああああああ!」

精神力の過剰供給、それをなす方法としては、此れが的確だと『直感』が行動を促した。

元来、具象武器は精神力を糧に力を放つ。それは、サンゴの『鈍』とて同様。具象武器を一時的な回路となし、

精神力を供給する。だが、当然生半可な訳も無く、ガリガリとサンゴの精神を削っていく。

次第にふらつく体に曖昧な視界。近づく気配と、悪臭に『冷静』スキルが抗う中、『鑑定』スキルが解を導いた。

〔過剰供給確認。具象石は、安定状態より変異〕

端的ではあったが、待っていた結果に、サンゴは『鈍』を引き抜き、ランタンを掲げる。

ランタンは最後の輝きとばかりに灯を灯し、サンゴの姿をゴブリン達へと焼き付けた。

『ギャッギャァア! ギョウギョウ!』

同胞を殺した者の顔に、怒りを再燃させたのか、ゴブリン達は咆え、寄り一層怒りを浮かべ、サンゴへと駆ける。

だが、それも想定内。『鑑定』スキルと『直感』の命じるまま、煌々と光を放つランタンを掲げる。

(まだか・・・まだか!)と、焦る気持ちを『冷静』が掻き消す中、『鑑定』と『直感』が、叫びを上げる。

『目を閉じろ』と。

今、生かされているのは、この力のお陰、ならば迷う必要などあろう筈も無く、瞳を閉じ、手で顔を覆う。

それと同じくして、閉じた瞳にすら光を感じる程の閃光が放たれた。

日の光を浴びる者と、暗がりに生きる者。人と怪物。ならば、此れほどの閃光は、瞳を焼くには十二分。


『―――ッギャァアアアアアア!』と、怪物達は悲鳴を上げ、手にした武器を振り回す。

だが、そんな事をすれば、末路として、

『ッギィイイ! ギッィイイ―――』と、同士討ちの末、断末魔を漏らし、屍を晒すのは当然の事。

閃光による未知の体験と、突然の痛みに混乱は更に加速し、周囲に血の雨を降らせる。

今はまだ、失われた視界で右往左往しているが、いずれ混乱は収束し、その怒りをサンゴに目がける事は明白。

ならばと、頭の片隅でカウントを刻む『鑑定』の声に従い、手にしたランタンを敵の中枢へと投げ放つ。

ランタンは、カランと衝撃音を立てて、二度三度跳ねては、ゴブリン達の間を縫い、部隊の中枢へと至る。

目の見えぬゴブリン達も、音をサンゴと判断し、死に物狂いで、ランタン目掛けて突撃を開始する。

それは、まるで死に往く者の群れ。痛み、恐怖、殺意が混然一体となり、敵を殺すべく突撃する。

だが、そんな道化芝居の一幕も、関係ないと『鑑定』スキルはカウントを進める。

〔五・・・四・・・三・・・二・・・〕

『ッギャガァアア!』

「っ!」

〔・・・・零〕

サンゴは『直感』に従い、衝撃に備え手で顔を覆う。それと同時に巻き起こる爆音。

遮った視界に尚も侵入する光の奔流。爆発に全ての音は掻き消え、衝撃に仰け反ろうとする体を押さえ耐え凌ぐ。

「っう・・・!」

バタバタと吹きすさぶ風と、圧倒的な血の匂い。気持ちの悪さに吐き気を催す。しかし、今はそれどころでは無い。

風が止み、馬鹿になった聴覚に音が戻ったのを確認し、目を開く。そして、その光景に終わりを見た。

「・・・・勝った?」

いや、勝ったなどという言葉は過小な言葉か、それは勝ち負けと言うよりも、殲滅という言葉が的確。

サンゴを殺そうと迫ったゴブリンの軍団、その全ては奇策によって大敗し、醜い死骸を地に横たえた。

騙まし討ちによる奇襲、そしてランタンを用いた爆殺。終わってみれば一方的な虐殺劇に、気を吐いた。

だが、この方法でしか、生き残れなかった事は『直感』が告げていた。

それ以外の方法では、今頃サンゴは腹の中。こうして悩む間すらなかっただろう。

だから、迷う必要は無いのだと『冷静』は心の平静を論理的に保つ。

一体自分に何が起こっているのか? それを知る方法は『ステータス』にしか無いと、再度開き絶句する。

〔ゴブリン68体討伐。レベル2より、9へとステータス向上。新規スキル『直感』『鑑定』『初級戦闘技術』『罠師』『策略家』『???』を獲得〕

と、見た事も無い情報が羅列されていた。

「何ですか・・・これ?」

六業の村では、幾ら狩っても2より上がる事の無かったレベルが、一瞬にして9まで上がり、『冷静』『交渉』を加え、8個ものスキルを覚えるなど異常に過ぎた。だが、この力に救われた事も事実。

肯定するしか無い現実に折り合いをつけ、身につけた力を武器に、この塔より抜け出すしか無いのだと覚悟を決める。

改めて周囲を見渡すが、薄ぼんやりとした視界では、遠くが見渡せる訳も無く、2,3メートル程の視界を切り進むしか無いのだと認識を改める。そして、この塔には、他者を生かす為に進化した異形の怪物が生息している事。

殺すという事に特化した怪物の巣である事を再度理解せねばならぬと心に誓う。

複数人で行動すれば、助かる事柄も、ソロでは命取り。もし、地雷鼠でも不注意に踏み抜こうものならそこで終わり。

後は、動けぬサンゴは怪物達に食われて終わる。背筋を這い上がるそうした恐怖を『冷静』が打ち消さねば、

今頃、この場でただ、立ち尽くすだけで命を終えていただろう。そう思うと、先に『冷静』を覚えたのは僥倖か。

こんな自分にも幸運はあるのだと知り、皮肉にも笑いが漏れた。

空元気の様な自傷気味な笑いではあったが、笑いは笑いか、ゴブリンの血肉を漁らんと、迫る気配に対し、

次の戦いへの備えと、携行食糧を一つ口に放り込み、決意と共に噛み砕く。

「生き抜いてみせる!」


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