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14年目の永遠の誓い  作者: 真矢すみれ
番外編4 花火大会
42/42

花火大会 3

「じゃあ、そろそろ行って来るね」

 浴衣を着た志穂も交えて、リビングやベランダで何枚も写真を撮った後、オレたちはホテルの部屋を出た。

「暑いから、疲れたらすぐ戻るのよ? 無理しないように気を付けて楽しんでいらっしゃいね」

 ばあちゃんがハルに声をかける。

「はぁい」

 ハルが笑顔で答えている。

 じいちゃんはオレの方へ来ると、

「カナくん、頼んだよ」

 と一言。

「まかせて!」

 と胸を張ると、カメラを手渡された。

 あれ?

「今年買ったミラーレス。これなら、軽いし簡単だから」

 じいちゃんの趣味はハルの写真を撮ることだ。写真が趣味ではなく、ハルを撮るのが、ってところがポイント。

「すぐそこだし、邪魔にはならないだろう?」

 ハルをよろしく頼むよ、じゃなく、ハルが親友と露店を楽しむ姿をカメラに収めてきてねって意味の「頼むよ」か。

 まあ確かに、わざわざよろしくされなくてもハルのことはオレ、心底しっかり気を付けるしね。

 じいちゃんの愛嬌ある笑顔に思わず笑うが、ハルの浴衣姿は格別だ。自然な姿をカメラに収めたい気持ちは分かったので、

「了解。後でデータちょうだいね」

 と快諾。

「もちろん」

 じいちゃんも笑顔で答えてくれた。



    ☆   ☆   ☆



 まだ夕方の4時過ぎ。

 ホテルを一歩出るとムワッとした熱気に包まれた。これは、ハルには長くは無理だ。ピンポイントでやりたいことやって、サッサと戻るが良し、だ。

「ハル、何見たい?」

 オレがハルの手を取ると、志穂がまるでオレに対抗するかのようにハルの反対の手を取った。

「ねえ、陽菜、何か食べる?」

 ハルが困ったように、小首を傾げる。

 オレは、志穂対策に羽鳥先輩を呼ばなかったのを若干後悔。

 先輩がいれば、ダブルデートの体裁が整ったのに。

 ハルが歩きにくそうだったので、仕方なく、オレはハルの手を離した。

「しーちゃん、6時から、少し早めのお夕飯なの」

「あれ? 露店で買い食いじゃないの?」

「うん。……ごめんね。言ってなかったね。……えっと、和食なんだけど大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫。何でも食べられるよ」

 志穂は元気に答えた。

「でも、どこで食べるの? 部屋でお弁当?」

「ううん。ホテルの中のレストラン。美味しいよ?」

「ふふ。じゃあ、楽しみにしているね」

「うん」

 楽しそうに志穂と話すハルの髪飾りが風に揺れる。

 その笑顔が可愛くて、思わず手に持ったカメラで一枚。

 うん。やっぱり、コンデジやスマホに比べたら雲泥の差。写りがいい。

 ハルの可愛らしさがモニターに凝縮されている。

 これ、オレも買おうかな?

