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異形の塔  作者: 紅龍
13/16

発現

「・・・ふぅ・・・」

一端、危機を脱した事で、張り詰めた糸が切れたのか、溜息を漏らす。

しかし、結果として危機は去っておらず、身につけた衣服は血まみれ。他に着る物が無いとなれば、冷え冷えとした寒さ故に、脱ぐ事も出来ず、ゴブリンに狙われる事は、目に見えていた。

ならば、戦闘に為る前に何が出来るのか? その事を知らねばならぬと、現在の装備と状況を探る。先ずは、状態確認と、ゴブリンの血を浴びた事による変化を危惧し、『ステータス』を開く。

それは、何時も見慣れた『ステータス』の項目。村の誰よりも劣り、蔑まれる原因。

見るたびに、自身の矮小さを自覚する、残酷な現実。この世界において、人は、自身の力を数値として判断する事が出来た。それは、一見有益に見えたが、己の限界を知り、絶望する切っ掛けともなる。戦闘による経験において、同じ年の者が、力をつけたというのに、サンゴの能力は平均以下。伸びぬ者に用は無いと、切り捨てられるのも当然と言えた。

心の傷とも言える『ステータス』画面を何処か希薄となった視界が捉え、必要な情報を確認すべく、思考と思いを切り離す。

(・・・状態異常は無し・・・怪我も無い、なら問題は―――?)

状態異常も無く、『ステータス』を閉じようとしたその時、項目の端に、何やら見慣れぬ矢印の点滅に気づく。今まで見た事も無い表示の為、一瞬躊躇い、意を決して指で払う。

「・・・スキル・・・?」

それは、ジョルドの話に出ていた『スキル』の項目。

スキルを持たぬサンゴにとって、見知らぬのも無理からぬ事。

そして、スキルの頁が追加されたという事は、スキルを身につけたという事。

本来であれば、鼓動は高鳴り、胸躍らせる事態に身につけたスキルが効果を発揮する。

「・・『冷静』と、『交渉』?」

サンゴの見つめるスキルの項目。そこに書かれた『冷静』と『交渉』二つの文字。

その二つを結びつけるのは、フルドとの会話か? あれだけで身につけたとは、信じ難い。だが、だがそれ以外無かろうと、何処か『冷静』に判断する。

フルドとの会話。その途中より、自分が自分で無いような感覚に捉われていた。

恐らく、その時よりスキルは発現していたのだろう。

脱出への糸口としては、か細い希望ではあったが、それこそが大事なのだときっとシキは語る。

ならば、生き抜く糧とするべく、行動を開始する。

自身の現状は把握した。ならば、次は装備の確認。ジョルドより渡されたリュックを開くと、内容物を調べる。

「回復剤、簡易食糧が数点・・・それに、麻のコートが一つ」

この様な事態を想定した物ではないだろうが、ジョルドの好意をあり難く受け取りコートを被る。

此れだけで匂いを遮る事は不可能。しかし、垂れ流す匂いを防ぐには役に立つ。

「後は・・・門番さんから貰った『ランタン』と、僕の武器・・・『(なまくら)』」

スキルを手にし、何か変化があるかとも思ったが、手にした小太刀は何も変らず黒い刃を光らせる。幼少の頃より何の力も発現せず大人達より『鈍』と名づけられた己の半身。

その刀身に視線を落とし、困難を乗り越える決意を咆える。

「・・・僕とお前で見返してやろう」

サンゴの声に『鈍』は何処か鈍く光を放った様にも思えた。


『・・・ギャガァアアア!』

だが、塔の怪物達にとっては、生き抜く決意など、何の意味もない。

ただ食らい殺すのだと怪物の咆哮は告げていた。

『冷静』スキルを覚えていなければ、咆哮に当てられて、無様に逃げ惑っていた事だろう。

その点では、フルドが原因とは言え、彼との会話は有益と言えた。

ゴブリンの咆哮は、周囲の壁を反響し正確に位置を測る事が困難。

ならばと、音の出所を探る為、耳に手をやり一方向の音を探る。

顔を左右に振る中で一箇所、音の空白地帯を見つけ出す。

集団で狩りをするゴブリン。なら、この音の切れ目は、包囲の切れ目と当たりをつけ、コートを翻し、全力で駆ける。

足音が、濡れた地面を叩く中、ゴブリン達の包囲も狭まる。

『ギャガガッガガ!』

運悪く近くに居たのか、一匹のゴブリンが、槍を手に攻撃を繰り出す。

「っく・・・!」

ゴブリンの槍をフードで絡めると、右手で払う。

『ギャ!?』

身につけた『冷静』スキルの恩恵か、ゴブリンが持つ槍を見て、脅威では無いと判断した結果であった。そうして最小の行動で防いだ恩恵か、何が起こったのか理解出来ず、呆気に取られる怪物に対し体を詰め、『鈍』で喉を掻き切る。

『・・・ガッフガ・・』

次第に力を無くし、崩れ落ちる様を眺める事なく駆ける。

背後で何かが崩れる音と共に、怒りの声が上がったが、この距離ならば問題無いと速度を増す。

風を切り走る中、突然の異臭に嫌な予感を覚え足を止める。

その予感は正解だったか、眼前の地面が突如として爆ぜた。

異臭と共に爆ぜたのは、何かの肉片。バラバラと散る中に、獣の様な欠片を見つけ、足を止める。

「・・・地雷ネズミ!?」

それは六業の村でも何度か見かけた異形の獣。

体内に含む微量の具象石を爆発力とし、爆裂する天然の地雷。

己が命を賭してまで、敵を殺す殺戮衝動。多数を生かす為に、死に往く怪物に、人々は恐れ、

地雷ネズミと名をつけた。地雷ネズミの巣は天然の地雷原、ならばこそゴブリンも立ち入らず、

空白地帯となっていたのだろうと、今更ながら理解する。

ゴブリンにとっては庭とでも言う様に、周囲の気配は狭まり、狩りの予感に、

『ギャギャギャ!』

と、笑いが起こる。


「・・・やられた」

退路は断たれ、進む先にはゴブリンの軍団。ゴブリンからすれば時は味方、このまま包囲網が完成すれば、死は免れない。ならばこそ、今動くべきだと何かが訴える。

薄暗い視界の中、パシャパシャと音を響かせ迫る者達。

そして、怪物の肩越しに見えるのは、ゴブリンの上位種『ゴブリンの統率者』

迫る死の予感に、冷や汗を流し生き残る方策を思考する。

(後ろは地雷、前はゴブリン・・・・如何する、如何する? 何か、何か・・・)

自身の持つ物を順番に思い浮かべては、消し、思い浮かべては消していく。

そうした内に、手が自然と『ランタン』を掴む。

一瞬痺れる感覚と共に、『ステータス』とは違う情報が浮かび上がる。

〔具象石ランタン 動力として、使用者の精神力を使用。経年劣化による異常あり。過剰供給による爆発の危険性〕


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