塔下
「僕は一目で分かる弱者で、足手まといです。ですが、シキさんはそうじゃない。そして、塔に登るには、『パーティー』が必要らしいです。でも、僕が居たら、邪魔でしょうから」
サンゴはそう言って、微笑んだ。
この街へ着てから、何度人に救われたか。それこそが、弱さの現われ。
そして、先のフルドの様に、邪魔になる者は、旅立つことすら困難。
ならば、自ずと手を引くのは自身に出来る優しさであろう。
「・・・・弱い? そうです、その通り。貴方は心が弱いのです」
「・・・ええ・・・そう、で―――痛っ!」
諦めにも似た表情で、肯定するのを許すものかと、頭を小突く。
サンゴは痛みに飛び跳ね騒ぐが、その程度で、怒りは収まるものかと、にじり寄る。
「そうでしょう、痛いでしょう。でも、私も痛かったのだからお互い様です。それにもし、私が禁忌の兵器とばれたなら、色々と面倒なのです。ですから、貴方と共に歩むのは、狡賢い打算なのだと、理解なさい」
嬉しいやら痛いやらで、目元より、雫が零れ落ちる。
本当は、不安でしょうがなかった。でも、自分に出来る事は何なのか? そう考えた時、此れしか無いと思ってしまった。そして、今でもその決断に後悔は無い。
きっとそれは、誰の目からも明らかで、唯一正しい答えだったのだから。
「ほら、さっさと行きますよ?」
だが、そんな悩みは些細な事だと、笑いかける。
そんな光へ、手を伸ばす。
光は、手を取り、連れて行く。
僕を未知の世界へと・・・。
◆
「はぁ~~~。やっぱり大きいですね~~」
塔の入り口。開け放たれた、門の前でサンゴは上を仰ぎ見、声を漏らす。
「ほんとうに・・・」
シキにとってもちゃんと眺めたのは初めての事。改めてその異形にサンゴと同じく声を上げる。
「オイオイ、そんな処に立ってられたら邪魔なんだが?」
門の前は、冒険者達も通る道。その前で御上りとばかりに、見上げる二人。
歴戦の冒険者からすれば、邪魔者に、声を掛けるのも当然か。
道を開ける為に退いた先では、続々と、冒険者達が塔へと入る。
何時までも眺めていても変らない。ならば、我らも進もうかと、二人も列へと並び往く。
先程の受付と類似するシステムなのか、手形へと手を合わせる事で、冒険者は塔へと入って行く。
「所々に、昔の名残がありますね」
「そうなんですか?」
「ええ、あの簡易ゲートもその名残」
シキの眺める先では、塔への入塔を管理するシステムが、黙々と扉を開く。
「入る者と出る者を記録し、送っているのでしょう」
「へ~~~」
先程の受付へデータを送っているのか、はたまた、別の何処か? この国を管理する者達が分からぬ以上、詮索しても仕方ないと、皆に習い歩を進める。
「さて、そろそろ順番ですね」
日も陰り、周囲の景色は闇の中、されど塔は盛況と、順番を待つ中、二人の順番が訪れる。
「・・・暗くなっても人は多いんですね~?」
火を明かりと使う者として、気になったのか、サンゴが当然疑問を上げる。
シキにしても知るのは過去の光景。ならば、どう答えるかと、頭を捻るが、もしやと思い口を開く。
「・・・昔と変らないのなら、今も光が満ちているかもしれません」
「塔の中なのに、明るいんですか?」
何も知らぬサンゴにとっては、全てが新鮮か、子供らしく疑問を漏らす。
面倒事と、無下にするのは為にならぬと、昔の知識を漁って話す。
「多分、昔のナノマシンが未だに稼動してるのでしょう。ホタルの発光器を模した構造ですので、ぼんやりとした光ですが、多少の明かりにはなるのでしょう」
この世界では捨てられた知識。ただ明るいのだと思われた事実が語られ。
サンゴは既知となった未知の知識に目を輝かす。
暇を持て余した二人のやり取り。しかし、サンゴの知識になるならば悪くは無いか。
何処か、保護者めいた思いを胸に、独り密かに微笑んだ。
それは成長する子供を見るかの如く、微笑ましいが、今更ながら頭痛も感じる。