「じゃあさ、ご飯食べなくて良いんだったら、時間あるから射的とか金魚すくいとかして遊ぼっか」

 志穂は嬉しそうにハルの手を握り直して、露店を物色し始めた。

 花火開始にはまだ時間があるけど、川沿いの道路はもう人混みができている。

 明かりはまだ灯っていないけど提灯が揺れ、露店も色々出ていて、浴衣姿の人も多く、お祭り気分満載だ。

「陽菜、あれやろう!」

 志穂が射的を見つけてハルに声をかける。

 階段状の台の上に、ぬいぐるみやおもちゃ、お菓子が並べられていた。料金は5発で五百円。

「カナ、いい?」

「もちろん!」

 志穂が財布を出す横でハルも財布を出そうとするのを制して、横から支払ってしまう。

「え? 自分で出すよ?」

「いいのいいの」

「そうそう。彼氏が出してくれるってんなら、出してもらったら良いって」

 法被姿の威勢の良いお兄さんが、

「はい」

 と銃をハルに差し出す。

「ありがとう!」

 と横から銃を取り、改めて

「はい」

 ハルに渡すと、お兄さんはクスッと笑った。

「ありがとう」

 はにかみながらふわりと笑ったハルに

「どういたしまして」

 と満面の笑顔を返す。

「これ……重いね」

 射的の細長い銃を受け取るなり、銃身が震えて狙いが定まらないまま、ゆっくりと台に下された。

 どうしよう、と言いたげな困った顔のハルが可愛くてならない。

 そんなハルの向こうでは、やる気満々の志穂が、

「よしっ、あのお菓子狙いで!」

 と最初の一発を打っていた。

「ハルは何か欲しいものがあるの?」

「え、……特には」

「じゃあ、あのウサギのぬいぐるみね」

「え、うん」

 オレはカメラを台に置くと、ハルを後ろから抱え込むようにして銃を持ち上げた。

「カナ?」

「一緒に打つよ。……ほら、引き金引いてみて」

 戸惑うハルを促し、狙いをウサギのぬいぐるみに定める。

「打っていいよ」

 オレが再度促すとハルは引き金を引いた。

 パンッ

「惜しい! 当たったのに!」

 悔しがるオレの腕の中で、ハルは目を丸くしてウサギのぬいぐるみを見ていた。

「もう一発行こうか」

 オレはまた狙いを定める。

「ハル、いいよ」

 パンッ

「あっ!」

 ハルが小さく声を上げた。

「やったな」

 コロンとウサギのぬいぐるみが転がり落ちて、お店の人が

「おめでとう!」

 とオレたちの前にぬいぐるみを置いてくれた。


 

   ☆    ☆    ☆ 



 射的を終えて、再度ぶらぶらしていると、

「あれ? 広瀬!?」

 とどこかで聞いた声に呼び止められた。

 振り返ると、そこにいたのはTシャツにGパン姿のがっしりした長身の友人。

「斎藤?」

 一年で大分追いて、身長差は数センチだけど、身体つきでは叶わない。オレも鍛えているつもりだけど、どうにもガッシリとは筋肉が付かない。

 川沿いの遊歩道は結構な賑わいで、河川敷は場所取りのビニールシートやピクニックシートがギッシリ敷き詰められていた。

 川沿いでの花火大会だけに、店も長々と軒を連ねているし、花火見学のスポットも広い。

 そんな中、まさかの知り合いとの遭遇。

「なに、お前、浴衣なんか着て。……てか、似合うな」

「だろ?」

 オレが笑って言うと、斎藤はオレの隣のハルに気付いて、目を見開いた。

「……牧村!?」

 いつだって可愛いけど、今日は薄化粧までして、いつも以上に可愛いハル。

「こんにちは」

 ハルがはにかんでそう言うと、斎藤は何故か赤くなった。

「ああ、えーと、……こんにちは?」

 なんで疑問文だ、斎藤。

 心中突っ込んでいると、斎藤の連れがハルに気付いて騒ぎ出した。

「なに、拓斗。高校の友だち? ……って、うわっ、メチャクチャ可愛い」

「おい、紹介しろよ!」

 わらわらと出てきた男どもは、どいつもこいつも背が高い。そして、見覚えがない。

「斎藤、中学の友だち?」

「あ、そう。部活の」

 ってことはバスケ部か。でかいはずだ。

「ヤッホー! 斎藤くんも来てたんだね~」

 陽菜の向こうから、志穂も出てきて手を振ると、斎藤はまた目を点にした。

「え? なに? 寺本も浴衣!?」

「そうそう。どう? 似合う~?」

「……や、馬子にも衣装?」

 どっかで習ったその言葉、今使う!?

