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異形の塔  作者: 紅龍
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悪戯

「・・・それにしても、態々(わざわざ)、シキと、名乗る事になろうとは・・・」

偶々か、考えた上か? 奇策と呼ぶには余りに出鱈目。しかし、サンゴにも考えがあったか、

「昔、ニナ姉さんに言われたんです。木を隠すなら森の中? 灯台下暗し? まさかと思う程、ばれずらいって」と、直感とも取れる理由を述べた。

「まぁ、助けられたと納得します」

知らぬ者と、知る者の語らいか、何時の間にやら白熱し、気づいた頃には、門の前。


「―――次!」

と、門番の叱責を含んだ声に、慌てて手形へ手をかざす。

過ぎ去る者とは違う電子音に、門番は訝しげに睨みつける。

「・・・む!? お前達は初めてか?」

「え、えっと・・・」

悩めば怪しまれる為、サンゴを遮り前へ出る。

「ええ、初めてです」

自分でも意外な程自然な守るという行動に、気恥ずかしさも感じ、顔を赤らめる。

そんな二人の姿に、思う処もあったのか、門番は一つ笑うと、腰から何やら引き抜いた。

「ふむ・・・ならば、お節介とは思うが、此れをやろう」

そう言って好々爺の如き、人の良さそうな笑みを浮かべ、使い古されたランタンを押し付けた。

突然の事に、何が何だか訳が分からぬと、悩む二人の背を押すと、

「生きて帰れよ!」と、送り出す。

サンゴとシキに出来たのは、『ありがとう!』と、述べるのみ。

簡易ゲートを越えた先には、薄暗い闇が広がっていた。



外とは違う、湿り気を帯びた空気と死の気配。

死の匂いとでも言うべきか、微かな腐臭と、血の匂い。

此処が死地であり、外とは違うのだと、明示する様に、景色が告げる。

「・・・・此処が、塔なんですね」

きっと独りでは、こんな感慨も抱く余裕は無く、不安と、恐怖に逃げ惑っていたに違い無い。

命を繋ぐ頼みの綱は蔑まれた具象武器。ならば、結末は誰の目にも明らか。

自然と、心細さに寒気を感じ、小刻みに震えた。

「怖いのは私も同じです」

シキはそう言うと、サンゴの震える手を握る。人とは違う冷たい手だが、心の熱に、震えは止まる。だが一転し、消えた不安と入れ替わり、羞恥が顔を出す。

「・・・ごめんなさい」

不甲斐無さに漏れるのは謝罪の言葉。しかし、恐れは当然の事。恐れなくして、この塔では生を掴む事はできない。ならば、それこそが重要なのだと、伝えるべく口を開く。

「いえ、それこそが重要です。死を恐れ、生を掴むその行為。それを無くせば、ただの死にたがり。周囲を警戒し、一歩一歩と進むその心こそが重要なのです」

そう言うと、手を引き前へ進む。繋いだ手は、謝罪は要らぬとばかりに、握り締められた。

他の者達と追従し、暫く進んだ頃、塔の中央と思しき場所へと到達する。

冒険者が目指す場所はこの場所か? 東西南北に設えた簡易ゲートより人は集い、一塊。

此処には、強者も弱者も関係無く、各々の旅立ちの場所となる様で、中央にある幾何学模様へと足を踏み入れるなり、ゲートと同じ操作にて、人の姿が消えていく。

「・・・な、なんですかこれ?」

初めて見るならば、仕方ないと、他の者も愉しく笑い合う。きっと、彼等も最初の冒険を思い出したか、苦々しい者も居たが、一様に好意的。初陣の手向けと、歴戦の『パーティー』が、お手本と、旅立って行く。

「まぁ、驚くのも無理はありません。此れは、塔が持つ機能の一つで、簡易的に『転移門』と呼ばれていました。塔の一階には、この転移装置があるだけで、怪物は現れません。初めて訪れた者は、便宜上二階と呼ばれる空間へと飛ばされます。その先からは、階段が生成されていて、登ることが出来ます。後々見ることもあるでしょうが、『中間地点』と呼ばれる場所や、到達地点を記録する場所など、様々です」

シキがサンゴという初心者の為、過去に得た塔の知識を語る。

本来であれば、死ぬ思いをし、知る情報。

六業の村ではニナを除いて、腫れ物と扱われていたサンゴにとってこの出会いは、奇跡そのもの。

これが、神と呼ばれる者の一時の悪戯であろうとも、心は満たされた。


「・・・行き成り如何しました? 鼻水を垂らして」

「な、なんでもないです! さ、さぁ! 行きましょう!」

サンゴは顔を赤くすると、『転移門』へと駆けて行く。恥ずかしさを誤魔化す行動であったが、

然もありなん。シキにも覚えがあったと、気恥ずかしさに鼻を掻く。

「初々しいと、言うべきでしょうか」

何事にも愉しげなサンゴを導かんと、歩む先に見知らぬ影が差す。


「よぉ・・・小僧」

「・・・・・・・」

サンゴにとっては知己の者。フルドと呼ばれ、ギリアムに窘められた者。

サンゴとシキの認識の間に忍び寄り、その者はサンゴと共に、消え去った。



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