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異形の塔  作者: 紅龍
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狂人

一瞬の浮遊感を感じ、目を開けた先には、先程とは比べ物にならぬ死の気配。

所々に蠢く、怪物の殺気と、鉄臭さ。何が起こったのかと、フルドを見るが、

煩わしいと、手を振り解き、サンゴを片手で投げ飛ばす。

「っぐ・・・! 痛っ・・・こ、此処は何処ですか?」

見知らぬ光景に、先ず得る者は、情報であると、理性が告げる。

「此処か? 此処は、七階層と呼ばれる場所さ」

「七階層・・・?」

(さっき迄いたのが、一階層だとすると、六つ上?)

二階層が出発だと、シキが言っていた事を思い出す。

塔に来た事も始めてであるサンゴにとって、七階層と呼ばれるこの場所は死地。

そして、フルドが此処へと連れて来た理由はそこにあるのだろうと、理解する。

周囲に満ちる気配と、眼前の脅威であるフルドより距離を開け、手を腰にやり、長年の相棒である具象武器を握る。

「おう? 小僧のわりにやる気じゃねえか! だが警戒するのは悪くねぇ。簡単に言うなら、俺はお前の敵だからな」

「何故こんな事を?」

「っくはははははは! 何故!? 何故だと? そんなもん楽しいからに決まってんだろ!?」

フルドはそう言うと、腰に佩いた長剣を抜き、一閃。

『ギャガァアア!』

六業の村でも馴染みの怪物。ゴブリンと呼ばれる者が、血を噴き悲鳴を上げて、大地に伏せる。

サンゴには知覚できぬ剣速で振るわれた長剣は、背後に忍び寄る怪物を切り捨てた。

ギリアムに軽くあしらわれた事から、多少軽く見えていたが、それはギリアムが強すぎた為。

サンゴとフルドの間には、明確な力の差が見て取れた。

押し込めた恐怖は、顔を出し、手にした小太刀型具象武器『(なまくら)』を揺らす。

ガチガチと耳障りな音の中、フルドは心地よい音色とばかりに、笑みを増し、己が怒りの源泉を噴出する。

「お前だけが・・・お前だけが楽をする何て事が許される訳がねえ! 死の恐怖に向き合い、死ぬ思いの果てに命を掴む。塔はそんな世界だ! なのに、お前は何も奪われず、それどころか、得てさえいる! そんな幸運、俺には無かった! 今でさえ『パーティー』にも入れずこの様よ」

笑っているのか、泣いているのか? 自分ですら分からぬとばかりに顔を歪め怨嗟を吐く。


ゴブリンを切り伏せた一撃より、己との力の差は明白。ならば逃げるしか無いと思考するが、

未知の領域に、不安が広がる。しかし、フルドにとっては既知の領域。

一歩一歩と、得物を追い詰める様に、揺らり揺らりと体を揺らし、距離を詰める。

「ああ、そうだ・・・。良い事を教えてやる」

「・・・良い事?」

最悪な状況で良い事も無いが、状況を一変させる為ならと、意識を割く。

「これは俺にとっては遊びで、初めてじゃないって事さ・・・」

フルドがそう宣言すると、狂気に彩られた表情が、更に凄惨に凄みを増す。

それは殺人者であるという宣言。今尚、彼が生きているという事は、悪行が世に知られていないという事。そして、サンゴもその死者の列に加わるのだという宣告。

「それと、俺から距離をとるのも正解だ。力の差も分からず、掛かってくる愚か者はそこで落第失格。この世とおさらば、石となれってな! まぁ、それまでよ」

何とも身勝手な判断基準。塔に登る素養を勝手に判断し、断じる狂人。

だが、その行為は、自己の正当性を高める行為。どこかで矛盾を感じていても、それを大義名分として、罪悪感を曖昧にさせる原因か。

「なぁ? 俺って凄いだろ? 役に立たねえ奴等を狩る役目。みんなが嫌がってる事をやってやろうと、思った訳よ! ふひゃ! はぁはははははあああぁ!」

誰もそんな役目など欲してはいない。ただの悪行、人殺し。

最早、理性は蕩け、腐った土壌に歪な花を咲き散らす。

殺したいから殺すと公言する度胸も無く、弱者をいたぶる、略奪者と化していた。

「っひひひひぃ! さてさて、楽しくなってきた。だがまだまだ気は緩めるな、ゲームは此れからさ」

フルドより漏れた『ゲーム』という言葉に、サンゴは希望を見出す。

もし、此れが遊戯の類と認識ならば、自ずとルールも発生する筈なのだから。

「・・・フルドさん、これがゲームなら、ルールがあるのでは?」

不正解ならば、機嫌を損ねて首は舞う。ギリギリの問いだが、効果はあったか、狂気に濁った瞳より、一筋の理性が浮かび上がる。

「ル・・ルール・・・。ああ、それもそうだな。確かにそうだ! 此れはゲーム、ならばルールが存在する。そう! ルールだ! くっかかかかか! 小僧っ! 中々頭を使うじゃねえか!」

生死の最中、燃え上がる命がある様に、逆に冷静になる者も居る。

不幸中の幸いと言うべきか、如何やらサンゴは後者であったか、震えは止まり、思考は鋭さを増す。しかし、依然として力の差は歴然となれば、此処より無いと命を賭ける。

「そうだな・・・。俺の後ろには下へ降りる階段がある。このまま下へ降りていけばさっきの場所へ戻れるが、それじゃぁ楽しくねえ。それで一つ提案だがよ、お前には上に上ってもらう」

上に上るなどそれこそ死ねと言っている様なものだと、サンゴも肩を落とすが、フルドの続く言葉に、ゲームなのだと理解する。

「まぁ、そう落胆するなよ。此処は七階層、一つ教えてやるさ、十階層には『転移門』がある」

「・・・つまり、そこまで到達すれば?」

「そう・・・ゲームクリアだ。 くっはははは!」

そこまで語ると、瞳は狂気に染まり、堪えきれぬと、死したゴブリンを切り刻む。

これ以上の会話は、邪魔とばかりの行動に命の危機を感じ、後方へと飛び退る。

そして、その行動は正解だったか、サンゴの軌跡を振り払う様に、フルドが長剣を振るう。

振るわれた長剣より飛び散った血飛沫は、二度三度とサンゴを濡らした。

「っふひひひ! 避けた気だろうが、甘え甘え。お前も知ってんだろうが、ゴブリンは仇を許さねえ。さて、ゴブリンの血で濡れたお前を見たらどう思うかなぁ? っひひひひ!」

最早、人としてのたがも外れたか、壊れた様に剣を振り回し、新たに現れたゴブリン達を切り捨て、暴虐の嵐と化した。

「さぁ、逃げろ、逃げろ!」

恐怖で竦むであろう事態にも、何処か客観視するかの様に、落ち着いた鼓動。

自身の事ながら、不可思議な現象に、疑問を抱きつつ、生存の道を得るため、その場から脱する。



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