 オレがぷっと吹き出して、

「女の子に見えるよな?」

 と言うと、志穂が持っていた巾着をオレの頭、続けて斎藤の頭にぶつけた。

「失礼な」

「ってか、おまえ、浴衣着て暴力ふるうなって。だから、馬子にも……ああ、分かった! ごめんって!」

 オレの言葉に志穂が下駄を履いた足を持ち上げたもんだから、たまらない。

 慌てて謝ると、志穂は腰に手を当ててぷうっと頬を膨らませた。

 志穂もハルのばあちゃんに着付けてもらって、ついでに髪も可愛く結ってもらっていた。

 普段のボーイッシュな志穂から、この姿を想像するのは難しいだろう。

 オレからすると、普段のハルと浴衣姿のハルのギャップより、普段の志穂と今日の志穂のギャップの方が激しく大きい。

 思わずからかってしまったのも仕方ないだろう……と言いたかったが、オレたちの様子を横で見ていたハルは、オレの袖を引いた。

「カナ、女の子にそんな事言っちゃダメだよ?」

「……ゴメンナサイ」

 オレたちのやり取りを見て、斎藤の友人たちはプッと吹き出した。

「花火見に来たんだよな? 良かったら、うち来ない? 河川敷に早くから場所取りしてるから、結構良い場所だよ。綺麗に見えると思うけど」

 すかさずハルに声をかけるヤツ発見。

 オレはハルを後ろから抱え込んで、威嚇。

「あー、この子、あんたの彼女?」

「そ。だから、触らないでね?」

 にっこり笑うと、そいつはハハッと笑った。

「拓斗の友だちにしては、軽いよな?」

「いや、軽くないよ。オレの愛は地球より重いと思う」

 そう答えると、そいつだけじゃなく、斎藤の友人全員が吹き出し、斎藤は小さくため息を吐いた。

 笑いが収まると、斎藤は何人かからこづかれて、オレたちを誘う。

「あー、良かったら、ホントに来る? あいつが言った通り、場所は良いし、余裕あるから、3人くらい問題なく入れるけど」

 斎藤はオレに言うけど、あいつらが声をかけたいのは間違いなくハル、そして志穂だろう。

 どうやら男だけで来ているらしい。

「いや、オレたちも見る場所あるから」

「へえ、どこら辺?」

「あそこ」

 と、川辺にそびえるホテルを指さすと、斎藤が首を傾げた。

「あそこに一部屋取ってあって、バルコニーから見学」

 それを聞いた後ろの連中が、また騒ぐ。

「うっわー、リッチー」

「さすが、金持ち学校、やることが違うな」

 あまり好意的ではないコメントに、ハルがキュッとオレの腕を握った。

 大丈夫だよ、ハル。

「リッチだろ? 何しろ、じいちゃん、ばあちゃんのお供だからね」

 オレが笑って告げると、「あ、そういうこと」と、そいつらも得心がいったと言うように、表情を緩めた。

 別にケンカするつもりはない。

 確かに、電車で10分、車で20~30分、隣の市でやる花火大会にホテルの部屋取るのって、リッチなんだろうと思う。

 しかも、あえて言っていないけど、ホテルでも2部屋しかない広々としたバルコニー付きのスイートルームだ。

 宿泊客同士、屋上で見るプランもあるらしいけど、他人がいると落ち着かないだろう? ハルの具合が悪くなった時だって、すぐに休めるベッドがある方が都合が良いんだ。

 別にいいじゃん? 人それぞれだ。

「じゃ、斎藤、また」

「ああ、またな」

 オレの言葉に斎藤は手を上げた。

「ええ、拓斗、オレ、もっと話したんだけどー」

「ちゃんと紹介しろよ」

「また、今度な。そろそろ場所取り変わる時間だろ?」

「あ、ホントだ」

「じゃあ、またね。今度は名前教えてね?」

 と最初にハルに声をかけたヤツが、またハルに声をかけて、ハルが固まっている間に、斎藤に腕をひっつかまれて連行された。

 もちろん、今度なんてものはない予定。


 嵐が去った後、ハルがぽつんとつぶやいた。

「……元気だね」



    ☆   ☆   ☆



 ドドーンドドーンと迫力満点の音がして、暗くなった空には大輪の花が咲いた。

「うわあぁ~。きれ~」

 志穂が上を見上げてため息を吐いた。

 地上からも歓声が上がっている。

 ホテルの5階は高過ぎず低過ぎず。

 部屋の電気も消してあるから、程よい暗さの中、少し見上げる高さに花火が上がる。

 広々したバルコニーには椅子が5脚。

 間に置かれたテーブルには飲み物とちょっとしたおつまみ。

「きれいだね」

「うん。とっても」

 隣に手を伸ばして、ハルの手を握ると、ハルもキュッと握り返してくれた。

 ドンッドンッと勢いよく何発もの花火が上がる。

 ハルとオレにとっては2年ぶりの花火。



 時折、志穂がハルに話しかけたり、オレがハルに話しかけたり、じいちゃんとばあちゃんが何やら談笑していたり、そんな中で花火は何発も何発も上がり、空に大きな花を咲かせる。



 華やかな時はあっと言う間に流れ、気が付くとフィナーレの連弾とナイアガラの滝が空と川面を彩っていた。

 一発や二発の花火と違い、大量の花火が一気に上がり、暗い空と水面がグッと明るくなる。

「……きれい」

 地上から聞こえる歓声の中、ハルのつぶやきが漏れ聞こえた。

「ほんっとーーーにきれいだね」

 志穂がしみじみと真顔で言う。

 そうしてすべての花火が打ち上げられ、花火大会終了のアナウンスが聞こえて来た。



    ☆   ☆   ☆



「ハール。こんなところで寝たら、風邪引くよ」

 花火の後、交通規制が切れる十時から更に三十分後、ホテルの出入り口前で志穂をお母さんに引き渡した。

 泊って行けばいいのにと思うけど、「十時なんて宵の内でしょ」と言われると、ハルのじいちゃん、ばあちゃんと一緒と言うのは落ち着かないのかもと強くは誘いそびれた。

 そして、志穂を送って部屋に戻ると、さっきまでは眠そうながらも起きていたハルが、ソファでウトウト居眠りをしていた。

 オレの帰りを待っていたらしいばあちゃんが、ハルに声をかける。

「陽菜、お部屋に行きましょう?」

「……ん」

 普段は九時には寝るハル。

 今日も花火が終わった午後八時には、志穂がいるのにと遠慮するのを押し切って、先にお風呂に入れて、寝る準備は万端だった。

 それでも、志穂がいる間はと頑張って起きていた。

 昨日まで学校だったし、疲れていないはずがない。

「ばあちゃん、オレ、寝室まで運ぶから、起こさないであげて」

「歯磨きは……」

「大丈夫。終わってる!」

 オレが速攻で答えると、じいちゃんが「さすがだね、カナくん」と笑った。

「ハル。ベッドに行こうね」

 ハルの背に腕を回しながら、そう声をかけると、ハルは「ん」と身じろぎして、オレの胸に頭をもたせかけた。

 その仕草が可愛くて、思わず笑顔が漏れる。

「カナくん、こっちの部屋に運んでくれるかい?」

「はい。えっと、オレも同じ部屋でいい?」

 そう言うと、じいちゃんは目を丸くし、ばあちゃんが

「いい訳ないでしょう」

 と苦笑い。

「だよねー」

 そう答えながら、ツインルームの手前側のベッドにハルを寝かせる。

「今日は私が一緒に寝るわ」

 ばあちゃんはハルの布団をそっと直してから、ハルの髪を優しい手つきで整えた。

「ハル、体調悪そう?」

 この部屋は3ベッドルームだから、じいちゃんとばあちゃんが一部屋、ハルとオレが一人ずつ寝ても部屋は足りる。

 普段、一人で寝ているハル。

 だけど、体調が悪い時は必ず誰かが側で寝る。

 疲れてはいるけど、元気そうに見えたんだけど……。

「慣れない場所ですからね。夜中に目が覚めた時、お手洗いの場所も分からないと辛いでしょう?」

「そっか。でも、それじゃあ、ばあちゃんも眠れないんじゃ……?」

「年寄りは眠りが浅いから大丈夫ですよ。陽菜が起き出したら、多分パッと目が覚めるから」

 ばあちゃんはクスリと笑って、オレの背を押した。

「さあさあ、叶太さんもお風呂を済ませて寝なくてはね」

「待って待って、忘れもの。ハルにおやすみのキスをしなきゃ〜」

 ばあちゃんを振り切ってハルの元に屈み込む。

「ハル」

 起こさないように小さな声でハルを呼ぶ。

 いつもと違うホテルのベッドで、寝息を立ててハルは眠る。

 少し疲れているかな。顔色が今一つよくない気がする。

 だけど今日は、じいちゃんが一緒だから安心だ。ハルの病気のこともよく分かってるし、密かに診察道具一式を持ち込んでいる。

 ハルの額に手をやり、柔らかな髪の毛を避ける。そのまま、そっとハルのおでこにキスを落とした。

 うん。熱もない。

「おやすみ、ハル。ゆっくり休んでね。また明日」

 俺がハルにおやすみの挨拶をするのを、ばあちゃんは笑いながら待っていてくれた。

「本当に叶太さんは陽菜が好きね」

 一緒に部屋を出たところで、ばあちゃんは言った。

「もちろん! 心から愛してる」

「ええ、ええ。声からも表情からも溢れ出していますよ」

「ホント!?」

 思わず顔がにやける。

 ハルを大好きな事、隠す気なんてサラサラない。

 リビングで待っていたじいちゃんが、オレたちの話を小耳に挟んで小さく吹き出した。


(完)


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